雪を利用した天然の冷蔵庫「雪室」は、新潟県などの多雪地域に古くから伝わる農産物などの貯蔵方法です。低温高湿度に保たれるため食品や農作物の鮮度をより良く保つことができるだけでなく、電気を用いないで冷やせるため、雪室は二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギー利用として注目を集めています。新潟県内の企業を中心に雪室を活用する企業も増えており、新たなビジネスとして広がりを見せています。
下記に雪室の特徴や導入企業の事例をまとめておりますので参照の上、ご取材を検討いただけましたら幸いです。
■雪国ならではの「クリーンエネルギー」 :ワクチン接種会場の冷房にも
雪室の活用は脱炭素社会に向けた取り組みの一つとなるものです。雪1トンの利用を石油で換算すると10リットル分、CO2で換算すると30kg分削減できるといわれています。雪冷熱エネルギーを活用した施設である雪室や雪冷房は電気を使用しない(または使用する電気が少ない)ことから、CO2排出の削減を目指すSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献できます。
また最近では、新潟県南魚沼市が東京五輪の観客用の冷房に利用するために提供予定だった雪を、市内の新型コロナワクチン接種会場の冷房として利用するなど、雪冷熱エネルギーのさまざまな活用が進んでいます。
(株)SnowBiz代表取締役の伊藤親臣氏((公財)雪だるま財団 前副理事長)は「日本は国土の半分に雪が降る。雪は、雪国の人々の暮らしを大きく制限する「厄介者」でもあるが、雪の冷熱を利用した雪冷房施設や、雪室で食材を熟成させ高付加価値化を図るなど、新たな産業が生まれつつある。厄介者が純国産の新たな資源として生まれ変わろうとしている。日本は雪資源大国なのです」とコメントしています。
■食味や品質向上効果もあり県内では雪室導入企業が増加中
新潟県は、雪室(雪を利用した施設含む)の数が北海道につぎ全国2位※1で、雪冷熱エネルギー利用の先進県です。県内では酒造会社、農業組合などが活用しているほか、複数の企業が共同出資して雪室活用ブランドを立ち上げるなど、活用の幅は多岐に渡ります。また、今年に入ってナショナルブランドでもある菓子メーカーの(株)ブルボンも新工場で雪室を利用することを表明しており、今後全国から注目されることが予想されます。
雪室活用企業が増加している理由としては、脱炭素問題の解決に向けた動きのほか、雪室の利用による食味・品質の向上効果も考えられます。研究によれば、ジャガイモを保存した場合、保存日数が増すにつれて糖度が増加し、約8か月後には糖度が2倍※2に上昇します(図1)。また食味向上効果については、コーヒーの官能評価分析からも、常温保存と比較して甘味や風味の増加※3が示されています。(図2)
図1
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図2
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※1 2021年 日本政策投資銀行レポート
※2 にいがた雪室ブランド事業協同組合 ※調査対象:インカのめざめ(ジャガイモ)/にいがた雪室ブランド事業協同組合 加藤工業㈱調べ
※3 公立大学法人新潟県立大学
雪室の特徴
■1年を通して、一定した低温・高湿度環境が保てる
雪室は、一年を通して安定的に低温と高湿度を保つことができるという特徴があります。電気冷蔵庫と比べると、内部の温度変化(温度のゆらぎ)や、霜取りによる除湿の影響等がなく、低温状態(ほぼ0℃)と高湿度環境(ほぼ100%)を維持できることがわかります。(下図参照)
一定した低温・高湿度環境が保たれる雪室の内部は乾燥し難いため、貯蔵物の鮮度保持や低温熟成の効果が期待できます。例えば、根菜類などは、寒さから身を守るためにデンプンを糖に変化させる「低温糖化」作用によって甘くなります。また、低温熟成によって肉などに含まれるタンパク質は、アミノ酸に変化するため「うま味」が増します。
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■自然との共存、雪エネルギーの活用で脱炭素社会へ
雪室は雪を再利用する、自然リサイクルエネルギーです。雪は生活をしていく上で厄介なものですが、雪国新潟では「利雪(=雪を利用し、共存する)」という考え方が発展してきました。50年ほど前には電気冷蔵技術の普及等により一時衰退しましたが、現在では環境意識の高まりなどを受けて、改めて雪室の有用性が見直されています。雪エネルギーを利用した場合、雪1トンで、石油を10リットル、CO2を30kg削減する効果が見込まれるため(※一般的な雪室に蓄えられる雪の量は400トン~700トン)、雪室の活用は脱炭素社会の実現に向けた取り組みの一つとなり得ます。
