多様化するシステムは使い慣れたツールで一元的に管理すべし

冨田:単純なコストダウンではなく、クラウドを業務改革の手段とするのが好ましいというお話がありました。コストダウンという点で言えば「安くなるらしい」という理由で、経営者がトップダウンで導入を進めるという話もよく聞きます。ただ、"導入ありき"で話が進めば、どこにクラウドを適用するかという作業――IT部門の業務の棚卸しがスキップされがちになります。そうすると、システムが複雑化し、運用負荷も増えて安くもならない、思ったほど効果がないなどの結果になるのではないでしょうか。
更田:先ほどの二極化とも関係するのですが、守らなければいけないシステムを堅持することは変わりません。それとは別に、クラウドに移したシステムはクラウド専用の管理をしなければいけないのが負担になってきているようです。これは仮想化の導入の際にも起こったことですが、新しい運用ツールを導入し、それを習得する負担が大きかったのです。使い慣れたツールと同じやり方、同じ方法で、多様化するものを管理できるのが理想だと考えています。
冨田:従来の運用管理の延長線上で、同じように管理したいということですね。
更田:その通りです。オンプレミスやプライベートクラウド、あるいはパブリッククラウドでも、JP1 V9.5のジョブ管理製品「JP1/Automatic Job Management System3(AJS3)」ではシステムが置かれている場所に関係なく、シームレスに連携できるようになります。一方で、従来型のオンプレミスのシステムにおいても、サーバコンソリデーションや仮想化によるシステムの巨大化や複雑化への対策が必要になってきます。バッチジョブをフロー化するジョブネットは最初に設計・構築したときはそれなりに整理されていますが、長年使ってきますと変更・追加によって『からまったスパゲティ』のようになり、実質的にブラックボックス化します。AJS3ではこうしたジョブを整理して管理しやすくする機能を強化しました。
クラウド環境の管理という面では「JP1/IT ResourceManagement(ITRM)」によるリソース管理も一元化に貢献します。監視ツールでもユーザーは余計なものを意識することなく、オンプレミスとクラウドのシステムを統一的なインターフェースで監視できます。しかも、マルチテナント環境であっても個々の管理者が見られる範囲をJP1の監視製品である「JP1/Integrated Management(IM)」や「JP1/Performance Management(PFM)」などで制限できますので、コンプライアンス面での問題もありません。このようにして全社的に運用を統一し、効率化することで間接的にコスト削減を果たしていくのです。

エンドユーザーへのサービスレベルを見える化する

冨田:先ほどプライベートクラウドの観点で出てきた、サービスレベルの監視の話を掘り下げたいと思います。管理者がシステムの稼働を監視するだけでなく、現場で働く利用者の視点でサービスレベルを可視化する必要があるのではないでしょうか。
更田:従来は、サービスレベルが適正に守られているかを確認するために、アプリケーションやサーバ、ネットワークなど個々の要素を見て統合的に判断していました。しかし、今回の新製品「JP1/IT Service Level Management」では、サービスレベルそのものを見える化し、計測できるようにしました。このダッシュボード画面で各サービスの現状が一目で把握できます。ドリルダウンで詳細がわかりますので、個々の障害やパフォーマンスの調査もできます。
日立製作所では近年、ユーザー視点でのデザインや製品の使いやすさの研究に注力しています。JP1を開発している私達の事業部内にも「ユーザエクスペリエンス(UX)設計部」を設立し、UXを意識した製品開発を行っています。JP1はその成果を製品に取り入れることで、UX指向の使いやすいユーザインターフェースをご提供していますので、運用効率や習熟スピードの向上に貢献することができます。私達は、製品の使いやすさも含めた品質向上に日々努めているのです。
冨田:日立が品質向上のために、ユーザー体験を意味する「UX」に取り組んでいるとは意外ですね。率直な感想としては「まさか!」です(笑) UX部のお話、ぜひ別の機会に聞かせてください。

スマートフォンもIT資産として一元管理
冨田:先ほどコンシューマライゼーションに関連して、MDM(モバイル端末管理)の話が出てきました。スマートフォンやメディアタブレットの一元管理にも対応する予定なのですね。
更田:はい、その予定です。JP1はスマートフォンやメディアタブレットも、PCなどの従来のIT資産管理の延長上で一括管理できるようにしていきます。
冨田:企業がよりモバイルを活用することで効率的な在宅勤務が実現するなど、ワークスタイルの改革にも役立ちます。災害時の事業継続や業務復旧計画などの面でも有益だと思います。

もう一段高い自動化のニーズに応えていくJP1
冨田:JP1はさまざまな機能を加えながら進化を続けると思いますが、今後想定される課題はありますか。
更田:データセンターも含めて広く言えるのは、自動化や効率化についてはもう一段高いニーズが出てくると予想しています。自動化はJP1の強みのひとつですが、運用の世界には定型的な業務だけでなく、障害対応などの突発的で非定型なものがあります。そうしたことに対してもツールでうまくナビゲートできるようにし、定型業務も非定型業務も管理できるようにしたいという要望が高まってくると思います。この先のJP1はそのような一歩進んだ「自動化」を意識して強化していく計画です。
冨田:今年はランブックオートメーション(RBA)の話題をよく聞きます。複雑な運用手順による負担を削減し、運用を効率化したいという要望に応えるもう一段高い自動化ですね。最後にJP1 V9.5のリリースにあたっての意気込みをお聞かせください。
更田:新製品や強化ポイントは多数ありますが、総じて言えるのは運用管理者の方々の負担を軽減することで、全社的なシステムを効率化することに尽きます。サービスレベルの見える化なども、その本質はサービスを止めないことです。
情報システム部門は企業内でのサービスプロバイダーとして、サービス品質確保の重責を担っています。ここを効率化して、エンドユーザーに安定してサービスを提供して頂きたいのです。
冨田:クラウドを活用しても一元的な管理や、サービス状況の見える化によって、IT担当者の負荷を抑えるJP1 V9.5なのですね。本日はありがとうございました。
