コネクテッドエンタープライズ環境で加速する製造業のデジタル変革――「PTC Forum Japan 2018」

最先端のARソリューションが見せる新しい世界

 今回のイベントでは、PTCが2017年11月に設立した「Reality Lab」で開発が進められている新しいARテクノロジーのデモも行われた。壇上に設置された簡単な食品フィーダー装置を使ってのデモである。

 この装置は、上部に蓄えられた乾燥した穀類の重さを測ってベルトコンベアーにのせ、受け皿に一定の割合でそれを落としていくというシンプルなものだ。そこでデモ担当者は、おもむろにスマートフォンを取り出し、この装置を画面に映し出した。すると、その画面には、装置の画像とともに、スイッチや計器を簡単に表現した図が重ねて映しだされ、スマートフォンにタッチするとスイッチのオン、オフができたり、フィーダーの動きを変えることができる。

 つまり、スマートフォンがAR環境を映し出し、装置のプログラムを操作できるというわけだ。会場からは驚きの声が上がったが、ARの1つの実例として注目できる。スマートフォン上にリアルタイムのプログラムの状況が映し出されることで、もし機器にプログラム上の問題が発生しても、すぐにその問題を発見できるし、実際に機器に触って調節するしかない作業も、簡単に行える。

 また、この仕組みなら、さまざまな情報を把握しながら、機器全体のコントロールがしやすい。実際に、一つ一つの計器などを触ってする作業は、視覚情報は視野が狭くなり、困難なものになりやすい。

 デモを見ていると、ハードウェアをまるでソフトウェアのように扱っているようで、不思議な感覚になった。しかし、これからは、こうした仕組みがまもなく当たり前のものとしてサービス提供されることになるだろう。

コネクテッドエンタープライズ環境を構築するには?

 ARを上手に活用することで、企業内の生産活動を効率化させるだけでなく、製品と同梱しサービス強化やコスト競争力強化につなげることができる、ということが分かってきた。これは多くの企業にとって、本来所有している資産を有効活用し、新しいビジネスを創出することにつながる。

 ARは、冒頭で桑原氏が話したように、フィジカルとデジタルの情報を結合させることによって実現する。つまり、データの正確さや取り扱いのしやすさなどが重要になる。AR用のコンテンツはフィジカルとデジタル両方の情報を使って作成されるわけで、これらがうまく管理されていなければ機能しない。

製品担当 エグゼクティブ・バイスプレジデント キャスリン・ミットフォード氏
製品担当
エグゼクティブ・バイスプレジデント
キャスリン・ミットフォード氏

 製品担当 エグゼクティブ・バイスプレジデントのキャスリン・ミットフォード氏は、真のデジタル変革とは、「バリューチェーン全体で保有するデータの可能性を解き放つ」ことだと話す。つまり、設計、製造、販売、オペレーション、サービスなどの各部門が持つデータを一元管理できる環境を構築し、それらのデータを部署間で行き来させることで生産性が向上し、迅速な製品・サービスの提供が可能になるということだ。氏は、こうした環境を「コネクテッドエンタープライズ」と表現した。

 現在多くの製品が、インターネットに接続される「スマートコネクテッドプロダクト」として市場に出回っている。ミットフォード氏は、コネクテッドエンタープライズ環境は、スマートコネクテッドプロダクトを開発していく上で不可欠だとした。そしてこうした製品は、インターネットにつながるだけでなく、企業システムの一部として働くという役割を持つようになったと指摘する。

 では、こうしたスマートコネクテッドプロダクトをどう設計していけばよいのか。ここで登壇したのが、CADプロダクトマネジメント バイスプレジデントのポール・セイガー氏だ。

CADプロダクトマネジメント バイスプレジデント ポール・セイガー氏
CADプロダクトマネジメント
バイスプレジデント
ポール・セイガー氏

 セイガー氏は、スノーモービルをはじめ、全地形対応車、三輪自動車などを製造するメーカーであるPolaris社の事例を紹介した。同社では、CADやBOMの情報をすべて連携させてさまざまな判断、設計作業、製品モジュール工場への指示を行っている。また、顧客の体験を高めるため製品の稼働データを収集し、個々の顧客に合った製品づくりや、メンテナンスサイクルの効率化にも取り組んでいる。

 つまり、ARによるサービス強化なども、こうしたデータ管理の仕組みがなければ、たちどころに行き詰まるということなのだ。メンテナンス用の仕組みとしてARによるサービスを提供しても、最新のデータが活用できなければ、すぐに陳腐化し、顧客ニーズに応えられなくなる。ARによるサービスにしても、ユーザーが指摘する前に、新しいソリューションを提供していかなくてはいけない。そのためには、サービス提供側のデータ活用がフレキシブルで素早いものでなくてはならない。

 ミットフォード氏は、インダストリアルIoTの構築においては、「スマートコネクテッドオペレーション」が重要なカギを握っていると話す。

 「インダストリアルIoTを成功させるには、工場の設備を進化させるだけでなく、設計、カスタマーサービス、生産、物流ともつながっている包括的なプラットフォーム、つまりスマートコネクテッドオペレーションを実現する基盤が不可欠です。このプラットフォームは、生産の現場から経営層まで全体に対応できるソリューションで、IoT、AR、アナリティクス、MESまですべてカバーできます。こうしたソリューションは、現在のところ、当社でしか提供できません」

 PTCでは、Rockwell Automation社とのパートナーシップにより、このソリューションを開発した。生産にだけ対応するだけでなく、リアルタイムのステイタスを可視化し、診断型アナリティクスと機械学習によって将来の問題を予測する。

イノベーションをパートナー戦略によって実現

 ミットフォード氏は、ARの活用では、CADやPLMとのシンプルで素早いデータ連携が決め手となると話す。CADデータはARコンテンツの作成に不可欠だが、PLMとも連携することでより詳細で正確な作業指示ができるようになる。それにより、経験の浅い新規の採用者にも、熟練者の技術を伝えることが可能となる。

 講演の最後でミットフォード氏は、パートナー戦略の重要性についても強調した。

 「戦略的パートナーは今後ますます重要になります。当社では、マイクロソフトの『Azure IoT Hub』を推奨クラウドプラットフォームとして選択しました。当社のPLM、IoT、ARのソリューションとマイクロソフトの『Azure』『ホロレンズ』『Dynamics ERP』などを組み合わせ、統合ソリューションという形でインダストリアルIoT、デジタル製品ライフサイクルマネジメントとして提供していきます」

 今回のイベントで、「デジタル変革」のキーテクノロジーとしてARが重要な位置を占めることが分かった。しかし、1つのAR関連のソリューションやサービスを社内外に提供し、一定の成果を上げたとしても、それだけでは変革は完了しない。

 ミットフォード氏は「顧客の要求は日増しに高まり続ける一方で、これについていけない企業は市場を去るしかない」という言葉を何度か発した。これが大げさな「警句」でないのは、おそらく多くの企業関係者が理解しているはずだ。変革は継続的に実行されないと大きなリターンはない。ARを中心とした新しいサービスを続けて提供し続けることが必要になる。そのための方法として、PLM、IoT、そしてCAD、BOMといった製造業が独自に持つデータを、包括的に管理し、アクセスしやすい基盤を構築することが不可欠になるのだろう。

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提供:PTCジャパン株式会社
[PR]企画・制作 朝日インタラクティブ株式会社 営業部  掲載内容有効期限:2019年6月30日
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