ワークスタイル変革により、ビジネスの仕組み自体をアップデートしていく――企業の間にそんな課題意識が広がりつつある。2017年6月23日、東京都内で開催されたZDNet Japan × TechRepublic Japan ワークスタイルセミナーでは、「ビジネス加速を最優先に追求するワークスタイル変革〜新たな仕組みを展望し、いま着手することを考える」をテーマに、取り組み事例や取り組みに向けたヒントが多数紹介された。セミナーの内容をレポートする。
基調講演にはOrganize Consulting清水氏が登壇
基調講演には、Organize Consulting代表取締役、清水久三子氏が登壇。「マクロとミクロから見えてくる"やわらかい"ワークスタイル」と題する講演を行い、ワークスタイルをデザインする際に重要になる5つの要素を解説した。
清水氏は1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)に入社し、コンサルティングサービス&SI事業の人材開発部門リーダーとして、5000人のコンサルタント・SEを対象とした人材ビジョンの策定、育成プログラム企画・開発・展開などを担当した。2015年に独立し、企業向けにダイバーシティ経営や受容性を高めるプログラムを提供している。
Organize Consulting
代表取締役
清水久三子氏
清水氏はまず、人口動態の変化や業務の変化という大きなトレンドのなかで、企業がワークスタイル変革に取り組むことは経営課題の1つになってきたと解説した。
「日本は経済力、生産力、研究開発など、量の面では世界トップレベルだか、一人あたりで見ると先進国のなかでもかなり低い位置にいます。例えば、GDPは世界3位ですが、一人あたりGDPは先進国最下位です。これまでと異なる観点から働き方を変えていくことが求められます」
そこで重要になってくるのが「ワークスタイルをデザインする5つのP」だ。つまり、Purpose(目的)、Process(業務)、Place(場所)、Program(施策)、People Management(管理)という5つの観点から、ワークスタイルを再設計していくのだ。
ワークスタイルをデザインする「5つのP」とは
例えば、Purposeでは、目的を社内/社外、財務/非財務の軸で明確化し、ルーティンワークとナレッジワークで取り組みの方法を変えるといった工夫を行う。
また、Processでは、業務を進める各段階でボトルネックを見つけ解消していく。「仕事にはインプット、処理、アウトプットの段階があります。インプットのボトルネックは4つのC(Cut、Convert、Combine、Create)で"断捨離"できます。アウトプットのポトルネック解消ではやりすぎるという過剰品質を最適化していくことがポイントです」と清水氏。
3つめのPlaceでは、タスクと場の割り当てが重要になる。目的によってワークスタイルは変わる。デバイスやツールを使って、最適なワークプレイスに最適なタスクを割り振る。
Programでは、「ケア施策」「フェア施策」「アップ施策」という異なる3つの施策があることに注意する。ケア施策とは、在宅勤務や時短勤務のようにマイノリティを配慮する施策のこと、フェア施策とは採用、配属、研修などで、個人の特性を加味して機会を均等化すること、アップ施策とはスキル向上など、多様性を強みに変え能力向上をはかるもの。「この3つを適切なフェーズで適切に実行していくことがポイント」(清水氏)だ。
そして、これらを使って適切に人材を管理していくのがPeople Managementだ。意思決定、情報共有、アイデアや課題、進捗・リソース、成果などの管理をする。そのうえで、清水氏は、「ただ闇雲に進めるのではなく、5つのPを意識して推進することがワークスタイル変革の近道です」と訴えた。
ソフトバンクC&Sとヴイエムウェアが「働き方改革」の事例を紹介
