令和3年7月13日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
畜産の重要寄生虫、カタツムリから幼虫発見 ~ 槍形吸虫のスポロシストを野外で初めて検出 ~
東邦大学の脇 司講師と北海道大学の尾針 由真博士研究員、岡山理科大学の林 慶助教、岐阜大学の高島 康弘准教授、森部 絢嗣准教授、松尾 加代子客員獣医学系教授(熊本県阿蘇保健所)の研究グループは、国内において感染経路が不明であった槍形吸虫の幼虫を日本で初めて野外から発見しました。
本研究成果は、日本時間2021年7月10日(土)に「The Journal of Veterinary Medical Science」にて発表されました。
【発表者名】
脇 司(東邦大学理学部生命圏環境科学科 講師)
高島 康弘(岐阜大学応用生物科学部 准教授)
森部 絢嗣(岐阜大学応用生物科学部/社会システム経営学環 准教授)
松尾 加代子(岐阜大学応用生物科学部 客員獣医学系教授)
【発表のポイント】
●槍形吸虫は畜産上重要な寄生虫であるが、国内における感染経路は不明であった。
●岐阜県で採取したカタツムリの一種オオケマイマイから、野外ではじめて槍形吸虫(Dicrocoelium chinensis)の幼虫を発見した。
●オオケマイマイが槍形吸虫の感染源である可能性が示された。
【発表概要】
槍形吸虫は、ウシなどの家畜の寄生虫で、日本では様々な教科書に掲載されている畜産上重要な寄生虫ですが、実は感染経路がよくわかっていません。
この虫は、ヤマボタルガイというカタツムリの仲間からアリを経由して家畜に感染すると考えられてきましたが、ヤマボタルガイのほとんどいない地域でも、ニホンジカなどの野生動物から高率に槍形吸虫の感染が確認できます。また、実際に野外でヤマボタルガイやアリから虫体を見つけた例は今までありません。
そこで、ヤマボタルガイの見当たらない岐阜県下で様々なカタツムリの体内を調べたところ、オオケマイマイというカタツムリから槍形吸虫(Dicrocoelium chinensis)の未熟な幼虫を発見しました。脇講師は「オオケマイマイは中部のいろいろな場所に生息する。今後、このカタツムリから完全に成熟した幼虫が確認されれば、オオケマイマイが主な感染源と言えるようになるのでは。今後も調査を続けたい。」とコメントしています。
‟蟻さんが、槍をふりふり、蛍狩り”-----これは、獣医を志す学生さんが槍形吸虫の生活史(ヤマボタルガイとアリが感染源になっていること)を覚えるために使っている語呂合わせです。「蛍」はもちろん「ヤマボタルガイ」のことですが、今後の研究結果によって、この語呂も変わっていくのかもしれません。
【発表内容】
ヤマボタルガイの見当たらない岐阜県下において様々な種類のカタツムリを採集し、その体内から吸虫の幼虫を単離しました。形態から吸虫の種類を同定することは困難なため、DNAバーコード(注1)を用いて同定をしたところ、オオケマイマイ(図1)の体内から得られたスポロシストと呼ばれるステージにある吸虫の幼虫(図2)が、槍形吸虫(Dicrocoelium chinensis)であることが明らかになりました。
・研究の背景
槍形吸虫は、ウシなどの家畜に寄生する畜産上重要な寄生虫で、獣医学生向けの様々な教科書に掲載されている主要な寄生虫ですが、感染経路がよくわかっていません。実験的にヤマボタルガイというカタツムリに感染させることができたという事例もあり、これまで槍形吸虫はヤマボタルガイからアリを経由して家畜に感染すると考えられてきました。
一部の教科書にもそのように記載されていますが、実際に野外でカタツムリやアリから虫体が見つかった例は今までありません。また、ヤマボタルガイは主に北日本に分布しますが、ヤマボタルガイのほとんどいない地域でも槍形吸虫は分布しており、例えば岐阜県ではヤマボタルガイが見当たらないにもかかわらず、ニホンジカなどの野生動物が高率に槍形吸虫に感染しています。野外における実際の感染経路についてはこれまで不明でした。
・研究の経緯
岐阜県下で14種269個体のカタツムリを採取し体内に吸虫の幼虫が感染しているかどうか調べたところ、2種6個体のカタツムリから吸虫の幼虫(スポロシスト)が得られましたが、幼虫の形態だけで吸虫の種を同定するのは困難です。そこで、得られた幼虫からDNAを抽出し、cytochrome c oxidase subunit 1 遺伝子の一部の塩基配列を決定しました。この配列をもとにDNAバーコードを用いて種同定を行ったところ、オオケマイマイに感染していた幼虫と槍形吸虫(成虫、図3)の塩基配列が高い相同性を示し、この幼虫が槍形吸虫(Dicrocoelium chinensis)であることが分かりました。
・今後の展望
今後は野外のオオケマイマイの体内で成熟した槍形数虫の幼虫が、アリに感染し、さらにはウシなどの家畜に感染し得ることを証明する必要があります。いずれにしても本研究により、これまで全く注目されてこなかったオオケマイマイが国内における主要な感染源である可能性が示されました。本研究成果は、家畜の槍形吸虫症の防除において重要な知見です。
【発表雑誌】
雑誌名:「The Journal of Veterinary Medical Science」(ISSN 1347-7439)
論文タイトル: The first detection of Dicrocoelium chinensis sporocysts from the land snail Aegista vulgivaga in Gifu Prefecture, Japan
著者:Tsukasa Waki, Yuma Ohari, Kei Hayashi, Junji Moribe, Kayoko Matsuo,
Yasuhiro Takashima
DOI番号: (リンク »)
アブストラクトURL:
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【用語解説】
(注1)DNAバーコード
予め生物種ごとに特定遺伝子の塩基配列についてデータベースにしておき、種の分からない生物の遺伝子の塩基配列をデータベースに照合することで、その生物種を特定する手法。
【添付資料】
【画像: (リンク ») 】
図1. オオケマイマイ
【画像: (リンク ») 】
図2. オオケマイマイから得られた槍形吸虫のスポロシスト
スケール:200 μm.
【画像: (リンク ») 】
図3. ニホンジカから得られた槍形吸虫の成虫
スケール:1 mm.
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