使われない筋⾁の萎縮過程におけるオートファジーによるミトコンドリア分解の増加を発⾒

国立大学法人新潟大学

From: 共同通信PRワイヤー

2021-05-27 14:32

 新潟⼤学⼤学院医⻭学総合研究科機能制御学分野の⼭下俊⼀助教、井上敬⼀特任助教、神吉智丈教授、⼤正製薬株式会社Discovery研究所の久間昌尚研究員らの研究グループは、使われない⾻格筋が萎縮していく過程でオートファジー(1)によるミトコンドリア分解(以下、マイトファジー)が増加することを発⾒しました。本研究は、⾻格筋が萎縮するメカニズムの⼀端を明らかにするもので、現在の超⾼齢社会において必要な“健康寿命の延伸”につながる重要な発⾒といえます。

【本研究成果のポイント】
・マイトファジー活性を検出できる新たなマウスを開発
・⾻格筋の萎縮過程では、マイトファジー活性は増加する
・⾻格筋の萎縮過程では、マイトファジー関連遺伝⼦の発現も増加する

Ⅰ.研究の背景
 ⾻格筋は使われない状態が続くと次第に萎縮します。その際ミトコンドリアから産⽣される活性酸素種(2)の増加が、筋⾁を構成するタンパク質の分解を増加させ、萎縮を促進すると考えられています。しかしながらミトコンドリアからの活性酸素種が増加するメカニズムは明らかにされていません。本研究グループは、オートファジーによるミトコンドリア分解(マイトファジー)が低下することがその原因ではないかと考え、⾻格筋の萎縮過程におけるマイトファジー活性の変化を調べました。

Ⅱ.研究の概要
 本研究では、上記の問題に対する結論を得るために、⽣体内で起こるマイトファジー活性を可視化できるマイトファジー活性観察マウス(以下、マイトファジー観察マウス)を新たに作製しました(図1)。このマイトファジー観察マウスは、ミトコンドリアに特異的にmCherry(⾚)とEGFP(緑)を連結した蛍光タンパク質を発現しており、正常なミトコンドリアは⾚と緑の2種類の蛍光を発します。⼀⽅、ミトコンドリアがオートファジーによりリソソーム(3)に運び込まれると、EGFPがmCherryに⽐べ優先的に分解され、マイトファジー活性は⾚のみの蛍光として観察することができます。このマイトファジー観察マウスを⽤いて、後肢にギプス固定を施し使えなくすることで、筋萎縮を誘導し、この際に起こるマイトファジー活性の変化について検討しました。

【画像: (リンク ») 】

Ⅲ.研究の成果
 マイトファジー観察マウスの後肢をギプスで2週間固定したマウスの⾻格筋(ヒラメ筋、⾜底筋)を取り出し、その重量を計測したところ、ギプス固定しなかったマイトファジー観察マウスに⽐べ有意に減少していました。またギプス固定したマウスでは、活性酸素種の増加やミトコンドリア量の減少も確認されました。さらにギプス固定したマイトファジー観察マウスの⾻格筋組織のマイトファジー活性を計測したところ、ギプス固定しなかったマウスに⽐べ、著しく増加していることが明らかとなりました(図2)。この結果は、マイトファジーの誘導に関係する遺伝⼦群の発現が増加していることからも確認されました。以上の結果から本研究グループは、ギプス固定により萎縮を起こした筋組織において、マイトファジー活性が増加していると結論づけました。

【画像: (リンク ») 】

Ⅳ.今後の展開
 今回の研究により、筋萎縮の起こる過程において、活性酸素種の産⽣増加とマイトファジー活性の増加が競合的に起こっている中、活性酸素種の産⽣増加が相対的に多いことから筋萎縮が進⾏するのではないかと考えています。本研究は、⾻格筋が萎縮するメカニズムの⼀端を明らかにするもので、現在の超⾼齢社会において必要な“健康寿命の延伸”につながる重要な発⾒といえます。今後はマイトファジー活性を阻害することで、筋萎縮の進⾏におけるマイトファジーの機能を明らかにするとともに、マイトファジー活性調節による筋萎縮の治療法の開発を⾏う予定です。

Ⅴ.研究成果の公表
 これらの研究成果は、2021年5⽉2⽇、Journal of Cellular Physiology誌(IMPACT FACTOR 5.546)に掲載されました。
論⽂タイトル:Mitophagy reporter mouse analysis reveals increased mitophagy activity in disuse-induced muscle atrophy(マイトファジー観察マウスの解析により明らかとなった、廃⽤性筋萎縮時におけるマイトファジー活性の増⼤)
著者:Shun-Ichi Yamashita#, Masanao Kyuuma#, Keiichi Inoue#,*, Yuki Hata, Ryu Kawada, Masaki Yamabi, Yasuyuki Fujii, Junko Sakagami, Tomoyuki Fukuda, Kentaro Furukawa, Satoshi Tsukamoto, Tomotake Kanki* (⼭下俊⼀#、久間昌尚#、井上敬⼀#,*、畑優紀、川⽥⻯、⼭⽕正毅、藤井康⾏、坂神純⼦、福⽥智⾏、古川健太郎、塚本智史、神吉智丈*) #同等貢献、*責任著者
doi: 10.1002/jcp.30404

Ⅵ.本研究への⽀援
 本研究は、JSPS新学術領域研究19H05712、18H04858、18H04691、16H01198、挑戦的研究(萌芽)20K21521、基盤研究(B)20H04035、17H03671、若⼿研究(B)17K15088、研究活動スタート⽀援19K23822、国際共同研究加速基⾦16KK0162、武⽥科学振興財団、鈴⽊謙三記念医科学応⽤研究財団、花王健康科学研究会およびAMED⾰新的先端研究開発⽀援事業PRIME「全ライフコースを対象とした個体の機能低下機構の解明」18gm6110013h0001の⽀援を受けて⾏われました。

●⽤語の説明
(1)オートファジー:不要になったタンパク質や細胞⼩器官をオートファゴソームと呼ばれる⼆重膜で包み込み、リソソームと融合することで分解するシステム。その中でもミトコンドリアを選択的に取り込み分解するものをマイトファジーという(図1参照)。
(2)活性酸素種:酸素分⼦に由来する、反応性が⾼い分⼦の総称。⽣体内においてDNA やタンパク質などの⽣体分⼦を酸化させ、損傷を与える。ミトコンドリアでのエネルギー産⽣の際の副産物として産⽣され、活性酸素種の増加はさまざまな疾患の発症や⽼化の進⾏に関わると考えられている。
(3)リソソーム:⼩さな球状の細胞⼩器官で、内部に各種の消化酵素を含んでいる。細胞内で不要になった物質や細胞外から取り込んだ物質の分解を⾏う。オートファゴソームとも融合することで、オートファゴソーム内の物質の分解も⾏う。



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