イベントリポート:HCL CTO Straight Talk 2016  IoTで変わる製造業の未来、21世紀型企業に生まれ変わるには?

小さく始めて早い段階で失敗を経験すること

 日本の企業の多くが、IoTで実現するビジョンを描けないという現実に対し、アドバイスを求められたMurthy氏は、小さく始めることを提案する。

 「たしかにビジョンを描くのは困難で日本に限らず、世界で共通する問題だ。ただし、IoTはビジョンがなければ始められないものではない。まず、現時点で収集できるデータがあるのなら、それを使って何ができるのかを考えるとよいだろう。ビジョンを描くことと並行して、現実世界で小さな一歩を踏み出すことが重要だ。同時にプロセスを民主化し、社員一人ひとりからからアイデアを吸い上げるようにする。変化を受け入れられるように企業体質の改革にも手を付けるべきだ」(Murthy氏)

 次に安井氏は、ビジネス創出型のIoTが難しいのは「プロダクト中心からサービス中心、顧客中心へと考え方を変える必要があるからではないか」と指摘する。

 これに対し、成迫氏は「あくまでも個人的な見解」と前置きしながら、経営感覚と危機感の問題ではないかと論じる。

 「例えば、ドリルを購入しに来た顧客に対し、ドリル屋はどんなドリルが必要かを考えるが、顧客がやりたいことを第一に考えれば、穴開け派遣サービスの提供という別なビジネスもあり得る。それによって、ドリルが売れなくなる可能性が生じるわけだが、実行に移すかどうかは経営感覚の問題だ。他社に先行されて取り残されるくらいなら自社でやってしまおうという思い切りが必要ではないか」(成迫氏)

 一方、今井氏は発想の転換の難しさを認めつつ、それを可能にするにはデジタル化を推進することで素地づくりを行うことが重要だという。

 「IoTはデジタル革命と表裏一体であり、デジタル化することで人は働き方を変えることができる。これはインターネットの導入で多くの人が体験してきたことだ。ただし、デジタル化の重要性を認識してない経営者が多いのも事実だ。シスコでは、そうした経営者に対する啓蒙活動なども行っている」(今井氏)

 企業の意識改革のあり方については、トップダウンでの変化しかありえないとMurthy氏は主張する。

 「基調講演で語られたように、企業の寿命はどんどん短命化していて、変化できない企業は生き残れない。経営者は、この現実を強く認識したうえで『よりよいサービスを顧客に提供するために変化が必要である』と、前向きなメッセージで社員を導いていく必要がある」(Murthy氏)

 次に安井氏は、IoTプロジェクト開始後に企業が直面する課題に話題を転じた。

 「IoTはITとOTの双方が協力しないと成功しないという話があったが、ITの人と現場の人はうまくコミュニケーションを取れるのか。喧々諤々の議論は行われても、着地点を見いだせないということはないのか」(安井氏)

 安井氏の疑問を受けた成迫氏は、ITとOTの双方が意識を変える必要があるという。

 「ITの人と現場の人が一緒に考えることが重要で、現場の人はいったんこれまでの成功体験を忘れて、俯瞰的に物事を考える必要があるだろう。一方、企業内のITの人は仕様が固まらないと動かない傾向がある。とりあえず作ってみる、手を動かすようにすることが必要だ。必要最小限の機能を作って、すぐに現場に提示する。アジャイル型開発でないと、ITとOTのコミュニケーションは発展しない。そして、"フェイルファスト"。小さく始めて早い段階で失敗体験を積むことも重要だ。日本の企業はミスを犯すことを極端に嫌うが、失敗体験がないと軌道修正の仕方を学べない。経営者にはフェイルファストを容認する度量が要求される」(成迫氏)

 ファイルファストの考えには、Murthy氏も同意する。

 「繰り返しになるが、小さな一歩をとにかく早く踏み出すこと。そしてその影響を評価すること。そうした小さなプロジェクトを数多く実施して、経験を積むことが重要。そうしたなかで、ミスを減らすにはどうしたらよいかということが学べる。その経験で得られたノウハウは、大きなビジョンが描けたときに役立つ」(Murthy氏)

 この学習のために失敗を許容するという考えに対し、安井氏は「評価が難しくなるのではないか」と懸念する。この懸念に対してパネリストの三氏はそれぞれ次のように答える。

 「マネジメント層がいつでも成果を見えるようにしておけばよい。報告を義務付ける必要はないが、覗けばわかるようにしておく。そのうえで、経営側は現場任せにせずに状況の把握に努める。現場と経営の一体感が重要だ」(今井氏)

 「破壊的イノベーションは、コストとリターンのROIでは評価できない。そこは変えなければいけないところだが、基礎研究の評価方法が適用できるのではないか」(成迫氏)

 「プロセスがきちんと制御できているか、正しい方向に向かっているかということが基本となる評価ポイントになるだろう。そして、プロジェクトを重ねるごとに評価システムも成長させていく。規模が大きなプロジェクトでは、より詳細な評価システムが必要になるが、目標と結果の乖離を正しく計測して、それを評価につなげることが重要だ」(Murthy氏)

提供:株式会社エイチシーエル・ジャパン
[PR]企画・制作 朝日インタラクティブ株式会社 営業部  掲載内容有効期限:2017年2月28日
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