関西大学総合情報学部の村田忠彦教授と芝浦工業大学システム理工学部の原田拓弥助教らの研究グループは、スーパーコンピュータを用いて、実世界を実規模でシミュレートする「リアルスケール社会シミュレーション」を実現するための「合成人口データ」と呼ばれる模擬個票(図1参照)の作成に取り組んでいます。このたび、国勢調査と経済センサスのデータを用いた居住地と勤務地を結ぶ技術開発に成功しました。この研究成果は、内閣官房COVID-19 AI・シミュレーションプロジェクトやJST未来社会創造事業で活用されています。
【本件のポイント】
・模擬的な個票データを、個人情報を保護しつつ、スーパーコンピュータを用いて作成
・居住地と勤務地を結んだ模擬個票で実際に起こり得る人流の可視化に成功
・JST未来社会創造事業や内閣官房COVID-19 AI・シミュレーションプロジェクトで活用予定
今回、開発したのは、日本の1,741の各市区町村の模擬個票の就業者の従業地を割当てる技術です。従来の模擬個票データでは、国勢調査に基づいて世帯単位の家族構成と場所の属性の割当てを行い、いわゆる夜間人口分布の推計を行っていました。国勢調査と経済センサスのデータを用いて、就業者の従業地の割当てを行い、模擬個票から集計できる就業者に関する統計値と実統計値との誤差をゼロにすることができました(図2参照)。最新の研究成果が、40万人以上の会員を抱える世界最大の工学系学術団体であるIEEE発行のIEEE Transactions on Computational Social Systemsから出版されました。
村田教授らが開発した模擬個票データは、個人情報を一切使用せず、公開されている統計のみから作成されています。模擬個票データは、個人情報を侵害せずに、サイバー空間に模擬的な実社会を構築するデジタルツインの実現に必要不可欠です。感染症蔓延時の外出規制、テレワーク、観光対策、ワクチン接種計画や災害時の被災者の救出・救援、救急対応、帰宅支援等の非常時だけでなく、救急医療・地域医療・予防医療等の医療基盤の構築、交通制御や都市設計など平常時の政策アセスメントにも活用できます。さらに、既知の条件を用いた「ありえる未来像」である現状からのシミュレーションに加えて、従来の政策では到達できない「ありたい未来像」に必要な諸条件をみつけだすバックキャストを実現する「リアルスケール社会シミュレーション」のためにも必須の基礎技術となります。
なお、本テーマは2019年4月から4期連続で採択されているJHPCN(学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点)の提供する高性能計算機と、2020年11月から採択されているJST未来社会創造事業「超スマート社会の実現」領域の支援を受けながら開発を進めています。
【本件に関するお問い合わせ先】
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E-mail:murata@kansai-u.ac.jp
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