学校法人同志社 同志社大学
同志社大学大学院脳科学研究科 髙橋晋教授 研究グループ発表論文
遊泳するマス(サケ科魚類)の脳活動を無線計測
サケは、川で孵化し海洋で成長しますが、数年間にわたり、数千キロもの回遊を経て生まれ育った母川へ回帰し、産卵することが知られています。サケが、この母川回帰と呼ばれる優れたナビゲーション能力をもっていることはよく知られており、母川の匂いや地磁気コンパスを手掛かりとしていると考えられていますが、それらの情報を処理しているはずのサケの脳活動については未だ不明です。
同志社大学 髙橋晋 教授は、日本大学、名古屋大学、東京大学、順天堂大学に所属する神経科学者、水産学者、生態学者らとともに、水中を遊泳するマス(サケ科魚類)の脳活動を無線記録する手法を確立しました。まず、独自に設計した防水ケースを3Dプリンタを活用して作製し、その中に小型軽量かつ無線で脳活動を計測可能なニューロ・ロガーを封入しました。そして、ラットやマウスを対象にして培ってきた電気生理学技術を組み合わせることで、水タンク内を泳いでいるマスの終脳から脳神経細胞の電気的な活動を記録しました。その結果、頭がある一定の方向を向いているときにだけ興奮する神経細胞を発見しました。
このような頭方位細胞と呼ばれる細胞タイプは、哺乳類だけでなく、昆虫にも見つかっており、魚類では金魚の終脳にも存在することがわかっています。このように多動物種に跨り存在する頭方位細胞がサケ科魚類にも発見されたことは、本研究で開発された手法が、水中で遊泳するサケ科魚類の脳活動を計測する能力があることを示唆しています。また、それが方位に関連していることから、本研究手法が今後発展し、自然の河川においても活用できるようになれば、将来的には、地磁気コンパスと脳活動の関連性などを通じて母川回帰を理解する新しい研究展開が生まれ、またサケの生態理解からその保全や漁獲に関する新たな知見に繋がることが期待されます。
本研究の成果は、2021年2月12日に、英科学誌「Animal Biotelemetry (リンク ») 」にオンライン掲載されました。
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