芝浦工業大学の野村幹弘教授、今林慎一郎教授、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の八巻徹也上席研究員、澤田真一主任研究員らは共同で、熱化学反応で水から水素を製造するISプロセスの高効率化が期待されるイオン交換膜型ブンゼン反応方式の実用化を目的とし、新たに開発したイオン交換膜と電極触媒を用いた反応器を開発し、目標とする反応条件での実験に成功した。
【発表のポイント】
●高温熱を利用しCO2フリー水素を高効率に製造する膜分離新ISプロセスの実用化に必須となるイオン交換膜型ブンゼン反応器の開発に成功
●水素イオンを効率的かつ選択的に透過するイオン交換膜を開発
●イオン交換膜型ブンゼン反応器の大幅な省電力となる陽極電極触媒を開発
芝浦工業大学(学長 村上雅人。以下「芝浦工大」)の野村幹弘教授、今林慎一郎教授、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫。以下「量研機構」)の八巻徹也上席研究員、澤田真一主任研究員らは共同で、熱化学反応で水から水素を製造するISプロセスの高効率化が期待されるイオン交換膜型ブンゼン反応(以下「膜ブンゼン反応」)方式の実用化を目的とし、新たに開発したイオン交換膜と電極触媒を用いた反応器を開発し、目標とする反応条件での実験に成功した。
ISプロセスは、ヨウ素(I)と硫黄(S)を循環物質とした熱化学反応サイクルにより、水を分解して水素と酸素に変換する技術である。二酸化炭素(CO2)を排出することなく、高温熱を利用して水素を製造する方法として期待されている。プロセスの最初に位置するブンゼン反応は、大量の循環物質を必要とするが、その解決策として膜ブンゼン反応方式が検討されてきた。しかし、既存のイオン交換膜では水素イオンの選択的な透過性が十分でない問題があった。また、陽極側の電極触媒にて消費される電力が大きいことも問題であった。
このたび芝浦工大及び量研機構は、放射線を利用した高分子グラフトおよび架橋技術を用いて、網目構造を持つ新しいイオン交換膜を開発し、水の透過を既存の膜より60%削減し、さらに水素イオンの輸率をほぼ1.0と理論限界レベルに高め、水素イオンの選択的かつ効率的な透過を可能にした。また、芝浦工大は、新たに開発した貴金属複合触媒を陽極とする膜ブンゼン反応器を動作させて、陽極の消費電力が従来から半減することを確認した。
これらの成果に基づき、太陽熱を利用する場合の膜分離新ISプロセス全体のエネルギー計算を行った結果、太陽熱発電と水電解水素製造の組み合わせよりも10ポイント以上も効率が向上することが分かった。今後、イオン交換膜・電極触媒の耐久性向上、エネルギー低減に向けたさらなる改良などの実用化研究を進め、CO2フリーで高効率な水素製造・供給インフラへの貢献を目指していく。
この技術の詳細は、2017年3月6日から、芝浦工業大学 豊洲キャンパスで開催される化学工学会第82年会で発表される。
本研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」(管理法人:国立研究開発法人科学技術振興機構【理事長 浜口 道成(「浜」は異体字)】。以下「JST」)の委託研究課題「熱利用水素製造」(研究責任者:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 坂場 成昭)において実施された。
また、本研究の一部は平成25年度JST 戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALC)の委託研究「太陽熱を用いた革新的アンモニア製造技術の開発」において実施された。
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