ベンダーセッションには、ソフトバンク コマース&サービスの業務推進本部本部長 大内仁氏と、ヴイエムウェアのソリューションビジネス本部 EUC技術部シニアソリューションアーキテクト 藤野哲氏が登壇。
大内氏は、ソフトバンクC&Sが2013年から取り組んでいる「働き方改革」について自社事例として紹介し、業務改革をあわせて進めることで、さまざまなビジネス成果が得られたことを披露した。
また、藤野氏は、デジタルワークプレースの考え方と、それを実現するために企業は何に気をつけて取り組みを進めればいいかについて、ヴイエムウェアのソリューション紹介を交えながら、アドバイスした。
両社とも、ソリューション紹介にとどまらず、どうビジネス価値を引き出していくかに焦点を当てた内容で、聴衆も熱心に聞き入っていた。
デジタル人事の専門家と元朝日新聞ジャーナリストによる特別対談
セミナーの締めくくりとなった特別対談には、デロイト トーマツ コンサルティング ヒューマン キャピタル ディビジョン シニアマネジャーの田中公康氏と、元朝日新聞編集委員でジャーナリスト、Gemba Lab代表の安井孝之氏が登壇。「何に悩み何を変えようとしているのか--ワークスタイル改革の現場検証」と題して、実際の取り組みの現場での悩みやトラブル、解決方法などを、コンサルタントとジャーナリストの目線から議論した。
田中氏は、「デジタル人事」領域の責任者だ。デジタルテクノロジーを活用した組織・人事サービスの専門家であり、生産性向上に向けた働き方改革や、Well-being実現に向けた健康経営、デジタル組織のマネジメント体制構築などのプロジェクトを多数手がける。ZDNetをはじめ、人事専門誌への寄稿でもお馴染みだ。
デロイト トーマツ コンサルティング
ヒューマン キャピタル ディビジョン
田中公康氏
安井氏は、日経ビジネス記者を経て88年に朝日新聞社に入社。東京経済部次長などを経て2005年に編集委員となり、企業の経営問題や産業政策を担当して、経済面コラム「波聞風問」などを執筆した。2017年4月に朝日新聞社を定年退職し、Gemba Labを設立。ジャーナリストとして、ビジネスや業務の現場を取材している。
対談は、企業を取り巻く情勢の変化を振り返ることからスタート。安井氏が「労働生産性を高めていかないと経済成長できないという問題意識がある。そもそも労働生産性が低い理由は何か」と聞くと、田中氏は「さまざまな理由があるが、1つには、ムダな会議と揶揄されるように、意思決定の段取りが非常に多いことが挙げられる。決定までに時間がかかるうえ、そのチェックでさらに時間がかかる」と回答した。
「人間はより人間らしい仕事に特化できるようになる」
安井氏が「ソーシャルやモバイル、クラウドなどの新しいテクノロジーを使ううえでのポイント」を聞くと、田中氏は「せっかくのテクノロジーを仕事でも積極的に活用していこうという方針を明示し、また意識を醸成することがポイントとなる。仕事が過度にプライベートに入りこまないように歯止めをかけるルール作りも重要」と回答。さらに「今後は、定型業務をロボットやRPAとよばれるロボット技術にまかせる動きが加速する」とした。それを受け、安井氏は「すでに米国では新聞記事を自動作成する動きも進んでいる。人間はより人間らしい仕事をするようになるのでは」と展望を示した。
Gemba Lab代表の安井孝之氏
人材教育について、安井氏が「ミレニアル世代といわれる若年層の労働観は、我々の世代の考え方とまったく違う」と指摘すると、田中氏は「若者の労働観や働き方の変化に経営層が対応することが重要。そうしないと優秀な人材はどんどん企業から流出する」とアドバイスした。
最後に安井氏が「ワークスタイル変革の取り組みが進むと、新しい変化に対応できない人もでてくる。どう対応したらいいか」とたずねると、田中氏は「人がやるべきことは何かを見直し、働く意義を意識的に見つめ直すことが大切。機械ができないことはたくさんある」とポジティブに捉えることが重要だと指摘。安井氏は「大変な時代ではあるが、人間が人間らしい仕事に特化できるようになる可能性に期待したい」とし、講演を締めくくった。