「遺伝子発現の初期化」に重要な要素を発見 -- 近畿大学

近畿大学

From: Digital PR Platform

2018-07-12 14:05




近畿大学生物理工学部(和歌山県紀の川市)遺伝子工学科講師の宮本圭を中心とする、米国マサチューセッツ工科大学、英国ケンブリッジ大学らの共同研究グループは、分化※1 した細胞が卵子の中で初期化され、新たに遺伝子の転写※2 を開始する際、遺伝子ごとに効率が大きく異なる原因を明らかにしました。初期化の本質解明にむけて重要な発見といえます。
本件に関する論文が、平成30年(2018年)7月11日(水)(日本時間 AM1:00)に、米国の学術雑誌「Cell Reports」オンライン版に掲載されました。




【本件のポイント】
●細胞内の遺伝子の構造が開いていてアクセスしやすいことが初期化をしやすくする
●卵の中の転写因子とよばれるタンパク質によって、アクセスのしやすさが制御される
●クローン動物作成や再生医療のカギとなる「初期化」の解明に向けて重要な発見



【本件の概要】
 分化した成体の細胞を卵子の中に移植することによって、分化前の状態に戻すことができます。この現象を「初期化」といい、初期化技術を用いてクローン動物がつくられ、再生医療が大きな進展を遂げてきました。しかし、分化した細胞が卵子の中でどのように初期化されるのかは未だに解明されていません。初期化されるためには、分化細胞で発現している遺伝子を抑制し、未分化細胞でのみ発現する遺伝子を活性化する必要があります。これまで、この遺伝子発現※3 の初期化は効率が悪く、多くの遺伝子で失敗することが問題となってきました。
 近畿大学生物理工学部講師の宮本圭らの研究では、各遺伝子は場所によって構造に違いがあり、閉じた状態と開いた状態の遺伝子があり、その開き具合によってDNA結合因子※4 のアクセスのしやすさが変わることを示しました。また、このアクセスのしやすさの度合いが初期化に大きな影響を与え、アクセスが極端に悪いと遺伝子発現の初期化が起こらないことも明らかにしました。
 本研究成果によって、分化した細胞が未分化細胞で発現する遺伝子を活性化するには、遺伝子構造が開いていてアクセスしやすい状態であることが重要であることが明らかとなりました。初期化が起こりやすい状態へと遺伝子構造を人工的に変化させることができれば、初期化の効率をあげることも可能であり、転写の初期化の解明に向けて重要な知見を示したといえます。

【掲載誌】
雑誌名:''Cell Reports''(インパクトファクター:8.282/2016)
論文名:Chromatin accessibility impacts transcriptional reprogramming in oocytes
    (クロマチン※5 へのアクセスが卵母細胞における転写の初期化に影響を与える)
著 者:Kei Miyamoto(宮本 圭/近畿大学生物理工学部講師)、Khoi Thien Nguyen、George E Allen、Jerome Jullien、Dinesh Kumar、Tomoki Otani、Charles R Bradshaw、Frederick J Livesey、Manolis Kellis、John B. Gurdon
    ※責任著者=宮本 圭、Manolis Kellis、John B. Gurdon

【研究の背景】
 ヒトを含めたすべての動物の体は、無数の分化した細胞で構成されています。分化した細胞は通常、分化前の未分化な状態に戻ることはありません。しかし、分化した細胞核を未受精卵子内に移植することによって、細胞核が初期化され、未分化な状態に戻ります。この初期化技術を用いて、クローン動物が多くの動物種でつくられてきました。また、細胞を初期化してつくる人工多能性細胞(iPS細胞)の発見により、再生医療は大幅な進展を遂げました。しかし、卵子内で分化細胞核がどのようにして初期化されるかはわかっておらず、その全容解明が望まれています。

【研究の詳細】
 近畿大学生物理工学部の宮本圭を中心とした、米国マサチューセッツ工科大学、英国ケンブリッジ大学の共同研究グループは、卵子内での細胞核初期化機構の解明にむけて、カエル卵子にマウス分化細胞核を移植する独自の実験系を用いて研究を行いました。この実験系では、分化細胞核で発現していない遺伝子を活性化させることができます(遺伝子発現の初期化)。
 細胞核内には遺伝情報を有するDNAが存在し、DNAはクロマチン構造を形成しています。クロマチン構造によって、DNAへの核内タンパク質のアクセスが制限されており、これによって各遺伝子からの転写は大きな影響を受けます。遺伝子発現の初期化前後で細胞核内のクロマチン状態を、ATAC-seq(Assay for Transposase-AccessibleChromatinSequencing)と呼ばれる手法で調べ、クロマチン構造を形成せず、容易にアクセス可能なDNA領域を同定しました。遺伝子の転写状態との関係を調べてみたところ、分化細胞においてアクセス可能なDNA領域が優先的に遺伝子発現の初期化を受けることを明らかにしました。
 逆に、分化細胞においてアクセス不可能となっている領域からも遺伝子発現の初期化は起きますが、その効率は決して高くありません。例えば、卵に細胞核を移植後も継続的にアクセス不可能な状態を維持している遺伝子も多く見られました。遺伝子発現の初期化を成功させるためには、アクセス不可能の状態からアクセス可能へとクロマチン状態を変化させる必要があります。研究グループは、転写因子※6 と呼ばれるDNAに直接結合するタンパク質によってクロマチン状態の制御が行われることを示しました。
 以上の研究成果は、多くが謎とされてきた卵子内での分化細胞核の遺伝子発現初期化機構に迫るもので、初期化の解明に向けて重要な知見を示したといえます。

【今後の展望】
 本研究により、卵内での遺伝子発現の初期化には、クロマチン構造をアクセス可能な状態へと人工的に変化させることが重要であることがわかりました。アクセス状態を促進する因子を用いることで初期化効率の向上が見込まれ、初期化技術の効率化によって、再生医療やクローン技術の更なる発展が期待されます。

【用語解説】
※1 分化......発生の過程で、細胞が特殊化していくこと。胚発生の過程で分化が進み、体の様々な細胞がつくられる。
※2 転写......DNAの塩基配列(遺伝子)を元に、RNA(転写産物)が合成されること。遺伝子が機能するために必須のプロセス。
※3 遺伝子発現......細胞内で遺伝子のスイッチが入りRNAやタンパク質が合成される過程のこと。
※4 DNA結合因子......DNAに結合するタンパク質などの因子を示す。本研究におけるDNAへのアクセスの違いの検討には、Tn5 transposomeを利用する。
※5 クロマチン......DNAとヒストンなどのタンパク質複合体のこと。
※6 転写因子......遺伝子の転写開始や転写調節に関与するタンパク質の総称。DNA上に結合する。

【関連リンク】
生物理工学部遺伝子工学科 講師 宮本 圭(ミヤモト ケイ)
  (リンク »)

関連URL:
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▼本件に関する問い合わせ先
総務部広報室
住所:〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1
TEL:06‐4307‐3007
FAX:06‐6727‐5288
メール:koho@kindai.ac.jp


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