各業界でビッグデータ活用が進んでいる。中でも、ビッグデータ分析技術として定評のある「Netezzaテクノロジー」を継承する、IBMのPureData System for Analytics」(以下、PDA)は、導入後すぐにビッグデータ利活用が可能になるデータウェアハウス・アプライアンスとして高性能とチューニングを必要としない簡易性が評価され、すでに国内で150社以上への導入実績を誇っているという。ここでは、PDAの数ある事例の中から、各業界でどのようなビッグデータ利活用が行われているのかご紹介しよう。
基幹システムのデータに眠るビジネス価値を引き出す
ビッグデータというと、ソーシャル・データをテキスト・マイニングして…、といイメージを持たれる方も多いと思うが、一般企業にとってより身近なのは、基幹システムのデータを利用するパターンだ。基幹システムのデータを分析してビジネスに活用するDWHやBIツールは、ビッグデータという言葉が登場する前から使われてきたが、高速かつ高度な分析を可能にする仕組みが登場したことで、そのビジネス価値は飛躍的に拡大した。例えば、丸一日かかるような分析はレポート作成のような定型的な用途にしか使えないが、それが5分に短縮されれば、より深い洞察を得るためのシミュレーション・ツールとして使えるようになる。
日本IBM
インフォメーション・マネージメント事業部
BigData/DWH事業
谷本 崇氏
超並列処理を可能にする独自のアーキテクチャで圧倒的な高速分析を可能にするIBMのNetezzaテクノロジーを活用したPDAは、そうした新時代の基幹データの利活用に最適なDWHアプライアンスだ。日本IBM インフォメーション・マネージメント事業部の谷本 崇氏は次のように語る。
「PDAの特長は、一切のチューニングなしでビッグデータの高速処理が可能なこと。基幹システムと異なり、DWHのような情報システムでは、さまざまな分析が自由に行えることが重要です。特定の分析方法を前提にチューニングを施したシステムでは、自由な分析は行えません。高度な分析を高速に処理するPDAは、量的な変化だけでなく、質的な変化もビジネスにもたらします」
導入事例に見るPureData System for Analytics(PDA)によるビジネス変革
それでは、PDAを導入した企業でどのようなビジネスの変化が生じたのか、主だった業界ごとに事例を見ていこう。
ケースA:オンラインショップ
キャンペーンの質・量を改善し、コンバージョンを10倍に
ファッション系オンラインショップのA社では、PDAをキャンペーン管理ソフトウェアの「IBM Unica Campaign(以下Unica)」と組み合わせて、プロモーションの効率化に役立てている。キャンペーンを設計する際には、商品データ、顧客データ、販売データなどを組み合わせて分析するが、PDAはその分析を高速化・緻密化するために使われているという。
「UnicaとPDAを組み合わせる事によってキャンペーン設計時間の短縮を実現し、導入後6カ月で60種類以上のキャンペーンを実施。より多くのデータを基に緻密な設計が可能になったことで、キャンペーンのコンバージョン(購買転換率)を最大10倍に向上させることに成功しています」(谷本氏)
ケースB:食品(飲料メーカー)
消費者までの流通データを分析し、販売チャネルを最適化
飲料メーカーのB社は、POSデータを分析して販売チャネルを最適化するためにPDAを導入。
「B社は、卸業者への販売データしか持っておらず、そこから先、どの商品がどのような経路で消費者の手にわたっているのか把握できていませんでした。PDAを導入してPOSデータを分析するとこで、エリア別や客層別の販売動向をつかみ、販売機会の損失を防ぐのに役立てています。また、導入当初は販売データだけでしたが、現在は在庫データや管理会計データもPDAに収容して横断的な分析も行い、生産管理等のビジネスの意思決定に活用されています」(谷本氏)
ケースC:製造業(精密機器メーカー)
サプライチェーンをグローバル統合し、課題の発見・解決を促進
精密機器メーカーのC社では、世界各国の製造拠点、支店に分散されていたDWHを、PDAを導入して日本の本社に集約。グローバルな視点でのサプライチェーンの管理、品質管理、生産管理が可能になったという。
「C社の場合、本社のPDAにDWHを集約したことで、課題の発見、解決策の実行と確認がほぼリアルタイムでできるようになり、納期も正確になりました。ただし、商慣習は国ごとに異なり、例えば在庫の扱い方ひとつにしても、新品在庫か中古在庫か、市場在庫か出荷前在庫かといった区分けが統一されていませんでした。そこで、データをクレンジングして共通のフォーマットに整えて、PDAに収容するかたちにしています」(谷本氏)
ケースD:医療系データベース・サービス
レセプト・データの分析を高速化して、サービス品質を向上
D社は、レセプト・データ(診療報酬明細書)のデータベースを基に、製薬会社や生命保険会社に情報分析サービスを提供する企業だ。例えば、製薬会社であれば、D社のサービスを利用して、自社の薬がどのような使われ方をしているか、ある病気の薬の市場規模がどれくらいかといったことを知ることができる。
「D社の場合、応答時間の長時間化が問題になっていました。レセプト・データに対する分析では、非常に複雑なクエリが発生します。元になるデータ数が数億件と非常に多いことに加え、複数の属性を基に分析すると、数億×数億×数億……と属性の数だけ指数的に処理が重くなってしまう。顧客にストレスなくサービスを利用してもらうために、PDAが採用されたのです。PDAはチューニングなしで高速な分析が可能で、スケールアウトでリニアに性能が上がります。例えば、応答時間を半分にしたければ台数を倍にすればよい。こうしたサイジングのしやすさも高く評価されました」(谷本氏)
ケースE:金融業(ニューヨーク証券取引所)
日々の取引データを分析し、不正取引を監視
金融業界は、PDAの主要マーケットの1つであり、市場予測やリスク分析などで使われているが、ニューヨーク証券取引所での使われ方は一風変わっている。ニューヨーク証券取引所で発生した証券の取引データを明細のまますべてPDAに収容して分析することで、インサイダー取引のような不正操作が行われていないか監視しているのだ。
「現在、ニューヨーク証券取引所で1日に発生する取引は150億件にも上ります。不正取引の監視はPDA導入前から行われていたのですが、データが巨大になってバッチ処理で行っていたデータの取り込みが8時間以上もかかるようになっていました。PDAに切り替えて、数分ごとにトランザクションデータをロードするようにしたことで、現在はほぼリアルタイムでの監視が行えるようになっています。データを収容したあとの不正検出のクエリは、7分から5秒に短縮されました。なお、不正取引の監視のほか、法規制対応のレポーティング、市場動向分析のリサーチにもPDAが使われています」(谷本氏)
以上、5つの事例をサマリー形式で紹介した。谷本氏によると、導入事例の多くでは、他社製品を含めたPOC(事前の実機検証)を行った結果、PDAの採用に至るケースがほとんどだという。
「PDAの導入を検討しているお客様には、必ずPOCを実施していただく事を推奨しています。DWHの性能は、前提条件を固めてそれに合わせてチューニングすればどうとでもなりますが、PDAならさまざまな分析をチューニングなしで高速に実行できる。その自由度の高さが新しいビジネス価値を生み出すことを実感していただくためです」(谷本氏)