雪冷熱エネルギーのビジネス活用・公共利用
■法制度改正による追い風で「雪室に預ける」という付加価値を提供
これまで雪冷熱エネルギーを利用した倉庫では、他事業者の商品の寄託を受ける倉庫業としての登録が法的に認められていませんでしたが、2020年2月に倉庫業法施行規則等運用方針が改正され、雪室を営業倉庫として活用することが可能になりました(図3参照)。これにより、物流サービスを展開するマルソー株式会社(本社:三条市)の雪室倉庫が2021年4月に全国で初めて営業倉庫として登録されました。
■ワクチン接種会場の冷房にも。今後、災害時の備蓄庫としても期待
2021年夏、新潟県南魚沼市は東京五輪の観客用の冷房に利用するために提供予定だった雪を、市内の新型コロナワクチン接種会場の冷房として利用しました。このような雪の公共利用は今後も状況に応じて広がりを持つと考えられます。
また、今後は食品や農作物以外に、ワクチンなどの備蓄に雪室を活用することも期待されています。その他災害による停電時などにも電気を使用せずに、冷蔵が可能であるため、防災時における物流の要にもなります。
また倉庫業として雪室の活用推進により、自社で雪室施設を持たない事業者も商品を雪室で貯蔵できるようになることから、県産品の付加価値化の幅が広がることでブランド化がさらに進展し、産業の活性化が見込めます。
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新型コロナワクチン接種会場の雪冷房を準備する様子(南魚沼市)
雪室の県内導入事例
(リンク »)
■八海醸造株式会社
1,000トンの雪を収容する雪中貯蔵庫で、長期間、日本酒を
熟成させることができます。雪室で貯蔵することにより、まろやかな味わいの日本酒が生まれます。空きスペースでは野菜等も貯蔵。
館内には焼酎貯蔵庫やカフェ、キッチン雑貨店などもあります。
(リンク ») ■JA北魚沼
雪室に約1,500トンの雪を貯め、併設する貯蔵庫の米を雪冷房
で保管。 雪の冷熱は一定の低温状態と高湿度環境を維持でき
ることから、一年中新米の鮮度を保持するほか、 低温熟成の効
果も期待できます。 雪のエネルギーを活用し、クリーンでエコな雪
室で貯蔵した米を【雪室貯蔵米北魚沼コシヒカリ】として付加価
値つけて全国に発信しています。
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■にいがた雪室ブランド事業協同組合(越後雪室屋)
越後雪室屋は「雪室」を使用した食材の統一ブランドです。
雪室貯蔵食材の美味しさを広めることを目的として県内の24
企業が参画し、 「雪室熟成和牛」や「雪室珈琲」等の商品を
首都圏や海外に向けて販売するなど、新潟の雪室文化を発信
しています。
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■株式会社ブルボン
2022年に完成予定の魚沼市の新工場にて雪室を利用した
原料貯蔵棟を併設予定。チョコレートの原料となるカカオ豆
や、そのほかの原料などを保管する見通し。この新工場により、
ブルボンは新潟県内9工場を含む国内10工場の体制と
なります。雪室を活用しチョコレート等の品質向上を目指して
いきます。
株式会社SnowBiz 代表取締役 伊藤親臣氏について
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1971年愛知県名古屋市生まれ。
2008年、室蘭工業大学大学院工学研究科博士後期課程修了。浸水式
雪冷房システムの開発に関する研究により博士号を取得。雪利用の実践研究と普及を目指し新潟県安塚町(現:上越市)に設立された雪だるま財団に勤務。雪氷冷熱エネルギーの専門家として活躍。令和元年12月に雪をコンテンツとしたコンサルタント会社「SnowBiz」を設立。雪冷房システムの設計・監修から雪イベントまで幅広く手掛ける。「雪の出番を作ること」をライフワークにしており、東京2020オリンピック聖火ランナーも務めた。
東京農業大学客員教授、北海道文教大学客員教授、新潟県立大学非常勤講師など
教鞭をとる一方、にいがた雪室ブランド事業協同組合顧問として雪によるブランド化
を目指している著書に「空から宝ものが降ってくる(旬報社)」など。
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