多くの企業が、顧客の生活様式や購買活動の変容によってデジタルビジネスへのトランスフォーメーションを推進している。企業の新しいチャレンジには、従来のIT基盤に加え、クラウドを活用した柔軟な環境の整備が必要だ。2022年6月21日にヴイエムウェアと朝日インタラクティブが共催したオンラインイベント「ZDNet Japan Next Generation IT Infrastructure Day DXに向けたIT基盤モダナイズの必要性と現実解」では、VMware Cloud on AWSを中心に、基盤運用管理、開発環境運用、災害対策等などの具体的な対策が紹介された。
IT基盤のモダン化は、経営や業務部門とともに、
大きなゴールを見据えて実行
最初のセッションは、株式会社ラック 執行役員 IT戦略・社内DX領域担当 CIO 喜多羅 滋夫氏による「デジタルビジネスへの変革―武闘派CIO流IT基盤モダナイゼーションとクラウド活用」。2018年に経済産業省が公表した「DXレポート」で指摘された経済リスク「2025年の崖」の衝撃から4年近くが過ぎているものの、いまだに多くの企業がレガシーシステムの更新に苦慮している。
P&Gとフィリップモリスにて20年余りIT部門に従事した後、2013年に日清食品ホールディングス株式会社に同社初のCIO(最高情報責任者)として入社した喜多羅氏はグローバル化と標準化を軸に、グループの情報基盤改革の指揮を執った。講演では、日清食品時代の事例から、IT資産のモダン化を実現するための経営・事業部門との連携やマルチクラウド活用などのノウハウが披露された。
喜多羅氏は「ITモダナイゼーションはゴールではなくてステップです。その先にどんな果実を取りたいかはとても重要です。また、従来のシステムをやめることは、新しいものを導入するよりも何倍も大変なので、IT部門のリーダーは、経営や業務のサポートを受けながら、システムリストを簡素化し、より新しいものに取り組める、あるいは、より信頼できる運用に変えていかなければなりません」と指摘した。新しいシステムの導入には経営陣との技術戦略の議論が必要で、レガシーシステムの廃止は業務部門の協力が不可欠だ。目先の事象に右往左往するのではなく、今の事業とイノベーションの将来像を見据えたモダン化に取り組まなければならない。
VMware Cloud on AWSはコストを抑えた災害復旧対策や、
クラウドネイティブ化のためのステップとなる
続いてのセッションは「VMware Cloud on AWS の最新情報と AWSサービスとの連携メリット」として、ヴイエムウェア株式会社 クラウドサービス事業部 クラウドサービス営業部 シニアプロジェクトマネージャー 荒井 利枝氏 とアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ISV パートナー本部 シニアパートナーソリューションアーキテクト 豊田 真行氏が登壇。VMwareとAWS が共同で開発した VMware vSphere ワークロードをAWS クラウド上でネイティブに稼働できる クラウドサービスであるVMware Cloud on AWSの特徴と、AWSサービスとの連携などの活用方法が共有された。
荒井氏は、オンプレミスのvSphereワークロードをそのままAWS上に移行でき、AWSネイティブサービスと連携できるVMware Cloud on AWSのメリットに加え、低コストで災害復旧ができる「VMware Cloud Disaster Recovery」についても紹介し、「これまで災害対策サイトは、物理的にデータセンターに本番サイトと同等のシステムを構築する必要がありました。当サービスでは正常稼働時にホストを展開する必要がないため、非常にコスト効果に優れています」とアピールした。
豊田氏は、負荷分散のためのELBやWebアプリケーションファイアウォールであるAWS WAF、データベースサービスであるAmazon RDSやAmazon Aurora、インフラ運用の自動化のためのAWS Systems Manager、ストレージサービスなど、VMware Cloud on AWSに展開するvSphereワークロードとAWSサービスの連携による利便性向上について紹介し「クラウドネイティブな次世代アプリケーションを構築・活用するための移行ステップの助けになるのがVMware Cloud on AWSです」とコメントした。
企業のニーズに適合したハイブリッド・マルチクラウド環境を
実現する「Right Mix」とは
多くの企業が、オンプレミスとクラウドを併用するハイブリッドなIT環境でさまざまなワークロードを実行したいと考えている。単にvSphere環境をAWS上に展開するだけでは終わらない。日本ヒューレット・パッカード合同会社 Pointnextデリバリー統括本部 トランスフォーメーションコンサルティング本部 ITアドバイザリーサービス部 アーキテクト 茅根 圭輔氏 のセッションでは、VMware Cloud on AWSと、同社が提供するオンプレミス環境にも対応したマルチクラウドサービスHPE GreenLakeを組み合わせる手法が提案された。
HPEでは、オンプレミスやマルチクラウドを企業のニーズにあわせて適切に配備することを「Right Mix(正しい組み合わせ)」と呼び、さまざまなサポートを行なっている。茅根氏は「基盤の全体計画において、性質の異なる各システムの状況把握をし、システムごとの業務特性や移行性、コスト効果を見ながら環境を選択します。VMware Cloud on AWSを使うこともあれば、OSを変える、SaaSを利用する、あるいは現状維持をしていくかを決めていきます」と説明した。
