伊藤忠テクノソリューションズが ANF 導入

ネットアップ合同会社
パブリッククラウド営業本部
Azureビジネスグループ
Japan エリア リード
工藤政彦(くどうまさよし)氏
Azure を展開するマイクロソフトとストレージベンダーとして名を馳せるネットアップは20年を超えるパートナーシップを結んでおり、ANFサービスは先行する一部海外リージョンにて2019年5月からサービスが始まった。2017年当時マイクロソフトは自社イベントなどで、NetApp社のテクノロジーを取り込み、フルマネージドなNFS(Network File System)プロトコルのサービスを世に送り出すという内容の共同宣言を出していたことが背景にある。2019年12月には東日本リージョンでのサービスを開始、さらに半年後に西日本エリアでサービスがスタートしている。ネットアップは2021年のパートナーイベント「Inspire」では、パートナーオブザイヤーを受賞している。
ANF は既に国内の大手企業にも広く導入されている。 伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)はグループ企業を含めて1万人規模の従業員のVDI(仮想デスクトップ)に Azure Virtual Desktop (AVD、旧称: Windows Virtual Desktop) を導入。AVD のプロファイル領域に ANF を採用した。
ANF は、高いI/O性能と低遅延などの性能面と、価格面でもスケールアウトファイルサーバー(SOFS)よりメリットが大きいと判明。そのほかにも、ANF が Azure のマネージドサービスであるため運用の手間が小さいと考えたこと、ほかのストレージサービスと比較して性能比コストが低く、低遅延を実現していることも分かり、それも決め手なったとしている。
ANF の特徴
CTCが導入したこの ANF は、Azure のファーストパーティであり、Azure のネイティブサービスである。Azure のデータセンター内にネットアップのベアメタルストレージを実装、Azure の内部ネットワークに接続する。サポートはマイクロソフトが実施する。Azure Portal を介して直接提供されるミッションクリティカルな環境向けに提供されるサービスである。特にVDI環境では、企業の始業時などに多数の社員が同時にサインインする「サインインストーム」の対策などに最適なストレージサービスである。
そのほか、以下のような特徴がある。
- SMB および NFS プロトコルサポート(SMB 2.1/3.1(3.0) と NFS v3.0/4.1)
- ANF はデータベースのサポートのためにSAPが要求する1ms未満のレイテンシー
- HANAに関してはアプリケーション整合性を保ちボリュームのスナップショットを取得するツール(コマンド、AzAcSnap)を提供。ほぼ瞬時にスナップショットを取得したり、クローンボリュームの作成や復元ができる
- 稼働率はSLA 99.99%と非常に高い

考えられるさまざまなユースケース
Azure 上のあらゆるエンタープライズワークロードが、ANF を採用することでより性能を高めることが可能になる。
HPC
ANF の有力なユースケースが、特にパフォーマンスが重要になるHPC分野である。HPCのパフォーマンスを確保する要素の1つがストレージ環境である。超高性能でHPCワークロードのパフォーマンスを大幅に向上、エネルギー、自動車などの各業界から多大な関心が寄せられている。
複合エネルギー多国籍企業のRepsol S.Aは、Azure HPC と ANF を導入。ストレージが鍵になる中で、1カ月以上の時間を要していた処理がわずか数時間と劇的に短縮した。1000億円規模のビジネスの意思決定を下すため、情報源を生む重要なITインフラとして運用している。
VDI
CTCの事例でもみたように、VDIは ANF の有力なユースケースになっている。AVD に必要な Windows のライセンスが Microsoft 365 の一部になっている中で、Citrixのワークロードが Azure とオンプレミスに大量に存在しており、クラウド化が容易な状況にある。ここに ANF を導入することで、カスタマーエクスペリエンスが大幅に向上することが見えている。また、VDI利用時に、朝方に社員が一斉にログオンするため、システムのパフォーマンスが低下する「サインインストーム」が発生する。サインインストームを防止するために、ユーザーのプロフェア情報を格納するストレージサービスが必要になる。ANF の中でも最も急速に成長しているユースケースである。
AVS(Azure VMware Solution)
VMware環境から Azure への移行と同様、AVS へも簡単に移行できる。使い慣れたVMware のツールを利用し、従来のシステムを管理し、ネイティブな Azure サービスによってアプリケーションを最新化できる。ANF は、データベース、SAP、HPC、アプリケーションなど最もI/O性能要求が厳しいエンタープライズファイルのワークロードを、コードを変更することなく移行、実行するための Azure サービスとして位置づけられている。

