近畿大学薬学部病態分子解析学研究室教授の多賀淳と講師の山本哲志を中心とする研究グループは、天然甘味料であるメープルシロップ・メープルシュガーから、新しいオリゴ糖「メープルビオース」を発見しました。メープルビオースは、ラットを用いた動物実験によって、砂糖の主成分であるショ糖に微量を加えるだけでショ糖のみの場合と比べて血糖値の上昇を約半分に抑えることが確認されました。本件に関する論文が、令和元年(2019年)10月11日に、分子科学分野の学術誌 Internatuinal Journal of Molecular Sciences (インパクトファクター 4.183)にオンライン掲載されました。
【本件のポイント】
●天然甘味料であるメープルシロップから、新しいオリゴ糖「メープルビオース」を発見
●ラットによる動物実験では、微量のメープルビオースを同時摂取するとショ糖の吸収を半分に抑制
●天然成分であるメープルビオースを使って、美味しい病院食や健康食品の開発をめざす
【研究の概要】
近年、糖尿病などの生活習慣病では「予防」の重要性が注目されており、アンチエイジングやダイエットのために糖質制限を行う人も増えています。糖尿病薬などの医薬品は血糖値の上昇を抑える効果が高いですがあくまでも医療用であり、予防やアンチエイジングには糖吸収を抑える天然成分や食品が期待を集めています。
研究グループは、株式会社メープルファームズジャパンとの共同研究のもと、北米産サトウカエデのメープルシロップ、メープルシュガー、加工前樹液の機能性について研究を行ってきました。その結果、これまでに報告されていない構造を持つ新しいオリゴ糖「メープルビオース」を発見しました。ラットを用いた動物実験では、スクロース(ショ糖)摂取時にショ糖に対してわずか0.11%のメープルビオースを添加することで血糖値の上昇を約半分にまで抑えました。
【論文掲載】
論文名:Identification of a Novel Oligosaccharide in Maple Syrup as a
Potential Alternative Saccharide for Diabetes Mellitus Patients
(糖尿病患者に対する代替糖として有用なメープルシロップに含まれる新規オリゴ糖の同定)
掲載誌:分子科学分野の学術誌″Internatuinal Journal of Molecular Sciences″
(インパクトファクター:4.183)
著 者:佐藤 完太(筆頭著者)...近畿大学大学院薬学研究科博士課程4年(病態分子解析学研究室)
長井 紀章...近畿大学薬学部(製剤学研究室)
山本 哲志、三田村 邦子、多賀 淳(責任著者)...近畿大学薬学部(病態分子解析学研究室)
【研究の詳細】
研究グループは、サトウカエデ樹液の主な成分のうち糖質について分析を行い、還元末端側にフルクトース残基を有するオリゴ糖がいくつか存在することを発見しました。さらに、フルクトース残基を解離させるインベルターゼ(スクラーゼ)という酵素を働かせた際に消失する糖鎖があることに気づきました。その糖鎖を調べると、これまでに報告のないオリゴ糖である可能性が高まり、物理的な性質としてはスクラーゼに強い親和性を持ちながらも分解されにくい構造であることがわかりました。
このような特徴は、糖の分解酵素を競合的に阻害できる、つまり、糖の吸収を抑制できる可能性があることを意味します。そこで、試験管内で種々の酵素阻害活性を調べたところ、少なくともインスクラーゼ、マルターゼ、イソマルターゼなどのa-グルコシダーゼ類を阻害することがわかりました。また、II型糖尿病モデルラットを用いた動物実験では、スクロース(ショ糖)の負荷実験において、ショ糖に対して0.11%のメープルビオースを同時摂取したところ、ショ糖だけを摂取した場合のおよそ半分にまで血糖値の上昇を抑えました。
医療用の糖吸収阻害剤や糖吸収を緩やかにすることが期待される健康食品、機能性表示食品はすでに存在しますが、これらの多くはマルターゼやイソマルターゼを阻害して穀物のデンプンなどグルコースの多糖やオリゴ糖の分解を抑えることで血糖値上昇を抑制します。それに対して、メープルビオースは、砂糖の主成分であるショ糖の分解酵素であるスクラーゼの阻害活性が強いことが特徴と考えられます。
【今後の展望】
メープルシロップは昔から人が摂取してきた食品であり、その成分であるメープルビオースは、特に高濃度で使用しなければ副作用の心配が小さい素材であると考えられます。ラットを使った実験では、ショ糖に微量を加えるだけで血糖値の上昇を約半分に抑えるという結果がでているため、糖質制限が必要な人たち向けに、砂糖の甘さを感じながら糖吸収を抑えるスイーツなどの開発も期待されます。美味しく食べて成人病予防ができるように、現在、メープルビオースの製造方法の効率化についても研究を進めています。
【関連リンク】
薬学部 医療薬学科 准教授 長井 紀章(ナガイ ノリアキ)
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薬学部 医療薬学科 講師 山本 哲志(ヤマモト テツシ)
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薬学部 医療薬学科 准教授 三田村 邦子(ミタムラ クニコ)
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薬学部 医療薬学科 教授 多賀 淳(タガ アツシ)
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関連URL:
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