慢性骨髄性白血病治療薬「ダサチニブ」の効果がなくなる(抗がん剤耐性)原因を発見 治療抵抗性患者への新たな治療法開発に期待

近畿大学

From: Digital PR Platform

2023-02-28 14:05




近畿大学薬学部(大阪府東大阪市)医療薬学科薬物治療学研究室教授 西田 升三(研究責任者)、准教授 椿 正寛(論文筆頭者;Cell Proliferation、インパクトファクター:8.755)、助教 武田 朋也と、近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)ゲノム生物学教室教授 西尾 和人、講師 坂井 和子らの研究チームは、慢性骨髄性白血病の治療で広く利用される「スプリセル(一般名:ダサチニブ)」の効果がなくなる原因の一つを明らかにしました。本研究成果により、ダサチニブ治療に抵抗性を示した患者への新たな治療法開発につながることが期待されます。




本件に関する論文が、令和5年(2023年)2月28日(火)AM0:00(日本時間)に、米国のWiley社が発行する国際的な生命科学の学術雑誌''Cell Proliferation''に掲載されました。


【本件のポイント】
●慢性骨髄性白血病の治療薬であるダサチニブが効かなくなる原因の一つが、別の2つの遺伝子の過剰発現であると解明
●過剰発現する遺伝子などを抑制する薬剤と、ダサチニブを併用することで、ダサチニブ治療抵抗性細胞に細胞死を誘導
●本研究成果を生かした、ダサチニブが効かない患者への新たな治療法開発に期待

【本件の背景】
慢性骨髄性白血病は、造血幹細胞に異常が生じる血液の疾患で、世界では10万人に1~2人が発症します。この疾患は、9番染色体上にあるABL1という遺伝子と、22番染色体のBCRという遺伝子が入れ替わり(転座)、2つの遺伝子が融合した異常なBCR::ABL1融合遺伝子※1 が形成されることが主な原因で、90%以上の患者でこの遺伝子が確認されています。
このBCR::ABL1融合遺伝子が原因の慢性骨髄性白血病に有効な治療薬として、BCR::ABL1阻害薬※2 である「ダサチニブ」が広く使用されていますが、約30%の患者では治療の途中で効果がなくなり、がん細胞が再び増大することが医療上の問題となっています。この原因の一つとして、BCR::ABL1融合遺伝子の突然変異が明らかになっていますが、それ以外にも原因があると考えられ、詳細は明らかになっていません。BCR::ABL1阻害薬が効かなくなった後の治療は難しく、有効な治療法の開発が必要とされています。

【本件の内容】
研究チームは、まず、本来ダサチニブで治療効果が得られる慢性骨髄性白血病細胞を元に、ダサチニブが効かない治療抵抗性細胞を作成しました。作成した治療抵抗性細胞では、新たにMOSとTPL2※3 という2つの遺伝子に過剰発現が生じ、ダサチニブ治療下においても増殖することがわかりました。さらに、2つの遺伝子の過剰発現は、がんの生存・増殖に関与するERK1/2というタンパク質を活性化することがわかり、この一連の流れを阻害する薬剤を用いることで、ダサチニブ治療抵抗性細胞に細胞死を誘導できることを明らかにしました。
これにより、BCR::ABL1融合遺伝子の変異等に依存しないダサチニブ治療抵抗性の原因が明らかになり、MOS、TPL2及びERK1/2の阻害薬とダサチニブの併用が新たな治療法として有望である可能性が示唆されました。

【論文掲載】
掲載誌:Cell Proliferation(インパクトファクター:8.755@2021)
論文名:Activation of ERK1/2 by MOS and TPL2 leads to dasatinib resistance in chronic myeloid leukemia cells
(慢性骨髄性白血病細胞におけるMOS及びTPL2によるERK1/2の活性化がダサチニブ抵抗性を誘導する)
著者 :椿 正寛1、武田 朋也1、河本 雄一1、宇佐見 拓丈1、松田 拓弥1、関 しおり1、坂井 和子2、西尾 和人2、西田 升三1* *責任著者
所属 :1 近畿大学薬学部医療薬学科薬物治療学研究室、2 近畿大学医学部ゲノム生物学教室

【研究の詳細】
研究チームは、ダサチニブに効果がある慢性骨髄性白血病細胞から、ダサチニブが効かない治療抵抗性細胞を作成し、治療抵抗性を獲得する前後の細胞を比較することにより、ダサチニブ治療抵抗性の原因を検討しました。まず、遺伝子の発現を網羅的に解析するためCGHアレイ※4 を用いて調べた結果、治療抵抗性を獲得した細胞ではMOS及びTPL2の発現が増加することがわかり、これらはがんの生存・増殖に関与するERK1/2を活性化することも明らかにしました。またデータベースを用いた解析により、ダサチニブ治療抵抗性患者では治療が効く患者と比較し、MOS及びTPL2の発現が高いことがわかりました。さらに、MOS及びTPL2のノックダウンあるいはERK1/2阻害剤をダサチニブと併用することで、治療抵抗性細胞に細胞死を誘導することが明らかになりました。
本研究結果から、MOS及びTPL2遺伝子の過剰発現によりダサチニブ治療抵抗性を獲得していることが明らかとなり、これらを標的とした薬剤が、ダサチニブ治療抵抗性患者の治療法として有用である可能性が示唆されました。

【用語説明】
※1 BCR::ABL1融合遺伝子・・・9番染色体と22番染色体の転座とよばれる構造異常により形成される。この融合遺伝子により産生されるBCR::ABL1タンパク質が過剰に活性化することにより、慢性骨髄性白血病細胞が増殖する。
※2 BCR::ABL1阻害薬・・・BCR::ABL1融合遺伝子を有するがん細胞で、選択的にBCR::ABL1の活性化を阻害する化合物。がん細胞の増殖を抑制するもの。
※3 MOS遺伝子、TPL2遺伝子・・・どちらもセリン/スレオニンキナーゼに分類される遺伝子。がん遺伝子の一つで、ERK1/2を活性化することによってがん細胞の増殖・生存を調節する。
※4 CGHアレイ・・・ゲノムDNAの増幅や欠損といったゲノム異常を、全染色体レベルで検出する方法。

【関連リンク】
薬学部 医療薬学科 教授 西田 升三(ニシダ ショウゾウ)
(リンク »)
薬学部 医療薬学科 准教授 椿 正寛(ツバキ マサノブ)
(リンク »)
薬学部 医療薬学科 助教 武田 朋也(タケダ トモヤ)
(リンク »)
医学部 医学科 教授 西尾 和人(ニシオ カズト)
(リンク »)
医学部 医学科 講師 坂井 和子(サカイ カズコ)
(リンク »)

薬学部
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医学部
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▼本件に関する問い合わせ先
広報室
住所:〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1
TEL:06‐4307‐3007
FAX:06‐6727‐5288
メール:koho@kindai.ac.jp


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