AVS内のゲストOSからANFボリュームをマウントする
SAP
オンプレミスのSAPを Azure に移行する企業の動きが活発化している。ここでも ANF は、パフォーマンスが非常に高く、企業に親しまれている。オンプレミスでのSAPのアーキテクチャを Azure 上に実装する動きである。SAP自身が ANF を導入し、ビジネスの成功を収めている。SAP エンタープライズ クラウドサービスのCTOを務めるラリット・パチル氏は「NetAppにより、SAPは顧客に対するソフトウェアの導入が容易になり、ビジネスプロセスをアクティブ化するまでの時間を短縮できた」と指摘している。
SAP HANAアプリケーションとワークロードは、ANF を利用して Azure で実行でき、SAPとSAPの顧客の両方の成長と市場での地位を加速するという。市場が求める時間間隔、規模、品質で意思決定者にデータを提供できるとSAPは説明している。
Oracle/SQL
オラクルのIaaSへの移行でも ANF に期待が集まっている。Oracle環境のマイグレーションでは、Oracle Direct NFSのサポートによりパフォーマンスの最適化を実現、結果的にCPUコア数の小さな仮想マシンで十二分なI/Oパフォーマンス性能が満たせるため、Oracleのライセンス費用が抑えられる。
ここまで見てきたようにSAP、HPC、VDI、AVS、Oracleは、いずれもストレージに対するI/O性能が求められる。オンプレミスでは、バックアップやスナップショットが必要であるため、それをサポートする ANF が必要になってくる。広域災害対策としてリージョン間のレプリケーションをサポートしているのが ANF であり「こういうときに、もう1つの選択肢である Azure Files は適さない」と工藤氏は話している。
ANF と Azure Files を比較
ユーザー企業が持つ選択肢として、ANF のほか Azure Files も挙がってくる。Azure Files は、サーバーメッセージブロック (SMB) プロトコルまたはネットワークファイルシステム (NFS) プロトコルを介してアクセスできる、フルマネージドのファイル共有機能をクラウド上に提供する。
そこで両者を比較しておく。クラウドファイルストレージを必要とする多くのワークロードは、ANF のほか Azure Files でも機能する。だが、最適な選択肢を探す際に、明らかに機能面に差があるユースケースがあるため、留意しておく必要がある。工藤氏は「コストとの兼ね合いがある」としながら、「インフラのモダナイゼーションにおいて、アプリケーションを改修することなくリフト&シフトを実施する際に、適材適所である」と話している。
Azure NetApp Filesが適しているケース
- ネットアップのオンプレミス環境を利用しており、ONTAPの備える機能を Azure 上でも享受しながらクラウドへの移行を検討している
- Azure Files Premium よりも高いI/O性能パフォーマンスを必要とする
- NFS v3.0、NFS v4.1、SMB2.1、SMB 3.x
- 高度なONTAPが提供する機能を求めている(スナップショットからのボリューム作成、リージョン間レプリケーションなど)
Azure Filesが適しているケース
- オンプレミスで Windowsファイルサーバ を使用している
- 柔軟なデータアクセスが必要 -ダイレクト、クラウド、オンプレミス、またはハイブリッド(Azure File Sync)
- REST、SMB 2.1、3.0、3.1.1、Azure Files Premium のみNFS v4.
- 地域の冗長性が必要(LRS/GRS/ZRS/GZRS)
- Azure Files Premium はGRS/GZRS未サポート
- 世界各地域での可用性が必要
ANFがコンテナに対応

ネットアップ合同会社
パブリッククラウド営業本部
Azureビジネスグループ
クラウドソリューションアーキテクト
胡毅(ふーいー)氏
ANF の最新機能では、コンテナベースのアプリケーションに対応している。Azure Kubernetes Service (AKS)および Azure Redhat Openshift(ARO)の永続ボリュームとして利用可能になっている。胡氏は「AKSの中に入っているステートフルなコンテナアプリケーションのバックアップはなかなか難しい」と指摘。しかし、ANF とも連携するネットアップ社のAstraを利用すればGUIから簡単にリストアできる。
Azure 上でのKubernetes活用における主なシナリオは、コンテナへのリフト&シフト、マイクロサービス、機械学習、IoTなどがある。コンテナはステートレスであることが特徴。コンテナ自体に設定した変更はコンテナを停止するとロストしてしまう。
一般に、コンテナはステートレスであるため、バックアップなどの必要がないとも言われているが、一貫性、可搬性を得るためにはKubernetesクラスタのレベルでバックアップが不可欠になると考えられる。
NetAppは、Kubernetes環境のアプリケーションのデータライフサイクルを管理するサービス「NetApp Astra」の提供を開始。Astraにより、Kubernetesアプリケーションのバックアップや別クラスタへのデータ移行、作業途中のアプリケーションクローンの作成などを容易に実施できるようになる。
ここまで見てきたように、オンプレミスシステムのクラウド移行を検討する多数の企業や、コンテナをベースにした最新のアプリケーション構築を検討する企業も、ストレージシステムの側面から強力に支援することが分かる。既存環境を生かしながら、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することが命題になっている多くの企業にとって、役に立つソリューションであることは間違いない。