オープンソースのInfrastructure as a Service(IaaS)構築基盤ソフトウェア群である「OpenStack」。プライベートクラウドを自社内に用意することで、インフラ基盤の構築に手間と時間を取られることなく、アプリケーションの開発・テスト環境、そして、実行環境までを迅速に確保することが可能になる。
「ビジネスで要求される新サービスを、いち早く立ち上げたい」という企業ニーズを満たすものとして注目されており、OpenStackのディストリビューターにはIBMやHP、VMwareといったベンダーが名を連ねている。
Linuxディストリビューター最大手である米Red Hatは、OpenStackの普及に最も注力している1社だ。米Red Hatでインフラストラクチャ製品マーケティング担当シニアディレクターであるMark Coggin氏は、「Red HatはOpenStackとコンテナを、エンタープライズ市場に訴求していく」と語る。
同社が提供する「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」は、エンタープライズ向けLinuxディストリビューションとして確固たる地位を確立している。さらに、2015年7月には後述の統合コンテナプラットフォームを発表するなど「コンテナ」技術の普及にも尽力している。
今後、Red Hatは両者をどのように市場に浸透させていくのか。その戦略を聞いた。
OpenStackは「実運用」「ソリューション」「エコシステム」を重視

米レッドハット
プラットフォームマーケティング
シニアディレクター
マーク・コギン(Mark Coggin)氏
同社はRHEL上で動作するOpenStack商用ディストリビューションとして、「Red Hat Enterprise Linux OpenStack Platform(RHEL OpenStack Platform)」を提供している。Coggin氏はRHEL OpenStack Platformの特徴は、「実運用とソリューションを重視し、最大の認定エコシステムを有すること」だと説明する。
実運用重視の姿勢についてCoggin氏は「OpenStackは、Linux、Linux上のKVMと密接に連携する」と説明する。そのため、RHELとLinuxカーネルの仮想化技術である「KVM」をOpenStack上で統合し、シームレスにユーザーに提供している。
「RHEL」と「OpenStack」は、いわば"相互依存の関係"にあり、組合せのテストやQA、認定プロセス等を統合エンジニアリングしている。クラウドのパフォーマンスを高め、長期的な安定性やセキュリティを確保する上でも、こうした連携は必須であるという。
もう1つ、実運用で欠かせないのはサポートの充実だ。OpenStack Foundationでは半年ごとに新版をリリースされるため、開発者からは「スピードや変化が速いため、安定した運用が難しい」との声も上がっていた。
こうした声を踏まえRed Hatでは、RHEL OpenStack Platformのサポートライフサイクルを3年に延長。また、OpenStackのプロジェクトにも積極的に参画し、OpenStackの普及と“技術的底上げ”に努めている。こうした活動についてCoggin氏は「われわれはOpenStackの最大のコントリビュータだが、それだけで満足していない。重要なのはさまざまな関連プロジェクトを含めて関わることだ」と力説する。
ソリューション重視の戦略で特筆すべきは、クラウド運用に必要なすべての製品ポートフォリオを持つことだ。IaaS基盤の「RHEL OpenStack Platform」、次世代PaaS基盤である「OpenShift」、プライベートクラウドからパブリッククラウドまでを統合管理する「Red Hat CloudForms」を展開する。
ビジネスの要求する俊敏性をこうした製品を組み合わせることで、柔軟かつ迅速に用意されるインフラ基盤上で、アプリケーションの開発からデプロイ、実行、オペレーションまでをシームレスな形で実行できる。
また、エコシテムの構築では、Red Hat Enterprise Linuxのエコシステムをさらに拡大していく戦略だ。具体的にはOpenStack上でソフトを開発するパートナーやハードウェアベンダーはもちろん、新たなパートナーとしてSDN(Software Defined Networking)やNFV(Network Functions Virtualization)までを網羅する。
OpenStackを活用し、プライベートクラウドを構築する支援を行うパートナーである「OpenStackアライアンスパートナー」も拡大していくという。
もう1つは認定制度の整備だ。RHEL OpenStack Platformは決して簡単に導入できるソフトウェアではない。運用するには高度なスキルが求められる。「ユーザーの幅を拡大する」観点からも、Red Hatが認定する「Red Hat Certified System Administrator in Red Hat OpenStack」などを普及させ、認定プロフェッショナルを増やしていく方針だ。実際、現時点において、認定プロフェッショナルは数千人規模に達しているという。
一方、OpenStackの普及には課題もある。それは期待値は高く、重要視されているが、自社で運用は難しいと二の足を踏んでいる企業は多いことだ。
この点についてCoggin氏は「現在のOpenStackは、15年前のLinux導入時と似ている」と指摘した上で、以下のように話す。
「昨年まででOpenStackを導入したのは、実装からサポートまでを自社で実施できる企業だ。例えば、通信サービスプロバイダーや、自社でプライベートクラウドを構築できる大規模企業、大学のようなハイパフォーマンスコンピューティング環境を構築する組織だ。Linux導入の歴史と同様に、こうしたスキルのあるユーザーが導入し、コミュティ全体でOpenStackの“底上げ”がされているため、これから本格的な普及へと向かうだろう」