SAPが発表した新サービス「RISE with SAP」と、それを支える企業向けクラウド「Azure」を提供するマイクロソフト、強力プロセッサのXeonを持つインテルの3社が、長年のパートナーシップを基盤に、ERPを軸にしたビジネス変革に取り組んでいる。
3社の動きを伝えるオンラインセミナー「ZDNet Japan Business Forum RISE with SAP on Azure (Powered by Intel) --次世代クラウドERPで”真のビジネス変革”を実現させる」が8月27日に開催された。
ここでは、日本マイクロソフトパートナー事業部Cloud Solution Architect - SAP on Azureを務める五十嵐直樹氏によるセッション「Microsoft Azure と Teams の独自の統合でイノベーションを加速」の模様をレポートする。

日本マイクロソフト株式会社
パートナー事業本部 Cloud Solution Architect - SAP on Azure
五十嵐 直樹氏
SAPのアプリケーションをTeamsで自在に利用する
冒頭で五十嵐氏は「SAPとMicrosoftが連携を深めている」と強調。特に、Azure上でSAPが提供するERP「S/4HANA」や、BTP(Business Technology Platform)など同社の複数のクラウドアプリケーションとマイクロソフトのコラボレーションツール「Microsoft Teams」が統合し、ビジネスのスピードがめざましく向上していることに触れた。
講演では、Azure上でSAPのアプリケーションを稼働させる「SAP on Azure」の顧客動向を紹介した。製造、化学、ガスなどさまざまな業界でSAP on Azureの採用が進む中で、特に小売り、食品、消費財業界での動きに焦点を当てる。HANAに注目すると、トランザクションのボリューム、データベースのサイズ、S/4HANAのERP基盤などがポイントになり、SAP on Azureの利用が活発化しているという。グローバルではWalgreens、Coca-Cola、Unilever、Nestleなどの世界的企業が安心して利用している。
日本では、製薬業界のアステラス製薬、参天製薬などの導入について紹介している。参天製薬は、アジアで初めて「SAP S/4HANA Cloud single tenant edition(ste) On Azure」を導入。各国で独立して運用していたERPインスタンスを、S/4HANA ste On Azureで統合する大規模プロジェクトになった。参天製薬によるAzure採用の決め手は、GDPRに対応していること、元々利用していたデータ基盤同士の連携が、Azureなら画面上だけで完了できることなど、柔軟性とメンテナンス性の高さを挙げている。
もう1つの事例は、伊藤忠商事によるsteへの移行だ。伊藤忠商事ではSAP ERP 6.0で構築した海外基幹システムを、東京の情報システム部門で統括しており、50の海外現地法人に展開していた。デジタルトランスフォーメーション(DX)実現の必要から、クラウドベースであるAzureへの移行を決断する。Microsoft 365やAzureを利用しているため、信頼性の高いネットワークの構築やAzure ADを使ったSSO(Single Sign On)の実現が要件となったとしている。
なぜユーザーはAzureを採用するのか
多くの企業がSAPの基盤としてAzureを採用しているには、明確な理由がある。主要なSAPアプリケーションのAzureでの稼働が、SAPによって認定されているからである。Azureは、高度なセキュリティ環境と一貫したユーザーエクスペリエンスを活用し、両社のさまざまなアプリケーションにアクセスできるようになっている。
このセミナーで焦点が当たっている「RISE with SAP on Azure」は、SAPとマイクロソフトの製品間の連携を進め、DXを実現することを念頭に置いている。アプリケーションとネットワーク、プラットフォーム、インフラを含むシステム全体を、長期的かつビジネス視点を持って提供するための方向性を示すものである。
ここで、五十嵐氏はS4/HANAに着目し、Azureで認定を受けているS/4HANAアプリケーションのラインアップを紹介した。

