アルツハイマー病神経細胞死の仕組み解明へ前進

首都大学東京

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2012-02-27 09:00


首都大学東京(学長:原島文雄)大学院理工学研究科、久永眞市教授らのグループは、アルツハイマー病で見られるタウ蛋白の異常リン酸化が神経軸索内におけるミトコンドリアの輸送を特異的に阻害することを発見しました。本結果はこれまで不明であったタウ蛋白が細胞死を誘導する仕組みの解明について、大きく前進させるものと考えられます。
なお、今回の研究結果は科学雑誌The Journal of Neuroscience2月15日号に掲載されます。

アルツハイマー病は老人斑(βアミロイドの蓄積)と神経原線維(異常リン酸化タウ蛋白)を主な病理とする認知症です。ミトコンドリア機能障害も報告されていますが、βアミロイドやタウ蛋白のリン酸化との関連は判っていませんでした。
本研究では、アルツハイマー病で見られるタウ蛋白の異常リン酸化が神経軸索内におけるミトコンドリアの輸送を特異的に阻害することを細胞レベルの実験で確認したもので、タウ蛋白の異常リン酸化とミトコンドリアの関連を示す初めての発見です。さらに今回の研究では、輸送阻害が微小管間の距離の調節に依存している可能性も示しました。
今回の研究結果は、タウ蛋白の異常リン酸化が細胞死を誘導する仕組みを示唆する内容であり、アルツハイマー病の予防、治療戦略としてタウ蛋白のリン酸化をターゲットにするのが有効であると考えられます。

<論文名および著者名>
Regulation of mitochondrial transport and inter-microtubule spacing by Tau phosphorylation at the sites hyperphosphorylated in Alzheimer's disease(アルツハイマー病でみられるタウ蛋白の異常リン酸化はミトコンドリアの軸索輸送と微小管間の距離を制御する)
久永眞市、Kourosh Shahpasand(クロース シャハ゜サント゛)、上村伊佐緒、斎藤太郎、朝野維起、畑 憲治(首都大学東京) 豊島陽子、柴田桂太郎(東京大学)、長谷川成人(東京都医学総合研究所)

<アルツハイマー病とは>
アルツハイマー病は通常の老化よりも、より早く、より多くの神経細胞が死んで、認知機能障害を起こす神経変性疾患です。日本での患者数は150万人を超え、患者本人だけではなく介護する家族にとっても大きな問題となっています。アルツハイマー病患者の脳では老人斑と神経原線維変化が主な病理として観察されます。一方、アルツハイマー病の多くは孤発性で、遺伝的要因のない場合が大部分です。いくつかの危険因子が報告されていますが、アミロイドカスケードとの関連や発症、進行の仕組みは判らないことが多い。

■ 研究内容
アルツハイマー病におけるタウ蛋白のリン酸化部位は多数知られているが、それらリン酸化部位のうち、AT8(セリン199、セリン202、トレオニン205)部位に注目をした。その理由はそれらがタウ蛋白の微小管結合領域と突起領域の境に存在し、それらのリン酸化が突起の構造を変化させると報告されていたからである。また、アルツハイマー病の病理診断に最もよく用いられている抗体の認識部位である。
タウ蛋白のリン酸化されない変異体(3A)とリン酸化を模倣する変異体(3D)を作成した。3D変異体が実際にリン酸化と同じように構造変化を起こしているかを確認した後、神経細胞の分化のモデルとして使われるPC12細胞または神経細胞に遺伝子導入する条件を検討し、野生型(WT)と3A、3Dタウ蛋白の発現が同程度に起こっていることを確認した。
タウ蛋白を発現したPC12細胞と神経細胞の突起内でミトコンドリアの移動を観察したところ、細胞体から突起の先端へ向かうミトコンドリアの移動がリン酸化型タウ蛋白(3D)で特異的に阻害されていた。キネシンによるミトコンドリア輸送が阻害されていたものと思われる。
リン酸化型3Dタウ蛋白による阻害の仕組みを調べたところ、タウ蛋白によるキネシンと微小管の結合阻害ではなく、リン酸化型3Dがタウ蛋白の突起を突出させ、微小管間の距離を広げ、ミトコンドリアが移動できるスペースが狭く、また、スペースを作ることが出来なくなったためと考えられた。

■ 語句解説
■軸索輸送
 軸索は神経細胞の興奮を他の神経細胞や筋細胞などに伝えるための細い突起である。ヒトの軸索では、長いものは1mに及ぶ。軸索内ではタンパク合成など行われず、必要なタンパク質などは核の存在する細胞体からの輸送に依存している。この輸送を軸索輸送と呼ぶ。ミトコンドリアも軸索輸送によって運ばれ、軸索内でのエネルギーの供給を行う。ミトコンドリアの軸索輸送が障害されるとエネルギー供給が充分に行われず、神経軸索の変性が起こる。

■微小管
 軸索の構造を維持するとともに、軸索輸送のレールの役割をする細胞内の繊維状構造。直径25 nmの中空状の繊維で、細胞骨格の一つ。

■タウ蛋白
 微小管結合タンパク質の一つ。主に神経細胞の軸索内の微小管に結合して、微小管の安定性に寄与していると考えられている。正常神経細胞ではリン酸化・脱リン酸化によってその機能が制御されていることが示されている。アルツハイマー病ではタウ蛋白の異常リン酸化とそれから出来る神経原線維変化が主な病理(アルツハイマー病で特異的に見られる構造)として知られている。前頭側頭葉型認知症(FTDP-17)では原因遺伝子の一つとして同定されており、多くの変異が見つかっている。しかし、何故タウ蛋白の変異や異常リン酸化が細胞死を引き起こすかは不明であった。

■モータータンパク質(キネシンとダイニン)
 微小管の上を、ATPを分解しながら移動していくタンパク質。この移動時にミトコンドリアなど軸索内で必要とされる細胞内小器官などを運んでいく。キネシンは軸索の先端側に物質を運ぶモータータンパク質で、ダイニンは軸索の根元(細胞体)側に物質を運ぶモータータンパク質。

■アミロイドカスケード(参考資料2参照)
 アルツハイマー病発症の分子機構。アミロイド前駆体タンパク質(APP)からアミロイドβの産生がタウ蛋白の異常リン酸化と凝集体形成を引き起こし、細胞死そして認知症を発症させるというモデル。

■PC12細胞
 副腎髄質由来の培養細胞。神経栄養因子(NGF)処理で、神経突起を伸長し、神経様細胞に変化することから、神経細胞の分化のモデルとして使われている細胞。






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