5G対応で通信事業者が直面する3つの課題解決をマイクロソフトが支援
5Gの普及に向けた動きが各所で進む中、 「基地局のスピーディな展開と効率的な運用」「エッジ領域におけるAIなどの先進技術を活用した高度あるいは超低遅延なデータ処理」などを実現するために、クラウド技術の活用を進める動きが通信業界やベンダー各社の間で広がっている。
Interop Tokyo 2022のオンライン基調講演に登壇した米国マイクロソフト
Azure for Operators担当副社長の
ユーセフ・カリディ氏
その動きに呼応して5G関連ソリューションの拡充を急ピッチで進めているのがマイクロソフトだ。2022年6月15日〜17日に開催されたInterop Tokyo 2022では、米国マイクロソフトで通信事業者向けのAzureソリューションを担当する副社長のユーセフ・カリディ氏がオンライン基調講演に登壇。通信業界が5Gに関して抱える課題と、その解決を支援するマイクロソフトのスタンスおよびソリューションを紹介した。
5Gへの取り組みを進める通信業界は今日、3つの課題に直面しているとカリディ氏は話す。1つは「コスト削減」だ。5Gのための新たなモバイルネットワークの構築には莫大なコストがかかる可能性があり、より安価で、より容易に構築できる方法を模索しているのだという。
2つ目は「マネタイズ」だ。「多くの通信事業者様は、ネットワークスライシングやモノのインターネット、Machine to Machine(M2M)などの新たなビジネスシナリオから、どのように収益を上げていくかを模索している段階です」とカリディ氏は話す。
3つ目は「投資の将来性の向上」である。これまで3G、4Gと行ってきた通信設備への投資は、今後も5G、6Gと続いていく。通信事業者は、これらの多大な投資が将来にわたって保護され、価値を生み続けることを望んでいるのだ。
通信事業者が直面するこれらの課題解決を支援することが、マイクロソフトが5G市場に参入した理由だとカルディ氏は話す。
「私たちの務めは、モバイルネットワークの構築コストをより安価にし、通信事業者様が投資から利益を得られるようにして、なおかつその投資を将来にわたって保護することです。マイクロソフトは現在、この『コスト削減』『収益化』『技術の将来性』の3つを柱にした通信事業者様向けのクラウド基盤として『Azure for Operators 』を推進しています」(カルディ氏)
Azure for Operatorsは、エッジ領域にまでクラウドを拡張するハイブリッドクラウドを指向しており、通信事業者や企業が5Gネットワークを構築するためのプラットフォームを提供する。大規模なネットワークに対応可能な拡張性と信頼性を備えており、通信事業者や企業はAzureで提供される各種のクラウドサービスやエコシステムを活用して独自のアプリケーションやサービスを開発/提供することで、ネットワークをマネタイズすることができる。その際に重要なのは「ネットワークを利用する消費者や企業は通信事業者のものである」という点だとカルディ氏は強調する
「マイクロソフトの仕事は、このハイブリッドで安全かつ拡張可能なプラットフォームを皆様にお届けすることです。これを使ってどうマネタイズするかはお客様次第であり、新たに創出したビジネスや顧客はお客様のものです。今後はAzure for Operatorsにより、誰もが自社のネットワークを容易にマネタイズできるようになるのです」(カルディ氏)
通信事業者向け5Gプラットフォームとエッジアプリケーション基盤を提供
それでは、Azure for Operatorsは具体的にどのようなソリューションを通信事業者や企業に対して提供するのか? Interop Tokyo 2022の会場で個別取材に応じた日本マイクロソフトのデビッシュ・ガウタム氏(Azure for Operators アジア地域技術統括)は、「Azure for Operatorsは、大きく『次世代ハイブリッド通信事業者向けプラットフォーム』と『エッジ向けハイパフォーマンスアプリケーション基盤』で構成されます」と説明する。それぞれを構成するソリューション/サービスは次のとおりだ。
日本マイクロソフト
Azure for Operators アジア地域技術統括のデビッシュ・ガウタム氏
