中国経済はかつての日の出の勢いに比べると減速してきているが、日本企業にとって13億人の巨大人口を抱える中国市場の魅力は未だ衰えていない。今後も一定の成長が見込まれている中国で、日本企業はクラウドを駆使してどのようにビジネスを展開していくべきか――。
IIJ Global Solutions China
(艾杰(上海)通信技術有限公司)
董事長
西俣 辰男氏
経済減速がささやかれつつも、未だ先進各国から魅力ある巨大市場として認識され続けている中国。その中国での市場開拓と顧客獲得を支えるビジネス基盤の一つとして今や必須になりつつあるのがクラウドだ。中国ビジネスに今、何が起こっているのか。また何がITの課題になっているのか。インターネットイニシアティブ(IIJ)のグループ会社であり、中国でクラウドサービス「IIJ GIO CHINAサービス」を展開するIIJ Global Solutions China (艾杰(上海)通信技術有限公司) 董事長の西俣辰男氏にZDNet Japan副編集長の田中好伸が話を聞いた。
システム運用をめぐりジレンマに陥っている
──まずは、中国ビジネスを取り巻く状況からご解説いただけますか。
日本企業の中国進出の歴史が長いとはいえ、近年では不透明な先行きから中国での事業を今後どうしていくのか、悩まれているケースが多いように感じます。日本企業は、製造業を中心に中国各地に工場や拠点を設け、経済の状況にあわせて拠点に対してリソースを配分するといった対応を取ってきました。ときには、タイなどのASEAN(東南アジア諸国連合)へと移転するといった選択肢もありました。
それがここにきて、最近の不安定な中国経済を背景に、新興国へ拠点を移転する傾向がさらに強くなった。一方で、中国経済が内需を中心に拡大していますから、必ずしも撤退などの選択肢を取ればいいというわけではない。事業を継続するためにリソースをうまく配置し、タイミングを見計らいたい。そんな状況になっていると思います。
──ビジネス展開にITは不可欠ですが、システム面から見ると、どういった状況でしょうか。
「必要なときに必要なものを使いたい、ダメだったらすぐにやめたい」といったビジネスに適しているITといえばクラウドです。クラウドの良さをうまく引き出せば、中国ビジネスでも大きな武器になります。ただ、中国は、日本で考えられているようなクラウドとは状況が異なる面があります。
AWSやMicrosoftといったグローバルで基盤を展開するクラウドプレーヤーは中国に進出してはいますが、本格的なサービスの提供は始まっていないようです。その中で、中国企業の間では、中国企業が提供するパブリッククラウドの利用が急速に進んでいます。たとえば、阿里巴巴(アリババ)グループが提供する「阿里雲(アリユン)」や騰訊(テンセント)が提供する「騰訊雲(テンセントユン)」などです。 ただ、中国に進出した日系企業がこうしたクラウドを全面的に採用できるかというと、セキュリティやコンプライアンスの点からなかなか難しいのが現状です。特に、製造情報や販売データなどの重要情報を扱う基幹システムの対象にはなりにくい。日系企業の間では、そうした重要情報を扱うシステムの運用管理を巡って、今ジレンマに陥っている状況です。
──ジレンマとは?
セキュリティやコンプライアンスを懸念して社内でシステムを管理したいが、そのための人員は不足している。人員が不足しているので外部の手を借りたいが、パブリッククラウドではセキュリティやコンプライアンスが課題になってくる。結果として、拠点ごとに置いたオンプレミスのシステムを数人の担当者が苦労しながら運用管理しているのが現状です。
オンプレミスやクラウドには課題が多い
──そうしたオンプレミスのシステムは、仮想化やクラウド化が実施されていないことが多いのですか?
どちらかと言えば、まだ少ないです。オフィス内に置かれた物理マシンで稼働しているシステムもありますし、データセンター内のコロケーションで管理されているシステムもありますが、仮想化されているわけではありません。
一般的に、海外進出する際は、少人数でオフィスを設置します。中国は広いので、そうした小規模オフィスが各地に分散します。地域ごとに法制度が異なることもあり、拠点ごとにルールを設けて個別にサーバを管理する方がコストメリットが出るケースが少なくありません。
もちろん、その一方で、サーバを仮想化して少ないリソースで管理できるようにしようという動きもあります。VMwareが使われることが多いのですが、1つの筐体に国内のすべての拠点のサーバマシンを集約して、拠点への出張などをせずに管理できるようにしようというものです。
──ビジネスやITの環境を伺うと、仮想化やクラウド化は自然な流れに感じます。何が普及の障害になっているのでしょうか。
ここにもジレンマがあります。仮想環境の構築と運用には、技術力とノウハウが必要です。そもそも数が少ないIT担当者が仮想化やクラウドの構築や運用のノウハウまで習得することはさらなる運用負荷につながります。そこで、中国で技術力や経験のある人材を確保しようとするわけですが、言葉の壁や文化、キャリア形成に対する考え方の違いもあり、採用した人材をマネージしていくことは難しい。
一方、社内で管理するのではなく、ITベンダーにアウトソーシングする方法を取ろうとするとどうなるか。今度は、社内での運用サポートに加えて、現地のベンダーやデータセンターのコントロールの負担が重くのしかかってくるのです。リスクを抑え、安全性を高めようとすると、システム規模が大きくなり、総合的にコストが高くなることもあります。
──限られたリソースで独自での仮想環境を構築し運用するには限界があるんですね。セキュリティパッチをあてたり、OSやミドルウェアをアップデートしたり、今までの作業も必要です。
そうです。仮想環境でサーバを集約すると作業が減るように思えますが、マシンそのものの管理の手間は大きく変わりません。今までの作業に加えて、仮想基盤の管理をしなければならないといったケースは少なくないのです。