自動車や家電、制御機器といった"モノ"に通信機能を持たせ、相互接続することで新たなビジネス価値を創出する「モノのインターネット(Internet of Things:IoT)」。ネットワークインフラやCPUの向上で、IoTを活用した製品やサービスも続々と登場している。
IoTでビジネスモデルが大きく変化すると言われているのは、自動車業界だ。中でもIoTの活用事例として注目されているのが、フランスのPSA Peugeot Citroenが2014年3月にリリースした「Connected Vehicle(コネクテッド・ビークル)」だろう。
コネクテッド・ビークルの仕組みは、こうだ。自動車の製造段階で、エンジンやブレーキといった制御機器に、あらかじめセンサを取り付けておく。そして、走行する車両の運転速度、燃費消費、急ブレーキを踏んだ回数といった「制御データ」と、全地球測位システム(GPS)データを最適な間隔で収集/解析し、走行中の車両とリアルタイムにやり取りすることで、渋滞/交通規制情報の提供や、走行支援を行う。リリースから1年経った現在、すでに数万台のコネクテッド・ビークルが出荷されているという。
数十万台という自動車から同時に上がってくる膨大なデータを、逐次処理するためには、ストリーミング・コンピューティング・プラットフォームが不可欠だ。PSA Peugeot CitroenではIBMと協業し、IoT活用プラットフォームを構築した。ストリーミング・コンピューティングには「IBM InfoSphere Streams」が採用されている。
日本アイ・ビー・エム
ソフトウェア事業
Analytics 事業部
IoT Technical Lead
鈴木徹氏
日本アイ・ビー・エム ソフトウェア事業 Analytics 事業部 IoT Technical Leadである鈴木徹氏は、「IoTデータを活用するには、従来のようにデータを蓄積し、バッチ解析していたのでは間に合わない。その点、『InfoSphere Streams』や『IBM Predictive Modeling (SPSS) on Bluemix』は、継続的にアップデートされるデータをリアルタイムで分析して意味を見いだし、すぐにフィードバックできる」と説明する。すでにコネクテッド・ビークルでは、GPSとブレーキ・センサ、さらに第三者が提供する地図データを連携して解析し、運転中のドライバーに対して「特定地域でスリップが多発しているとアラートを出す」といったサービスも提供している。
IoTデータの活用で、リアルタイムの「カイゼン」を実現
「収集したデータを逐次処理して現状を把握し、リアルタイムでマシンどうしがやり取りする」という特性は、あらゆる産業で役立てられている。その代表格が、重要インフラの制御システムだ。
米国の石油会社では、1万7,000kmのパイプラインに3万個のセンサを配し、備蓄状況、温度、油圧、精製、漏えい、ポンプの状態を監視している。あらかじめパラメータを設定し、データを解析モデルに従って逐次処理することで、「M2M(Machine to Machine)」でリアルタイムに適切な対応ができる仕組みだ。例えば、「パイプラインのセンサで油圧の異常急減が検知されたら、自動的に元栓となるバルブを締める」といった具合である。従来、こうしたデータを収集する手段は、数分間隔のポーリングが主だった。そして、データが異常値を示した場合には保守要員を現地に派遣し、人の手でメンテナンスしていたのである。
鈴木氏は、「企業がIoT活用を考えるアプローチで大切なのは、"T(Thing: モノ)"を主軸にすることです。なぜなら、企業は長年"T(モノ)"を扱ってきたわけですから、その分野のエキスパートです。そのうえで、IoTが提供するリアルタイム性と双方向性をどうやって"T(モノ)"作りに役立てるかを考える。現時点において私は、IoTのメリットを最大限に享受できるのは、製造業の現場だと考えています」と語る。
IBMでは、製造業を対象にした、生産設備管理や販売後の製品管理を行うソリューションを提供している。基幹システムに蓄積された情報を元に、予測分析を行う「IBM SPSS Modeler」や、製造ライフサイクルフェーズでセンサから収集したデータを解析し、マシンの故障を予測する「IBM Predictive Maintenance and Quality(PMQ)」、設備保全機能を中核としてその作業や予算の管理を含めた包括ソリューションとして長年の実績を有する「MAXIMO」などがそれにあたる。
「こうした『企画/設計/開発/生産/管理/サービス』の製造プロセスにIoTを組み込めば、品質確認や製造機器の不具合検知など、製造工程の最適化、つまり『カイゼン』の自動化が可能になるのです」(鈴木氏)