上図で、左から2つの製品群はクラウドを意識した、RISE with SAPに関連するもの、右から2つは、HANA Enterprise Cloudやオンプレミス版のSAP S/4HANA on premiseを軸としたものとなっている。
SAPの基盤にAzureを採用する理由となる3つの解決策
なぜ、Azureをベースにするのか、五十嵐氏は以下の具体的な3つの機能を紹介している。
Azure Active Directoryを使用したSAPシングルサインオン
Azure ADと各アプリケーション間のシングルサインオンの方法に新たなアプローチが導入された。Concur、AnalyticsなどすべてのSAPアプリケーションに接続するためのゲートウェイとしてBusiness Technology Platformが用意された。これにより、多要素認証や条件付きアクセスポリシーなどより強固なセキュリティを確保しながら、複雑なメンテナンスを回避できるようになる。
多種多様なコンピューティングインスタンス
2つ目は仮想マシンの存在である。AzureにはSAP認定を受けた、以下のような多種多様なコンピューティングインスタンスがある。ユーザーはコストもしくは性能を重視する方法を自由に選択できるようになっている。

東西リージョンをフル活用
3つ目は、東西に持つリージョンを活用した、Azureならではのバックアップ環境だ。ディザスタリカバリを実施する場合、もともと用意されているAzure Site Recoveryはもちろん、大規模なSAP HANA環境であればAzure Network FilesのCRF(Cross Region Replication)、小規模から中規模であればAzure Backup for SAP HANAとGRSというリージョン冗長ストレージ機能を活用した低コストの方法も実装可能だと説明している。

SAPとマイクロソフトのパートナーシップによる価値
五十嵐氏は、2021年のパートナーシップのポイントとして、5つの柱を紹介した。
- カスタマージャーニー
業種業界別のS/4HANAとSAP Solutionsの活用シナリオを踏まえた上で設計する。 - 実行計画の作成
行動のきっかけ作りと実行可能な計画を作成する。 - コラボレーションに基づく生産性
Teamsがフロントエンドとして、SAPのアプリケーションにアクセスする。社員が関与して統合されたユーザー体験を通じて、組織変革を促進する。 - 最適化されたプラットフォーム
SAP Business Technology Platformでの継続的なイノベーションと基盤となる拡張サービスを提供する。 - 必要不可欠な主要アーキテクチャ
SAPおよびMicrosoft Azureテクノロジーを活用した共同開発によるリファレンスアーキテクチャを提供。
3社の協業によって何が得られるか
SAP、マイクロソフトそしてインテルが協業することで、得られるプロセスの最適化と自動化のイメージは以下の通りである。

3社の提供が実現するプロセスの最適化と自動化のイメージ
五十嵐氏は、このパートナーシップによって得られるものとして、以下主要な2つを紹介した。
- Azure上でS4/HANAを活用して変革を加速する
S/4HANAとSAP Business Technology Platformを組み合わせた、最先端のSAP環境への移行スピードを、リファレンスアーキテクチャや自動化された移行ツール、インストレーションを活用することで、手に入れる事ができる。 - SAPソリューションと製品との統合で企業内外でのコラボレーションを促進
両社のパートナーシップの目玉であるTeamsへのSAPアプリケーションの統合により、従業員やビジネスパートナー、サプライヤーなどの利害関係者とのコラボレーションが促進できる。Teamsを介して、従業員とはSuccessFactors、サプライヤーとはS/4HANA、営業や販売活動ではSAP Customer Experienceなどを利用できることで、シームレスなプロセスを構築できるのである。
講演では、Teamsを介した連携をイメージしやすくするために、SAP Customer ExperienceとTeamsの連携ソリューションをわかりやすく紹介するデモ動画を紹介している。リモートセールスプロセスをTeamsで統合するソリューションについて、わかりやすく説明する。さらに、もう1つの動画では、既存のS/4 HANAに対して、TeamsをUIのフロントエンドとして開発できることを、わかりやすく伝えた。
2021年のSAPとマイクロソフトの製品統合
2021年におけるSAPクラウドソリューションとTeamsの製品統合ロードマップも紹介した。SAP Work Zoneでは、ユーザーはTeamsを介してWork Zone情報にアクセスし、ワークスペースをチャネルに追加できるようにした。経費レポート、請求書の承認などがしやすくなる。このほか、Qualtrics Experience Management、SAP Analytics Cloud、SAP Business ByDesignについて、以下の図のように、Teamsからアクセスできるようにしており、ユーザーの利便性が高まる仕組みとなっている。

最後に五十嵐氏は「インテルのハイパフォーマンステクノロジーを元に進化を遂げるAzureというプラットフォーム上で、市場をリードするSAPのアプリケーションと、マイクロソフトのビジネスコラボレーションツールであるTeamsを組み合わせることで、共同イノベーションを推進する」とコメントした。