特別インタビュー:【SAP】×【ノベル】×【IBM】
「いま、自社のビジネスはどのような状況にあるのか、更なる成長のために今どんなアクションが必要なのか」――。この経営上のシンプルな問いかけに瞬時に答えを出すことが企業ITの大きな役割の一つだろう。だが、システムは複雑化し、データ量は肥大化する中で、その実現がますます困難になっているのが現実だ。この問題に解を出すべく、SAPは、インメモリ・データベース技術「SAP HANA」をテコに、基幹業務システム(ERP)とビジネス・インテリジェンス(BI)システムのドラスティックな構造改革を推し進めている。果たして、SAP HANAによる変革は企業のデータ活用のあり方をどう変容させるのか。また、この変革を実現するためにはITインフラに何を求められるのか。その解を示すべく、日本IBM、SAP、そしてノベルの3社がZDNet Japanのインタビューに臨んだ。ここではその取材内容を前後編の2回に分けて紹介する。
今年8月、日本IBM、SAP、そしてノベル社が集まり、ZDNetのインタビューに答えた。本稿ではその内容を前後編の2回に分けてリポートしている。
後編の今回は、3氏の話から、「IBM Power Systems がSAP HANAの性能と運用にどのようなインパクトを与えるか」を中心に報告する。なお、前回と同様、インタビューに答えているのは、SAPジャパン プラットフォーム事業本部ビジネス開発部プリンシパルソリューションアーキテクトの松舘 学氏と、ノベル SUSE事業部テクニカルセールスマネージャーの羽田勝治氏、そして日本IBM グローバルISVソリューションズ コンピテンシーセンター担当部長の江口 仁志氏だ。聞き手は、ZDNet Japan編集長の怒賀新也が務めている。
HANAによる大規模データ処理をさらに高速化
怒賀:ここまで(前編では)、Power Systemsの信頼性・可用性に関するお話を多くお聞かせいただいてきましたが、もう一つ気になるのがスピードです。Power Systemsは、HANAの性能向上にどれだけ寄与するのでしょうか。
SAPジャパン
プラットフォーム事業本部ビジネス開発部
プリンシパルソリューションアーキテクト
松舘 学氏
松舘氏(以下、敬称略):ご存じのように、SAP HANAはインテルの協力を仰ぎながら開発が進められてきた技術です。ですから、開発当初よりインテルのマルチコア戦略と歩調を合わせるかたちで内部アーキテクチャの最適化が行われてきました。マルチコア戦略とはつまり、クロックアップの限界という問題を、コアのマルチ化で解決するものです。SAPも、インテルのマルチコアプロセッサに向けたSAP HANAの最適化に力を注いできています。その一方で、SAP HANAのベンチマーク結果を見ていると、クロックスピードに影響を受けている部分も少なくありません。したがって、SAP HANAの性能をさらに高めるうえでクロックスピードが重要なポイントになるのは確かですし、クロックアップの戦略を取るPOWERプロセッサには期待しています。各社から異なるアプローチでSAP HANAの性能向上が促進されるのは、SAPが採っているオープン戦略の利点です。
江口氏(以下、敬称略):POWERプロセッサは、プロセッサとメモリ間の帯域幅が非常に広く、インテルプロセッサの約4倍にも及びます。つまり、SAP HANAで大量のデータを分析したり、膨大な数のユーザー・リクエストを処理したりするのに、極めて適した設計となっています。
怒賀:その辺りの高速性を示す指標は何かありますか。
江口:1つは、SAPの公開ベンチマークの結果です。SAP ERPを用いたこのテストで、IBM POWERは、CPUコア当たりの処理性能が他社システムの2倍強という数字が出ています。
また、数カ月前にIBMによるSAP HANAのベンチマークを発表しましたが、そこでも他社製品の2倍強の性能を示しています。
先ごろリリースしたPOWER 8プロセッサに続き、POWER 9、POWER 10の開発計画もすでに明らかにされており、長期的なロードマップを持ちながら絶え間ない進化を続けています。その点でも短いサイクルで進化を繰り返すSAP HANAに最もフィットしたインフラと言えます。
怒賀:現在、多くのシステム・ベンダーがSAP HANAアプライアンスサーバを提供していますが、IBM Power SystemsをベースにSAP HANAアプライアンスは提供する計画はないのですか。
江口:逆に、アプライアンスではないことが、IBM Power Systemsの利点だと考えています。例えば、アプライアンスではないがゆえに、最新のPOWER 8プロセッサを搭載したサーバを導入したお客様なら、のちにSAP HANA向け仮想区画を設定し、同じサーバ内にシステムを構築することが可能です。また、通常のアプライアンス製品ではメモリ構成の自由度が低く、それがメモリリソースに対するお客様の過剰投資にもつながっています。対するIBM Power Systemsなら、必要分のメモリを必要になったときに適宜追加することが可能です。しかも、IBM Power Systemsは、従量課金型のライセンス・モデルを採用しており、クラウドサービスのような使い方ができます。期間契約ごとに必要な量のCPUリソースを使用し、使った分だけ支払う使い方ができるということです。これも、お客様の過剰投資を抑制するものです。