このうち、Azure Operator Distributed Servicesは通信事業者向けのハイブリッドクラウドプラットフォームであり、5Gモバイルネットワークと音声ネットワークに対応する。Azureの強固なセキュリティと、エッジのアプリケーション管理にも対応したハイブリッドクラウド管理ツール「Azure Arc」のほか、AIや機械学習、コンテナ、データ活用といったAzureのサービスが統合されている。
また、Azure Operator 5G Coreは、Azure Operator Distributed Services上で展開される5Gコアサービスであり、通信事業者などがスケーラブルな5Gネットワークを構築することを可能にする。
一方、Azure Public MECは通信事業者が運営するエッジデータセンターでMEC(Multiaccess Edge Computing)環境を構築/運用するためのソリューション、Azure Private MECは企業の工場や店舗などのエッジにMEC環境を構築するためのソリューションだ。マイクロソフトは現在、Azure Private MEC向けの5Gコアサービス「Azure Private 5G Core」のパブリックプレビューを公開している。Azure Private 5G Coreを使うことで、工場や店舗などに対してプライベート/ローカル5GネットワークとMEC環境、Azureのサービスを用いたアプリケーションなど提供することが可能になる。
オープンなエコシステムで5Gの普及を加速
日本マイクロソフト
Azure for Operators 日本 韓国 インド担当ディレクターの大島貴之氏
これらのソリューションから成るAzure for Operatorsの特徴の1つとして、日本マイクロソフトの大島貴之氏(Azure for Operators 日本 韓国 インド担当ディレクター)は「オープンなエコシステム」を推進していることを挙げる。
「5Gソリューションの中にはネットワークから基地局設備、MECサーバ、クラウドなどを1社が独占的に提供するものがありますが、Azure for Operatorsはその対極にあるオープンなエコシステムを取り入れています。通信事業者様や基地局ベンダー様など、5Gにかかわるさまざまな企業と各国で協業を進めており、お客様は各社のソリューションを組み合わせて自社に最適な5G環境を構築できます」(大島氏)
例えば、Azure Private MECに関しては下図に示すように5Gネットワークの各レイヤの主要ベンダーと協業を推進している。
MECサーバに関しても、マイクロソフトが提供するサブスクリプション型のマネージドデバイス「Azure Stack Edge」に加えて、今後はベンダー各社が提供するHCI「Azure Stack HCI」が利用可能になる予定だ。
日本での展開についても通信事業者やパートナー各社と連携し、日本市場に適したユースケースに基づいて提案活動を進めているという。
「日本のお客様は品質に対する要求が高いことで知られます。それに応える質の高いソリューションを提供することで、当社の5Gソリューションの品質を全世界にアピールできます。その点でも非常に重要な市場と位置付けており、入念な検証によって品質をしっかりと担保しながら進めていきたいと考えています」(大島氏)
InteropのShowNetでローカル5Gの接続実証を実施
そうした検証活動の一環として、Interop Tokyo 2022の会場では、出展ベンダーが各種ネットワーク機器を持ち寄って相互接続などの実証実験を行うプロジェクト「ShowNet」の中で、Azure Private 5G Coreの接続実証のデモンストレーションが行われた。
ShowNetにおけるAzure Private 5G Coreのデモンストレーション構成
デモ用のMEC環境を構成する3台のAzure Stack Edge
デモで利用したASOCSの5Gアンテナなど。
今回は5G無線局の免許を取得せずにデモを行うために、アンテナなどの機材はシールドテント内に設置した
ハイテクインター
ローカル5G開発部 部長の水野光太郎氏
