技術だけでなく、文化やプロセスの変化も不可欠に
また、自社のデータを活用すべく既存のSoRと連携させたAIを導入しよう……と決めるのはいいが、そこにはもう一つ落とし穴がある。「AIの導入」「APIの公開」といった技術的な取り組み、それ自体を目的にしてしまうことだ。
「APIを公開するといっても、何のために実現するのか。どのようなデータをどのように公開し、どういったエコシステムを構築すれば自社のビジネスに役立つのかと、いう部分が抜け落ちてしまっては意味がない」(三澤氏)
IBMは、デザインシンキングやアジャイル開発、DevOpsといった要素を包含した「IBM Garage Method」というメソドロジーを提供することで、企業の変革に必要なアイデアを導き出し、形にしていくプロセスも手助けしている。「デザインシンキングによってアプリケーションが達成したい目的を明確にして、カスタマージャーニーを描き、それを基に即座にIBMクラウド上にプロトタイプを作っていくことができる」と、三澤氏は説明した。
このメソッドを実践し、新たな変革に対応可能なシステムを作り出した好例が、アメリカン航空やロイヤル・バンク・オブ・カナダだ。いずれの場合も、いきなり全てをクラウドにリープする(一足飛びに移行する)のではなく、今の組織をクラウドネイティブに適合させるために何が必要か、既存のシステムマネジメントの仕組みを生かしながら新たな仕組みとどのように融合していくかをデザインシンキングで明らかにし、そこから得られたゴールを達成するために、新しい開発スタイルを採用した。その際、「テクノロジ面の革新だけでなく、組織、文化も変えていったことがポイントだ」(三澤氏)という。
もう始まっている、データとAIとクラウドを活用した企業変革
自社の既存システムと連携したAIを用いて膨大なデータを活用しながら、変化に強いITシステムをクラウド上で実現していく――そんなビジョンを紹介してきたが、これは決して遠い将来の話ではなく、既に始まりつつある。
三澤氏によると、米国のある保険会社では、ドローンで撮影した画像をクラウド上にアップロードし、過去の保険データや気象情報なども加味してAIで解析することで、ひょう害による農作物の被害額を素早く見積もるサービスの提供を実際に検討しているという。背後ではIoTや動画の処理、膨大なデータを格納するクラウド上のストレージやNoSQLデータベース、アプリケーション開発基盤にネットワークなど、多くの複雑な仕組みが連携しているわけだが、IBMクラウドはこれをオールインワンで提供する。
国内でも、AIをコアに、クラウドと既存システムの双方の力を活用して新しいサービスを作り出す動きが確実に始まりつつある。私たちがオンラインショッピングを利用したり、コールセンターに問い合わせを行っているとき、その背後では、それぞれの企業が蓄積してきたデータ、ナレッジを学習した「Watson」が動いている。時に「AI脅威論」が叫ばれることもあるが、あくまでその役割は、いくつかの選択肢を提示し人間をサポートすることである。「AIはあなたの企業を、あなたの仕事がよりよいものにするアシスタントであり、人間の役割を置き換えるものではない」と三澤氏は強調した。
日本IBMでは今後、ライセンス面での対応を含め、データを活用し、AIの力を生かすシステム構築のハードルを下げる施策を積極的に打ち出していく計画だ。「より多くのデベロッパーにIBMクラウドとWatsonを使ってもらい、さまざまなアプリケーションを生み出してもらうようにしていく」(三澤氏)という。かつてない変化に直面する企業にとって、またとない「援軍」となるだろう。