そして茅根氏は、DX目的でのVMware Cloud on AWSを使ったRight Mixのケースとして、AWSのサービスと接続したデータ分析や、AWS S3を通じてGoogle Cloud BigQueryと連携するデータ分析、在宅勤務の増加によるVPN接続逼迫の解消、ゼロトラストネットワーク推進環境などを紹介した。
多様な環境の製品を提供するVMwareだからできる、
マルチクラウドの運用支援
マルチクラウドの導入が進むにつれ、「クラウドのサイロ化」という新たな課題が生まれている。個々のクラウドで最適化されていたとしても、マルチクラウドの運用においては一貫性やコストの最適化など、異なる運用モデルが必要だ。ヴイエムウェア株式会社 マーケティング本部 チーフストラテジスト 渡辺 隆氏のセッションでは、VMware Cloud on AWSも含むマルチクラウドの運用を効率化する「クラウドオペレーティングモデル」という考え方について説明をした。
クラウドオペレーティングモデルは、単一のクラウドだけではなく、マルチクラウドを管理する一貫した手法で、インフラの運用だけでなく、財務戦略も含んでいる。VMwareでは、VMware Cloud on AWSをはじめ、さまざまなクラウドベンダーで展開する製品や、オンプレミス、エッジ、コンテナなどさまざまなコンピューティング環境に向けた製品の提供を通じて、マルチクラウド環境の運用のノウハウも蓄積してきた。多様なクラウド環境の運用を支援するのがVMware Cloud Managementだ。特徴に、マルチクラウド環境のコストを可視化して最適化のアドバイスをする機能がある。渡辺氏は「パースペクティブと呼ばれる論理グループを作ると、事業部やプロジェクトごとにどれくらいのコストがかかっているかわかります」と説明した。
そして渡辺氏は、マルチクラウドを一貫してガバナンスをもって効率的に運営するには、クラウドサービスの適切な使用とガバナンスを通じて組織を導く部門横断的チームである「クラウドCoE(Center of Excellence)」の組成が効果的であると説き、VMware自身も顧客のクラウド戦略の立案および実行を支援できるとアピールした。
小規模環境でもVMware Cloud on AWSのメリットを享受できる
「DX仮想クラウド基盤」
ダイワボウ情報システム株式会社 経営戦略本部 情報戦略部 情報戦略課 エキスパート 丹羽 政裕氏のセッションでは、VMware Cloud on AWSを小規模からでもスモールスタートできる同社のサービス「DX仮想クラウド基盤」の紹介がなされた。
VMware製品で構築したワークロードをクラウドに移行しやすいVMware Cloud on AWSだが、最低利用単位が2ノード以上となるため、中堅・中小企業にとってはオーバースペックとなり、費用対効果から導入が難しい。そこでVMware Cloud Director serviceを使ってマルチテナント化して導入のハードルを下げたのがDX仮想クラウド基盤である。AWSサービスとの連携はAmazon S3のみで、オンプレミス環境との連携もできないという制限はあるが、5台〜10台の程度の規模で仮想マシンを利用したい場合に向いている。丹羽氏は「小規模であっても、AWS環境に移せば自社サーバーの運用や保守、計画停電の対応、5年に一度のハードウェアのリプレイスなどを気にする必要がありません」と述べた。
料金は初期費用48万円に加え、月額費用40万円からと明確な料金体系となっている。顧客のオンプレミス環境とDX仮想クラウド基盤でのテナント環境を接続したい場合は、別途VPN装置である「Meraki MX(Cisco製)」によって実現する。DX仮想クラウド基盤にあるデータのバックアップ・リストアには「Arceserve UDP Cloud Direct」などを利用することができる。
コストを抑えた災害復旧・セキュリティ対策を
VMware Cloud on AWSで実現
イベント最後のセッションはTIS株式会社 IT基盤技術事業部 IT基盤コンサルティング部 エキスパート 野口 敏久氏による「VMware Cloud on AWSで始める、コストを抑えた‟災害対策”と‟内製化”へのススメ」。自然災害の発生や急増するランサムウェアの被害報道を受けて、災害対策やセキュリティ対策としてクラウドを活用するケースが増えており、これにVMware Cloud on AWSを利用するという考えだ。
野口氏は、国内と海外のオンプレミス環境とAWSのSDDC(ソフトウェア定義データセンター)環境で実現している災害対策の例を紹介した。国内と海外のAWSにSDDCをデプロイし、優先度の高いVMのみレプリケーションをし、優先度の低いものはバックアップSaaSからSDDCに復元する。しかし、SDDCが常時稼働しているため、コストがかかってしまう課題があった。そこで、2時間ほどでデプロイできるVMware Cloud on AWSを活用し、災害復旧時にオンデマンドでSDDCに仮想マシンを復元できるVMware Cloud Disaster Recoveryを使った環境構築についての解説を行った。
オンデマンドでSDDCに仮想マシンを復元できるのはコスト効果が高いが、有事のときに的確な作業を実施しなければならない。野口氏は「パートナーが有事の際にも実際に動いてくれるかが一つの課題です。大規模な災害であればあるほど、パートナーも被災している可能性があります。切り替えや切り戻しを自営でできるよう、内製化という選択肢もおすすめします」と語った。TISでは、AWS環境を自営できる内製化支援サービスを提供している。ワークショップでは、AWSの基礎などの座学に加え、VMware Cloud on AWSの実際の操作を体験したり、PoCを実施したりできるなどさまざまなコースを用意している。