デモの内容は、3台のAzure Stack Edgeを、クラウドベースのvRANソリューションを手掛けるASOCSの5Gアンテナと組み合わせてMEC環境を構成。この上にAzure Private 5G Coreを展開してローカル5Gネットワークを構築し、通信が行えることを実証するというものだ。5Gネットワーク環境の構築作業は、製造業などの顧客に対して4G/5Gモバイルネットワークの構築サービスを提供しているハイテクインターが担当した。
デモで利用した3台のAzure Stack Edgeは、日本マイクロソフトの社員が実際にAzureサイトでサブスクリプションを申し込んで米国から取り寄せたという。空輸されたAzure Stack EdgeやASOCSの5Gアンテナなどが会期の約1カ月前に届くと、ハイテクインターが構築作業を開始。作業を担当した同社の水野光太郎氏(ローカル5G開発部 部長)は、「最初に構築スケジュールを見たときは『本当にこの期間で作れるのか?』と驚きました。しかし、実際にやってみるとAzure Stack Edge へのAzure Private 5G Coreの展開にはほとんど時間がかかりませんでしたし、ASOCSのvRANも直感的に扱える使いやすいGUIを備えており、これまでになくスムーズに環境を構築できました」と振り返る。構築作業はわずか2週間程度で完了し、デバイスとの5G接続が行えることなどを確認したという。構築したローカル5G環境はAzure Portalで管理し、モバイル接続に使うSIMなどの設定まで行うことができる。
ASOCSジャパン
カントリーマネージャーの関口透氏
「実際にお客様の工場などでネットワークを構築する際には、安定した接続を確保するためにアンテナ配置や電波出力などの最適なバランスを探るための調整や試行錯誤が不可欠です。Azure Private 5G CoreによるMEC環境の構築は手間がかからずスムーズに行えるため、この試行錯誤や回線設計に多くの時間を費やしてネットワークの品質を高められるほか、お客様の免許申請の支援などにまで私たちの支援を広げられるのではないかと感じました」(水野氏)
また、ASOCSジャパン カントリーマネージャーの関口透氏は、5G機能の構成や配置の柔軟性が極めて高いことも大きな利点だと話す。
「5Gソリューションの中には、コアやRAN、アンテナを、全てベンダーが決めた構成で使わなければならないものもありますが、Azure Private MECの場合は当社のアンテナと他社のRADIOを組み合わせたり、5G機能の一部をAzure上に載せたりといったことが可能な高い柔軟性を備えています。ローカル5Gは小規模な構成で始めるケースが多いと思いますが、そうしたスモールスタートの導入にも適していますね」(関口氏)
初期投資不要なサブスクリプション型だから、ローカル5GのPoCにも最適
ハイテクインターは現在、多くの顧客に対してローカル5GのPoCを支援している。その指揮を執る執行役員の寺田健一氏は、環境構築が短期間でスムーズに行えるAzure Private MECに、PoCとの相性の良さを感じているようだ。
ハイテクインター
執行役員の寺田健一氏
「専門エンジニアが1カ月以上張り付いて構築作業を行わなければならない5G製品が多い中、Azure Private 5G Coreはインストールがすぐに終わって準備が完了し、RANも2週間程度で構築が完了して使えるようになりました。Azureでローカル5Gソリューションは大きく進化したと実感しています」(寺田氏)
コスト面でも、Azure Private MECは5GのPoCに最適なソリューションだと言える。一般に、ローカル5GのPoCを行うための環境を整えようとすれば数千万円〜数億円のコストがかかると言われるが、今回のデモで利用したAzure Stack Edgeならば1台20万円/月のサブスクリプション料金で使うことができる。日本マイクロソフトの大島氏は、「巨額の初期投資が不要で安価かつ短期間で導入可能な点は、タイムトゥマーケットの面でも他社ソリューションに対して大きなアドバンテージがあると自負しています」と胸を張る。
日本マイクロソフトは、今回のデモで得た経験も生かし、今後もパートナー各社との協業を拡大しながらローカル5G市場への展開を加速していく考えだ。