ロボットやスマートスピーカーなど身の回りのさまざまな分野で利用されはじめたAI(人工知能)。利便性向上に大きな期待が寄せられる中、関心が高いのがサイバーセキュリティの分野だ。サイバーセキュリティにおけるAI活用は今どこまで進んでいるのか。また、AIを悪用する犯罪にどれほど対抗できるのか。2017年11月29日に都内で開催された日立ソリューションズ主催のセミナー「Cylanceエグゼクティブパートナー会」で行われたパネルディスカッションの内容から、AI活用の今を追う。
CEO、ジャーナリスト―さまざまな視点からAIを語る
パネルディスカッションに登壇したのは、米サイランスの会長兼CEOのスチュアート・マクルアー氏と、作家・ジャーナリストの小林雅一氏だ。
サイランスは、AIを用いたアンチマルウェア製品を開発して、今大きく注目を集めるセキュリティベンダーだ。マクルアー氏は、米マカフィーのCTOとして製品開発とセキュリティ研究者のエリートチームを率いた経歴を持つ。サイランス設立後はCEOとして新市場を切り開きつつ、サイバーセキュリティにおけるAI活用に積極的に取り組んでいる。
また、小林氏は、情報セキュリティ大学院大学客員准教授を務めるほか、ITやAIに関する多数の論考で知られる。近著には『AIが人間を殺す日 車、医療、兵器に組み込まれる人工知能』(集英社新書)や『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』(講談社現代新書)などがある。
本パネルディスカッションでは、ZDnet Japan編集部の國谷武史をモデレータ-に、AIの現状やサイバーセキュリティにおける活用のあり方、今後の可能性について意見を交わした。研究開発や事業経営、アカデミア、ジャーナリズムなど、さまざまな視点でAIに関わる両者の議論は「AIの現在位置と将来を正しく知る」うえで格好のヒントを与えるものとなった。次項からその中身に触れていこう。
AIは善悪の判断ができない―用途を見極めて活用せよ
小林 雅一 氏
作家/ジャーナリスト
最初のテーマは「AI活用の現状」だ。ソフトバンクのPepperやソニーのaiboなど、身の回りには「AI搭載」を謳う製品が増えている。現在は「第三次AIブーム」と言われている中、小林氏は次のように解説する。
「昔と今のAIの違いは、ニューラルネットやディープラーニング(深層学習)を使うかどうかです。ディープラーニングが得意なのはパターン認識です。そのため、さまざまなビジネスに応用することができます。身の回りのロボットよりも、むしろ産業用ロボットなどで活用が本格化しています」
マクルアー氏もこれに同意したうえで、米国の現状について、「金融、製造、小売、防災などさまざまな業種で活用が進んでいます。例えば、保険の計算や、自動車やドローンの制御、自然言語処理などです」と解説した。
ただ、こうした現状には懸念もあるという。1つは、AIという言葉の定義が不明確であり、誰もがAIという言葉を使うようになったことだ。
サイランス
会長 兼 CEO(最高経営責任者)
スチュアート・マクルアー 氏
「AIという言葉が乱用され、顧客に正しく意味を説明できなくなっています。ベンダーなどが本当にAIを知っているかを確認するのは簡単です。『なぜAIがその答えを導いたのか説明してください』と聞くのです。現状のAIは善悪の判断ができません。だから、もし相手がAIの答えの理由を説明できたとしたらそれは偽りです。正しい答えは『理由はわからない』になります」(マクルアー氏)
そこで重要になってくるのが、現状のAIは何ができて何ができないかの峻別だ。小林氏は「もしAIでなんでもできると考えてビジネスに乗り出すと失敗するでしょう。AIを理解して、用途を見極めて活用していくことが大切です」とアドバイスした。