Internet of ThingsまたはIoT - モノに埋め込まれたセンサーどうしが人間を介さずに会話するこの「モノのインターネット」についての話題を目にすることが最近増えてきた。モノとモノが話し始め、新たなデータが生成されることで、我々のビジネスにはどんな変化が起こるのだろうか。本稿では2月18日に日本IBMで行われた「IoT最新テクノロジ&活用セミナー」の内容をもとに、いまやどんな企業のビジネスにも関わってくるIoTとリアルタイム分析の現状とその可能性について紹介する。
「国内企業の中には"ウチにはモノがないからIoTは関係ない"と言われるところもあるが、それは違う。いまや誰もがスマートフォンをもっている時代。御社のお客様がスマホをもっていれば、それは"モノ"と同じであり、IoTビジネスのチャンスがあるということ」 - セミナーに登壇した日本IBM アナリティクス事業部 IoTテクニカルリード 鈴木 徹氏は冒頭、こう切り出した。いまや誰もが、何もかもがつながっている時代であり、逆に言えばIoTに無関係な事業者など存在しないというわけだ。
現在言われているIoTは、ひと昔前の「M2M(Machine to Machine)」技術とはさまざまな意味で異なっている。中でも最も重要なポイントは「人間を介さずにモノどうしがリアクションする、それがビジネス価値を生む」(鈴木氏)という点だ。人間の判断が入らないモノとモノの直接のコミュニケーションとは、ルールによって瞬時にその動きが決まるということを指す。そしてその動きが今までの常識では考えられなかったようなビジネス価値を生むことにつながる。IoTのポテンシャルはここに凝縮されていると言っていいだろう。
ではこのモノどうしの直接的なコミュニケーションを、人間はどう活かせばいいのだろうか。鈴木氏はIoTをビジネスに活用するヒントとして以下の5つを挙げている。
- ビジネスの中心になっている「モノ」は何か
- モノから得られる情報はなにか - モノから出力される情報か、それともセンサーで検知できる情報か、場所(GPS)、加速度/振動、方向、温度/湿度、磁力、etc.
- モノが移動するか
- モノへ情報を伝えると効果があるか
- モノとのやりとりを自動化すると役に立つか
つまり、モノそのものと「センサーからのデータを活かす」「"移動"を活かす」「"端末(スマホなど)へのプッシュ"を活かす」という視点がIoTをビジネスに活かすポイントなることを覚えておきたい。IBMではすでにこうしたポイントを押さえたIoTソリューションをビジネスの現場にグローバルレベルで提供している。たとえば前回の全豪オープンや全米オープン、ウィンブルドンといった世界的なテニスの大会において試合結果のライブ配信をリアルタイムで行ってきた。以前は結果を更新するたびに3 - 5秒かかっていたが、前回のウィンブルドンではIoTを活用することで1秒以内に世界17万人に配信することが可能になったという。
もう少し具体的にIoTの構成要素について見ていこう。言うまでもないことだが、IoTとは単にセンサーからデータを取得するだけではなく、リアルタイム/双方向なモノのネットワークを構築し、データを取得/分析して、新しいビジネスの可能性を全社で共有できてはじめて価値を生み出す。こうした点を踏まえて鈴木氏はIoTの構成要素として次の6つを挙げている。
- モノからの情報の取得とモノの制御
... デバイスの激しすぎる変化、メンテできなくなった古いモノも考慮した時間軸の設定 - 膨大な量の双方向ネットワーク
... 億を超える膨大な数のモノをつなぐ「1対多」「多対1」「多対多」を実現し、頻繁な接続要求に双方向で応える「MQTT」 - 収集した情報の分析と蓄積
... 複数のソースからデータをキャプチャし、処理ロジックに則ってデータを分析、推奨するアクションを提示する - 基幹システムへの柔軟な連携/試行錯誤
... IoTアプリケーションの構築を容易にする「IBM Internet of Things Foundation」 - 企業の壁を超えた水平分業の実現
... APIマーケットプレイスを利用するなどはじめからAPIを公開するつもりでシステムを設計、他社との連携を前提に - 戦略的な取り組み/方向性
... 新しいビジネス価値を創出するには失敗も伴うことを意識し「Fail Fast」の精神で新事業創出→新事業開発→製品開発のプロセスを取る
鈴木氏はここで、2のネットワークと4の基幹システムとの連携に関して、IBMが推奨する2つのソリューションを具体的に紹介している。
まずはIoTを支えるネットワークプロトコルの呼び声高いMQTTだ。現在、インターネットプロトコルの中心的存在は間違いなくHTTPだが、鈴木氏は「リクエスト/レスポンス型のHTTPはIoTにはリッチすぎる」と評している。IoTネットワークにおいて最優先されるべきは、送信したい情報が発生した時点で即時に送信できることで、いちいち問い合わせ(リクエスト)を送信してから接続を確立するHTTPではIoTが求めるリアルタイム性を十分に担保できない。その点、はじめからコネクションを張り巡らしているMQTTであれば一方向でいつでも情報をプッシュすることができる。相手側からの返事(レスポンス)は必要としない。データを送信する側はMQTTサーバを介して一方的にパブリッシュし、受信する側も好きなときにサブスクライブする。億単位のデバイスがつながるIoTだからこそ、送信/受信の双方が相手側の状況を気にする必要のないプロトコルであるほうが望ましい。なお、現在MQTTはオープンソースで開発/公開されている。
もうひとつはIBMのSaaSソリューションであるIBM IoT Foundationだ。これはいずれもIBMのクラウド基盤であるIaaSの「SoftLayer」とPaaSの「Bluemix」上で構築されたサービスで、Bluemix上に配備されたさまざまな"部品"をブロックのように組み合わせ、あらかじめ用意されたテンプレートを使い、直感的なインタフェースでもってIoTアプリケーションを柔軟に構築することを可能にする。鈴木氏はデモで、センサーから得られた温度/湿度の情報をもとに、異常が発生したらリアルタイムでTwitterアカウントで告知するといったアプリケーションを簡単に作成してみせたが、位置情報などを組み合わせればさらに多様なアプリケーションを構築できるだろう。「IBM IoT Foundationの特徴は"早い、安い、簡単"の3つ」と鈴木氏は言うが、まだ前例の少ないIoTだからこそ試行錯誤しやすいアプリケーション開発環境の存在は、企業にとって力強い存在となるはずだ。