前編に引き続き、クオリティソフト グローバルマーケティング本部 プロダクトマーケティング&カスタマーリレーション部 部長 肥田雄一朗氏に、災害時に備えたBCP策定のために覚えておきたいノウハウを伺う。今回は「クラウド」と「節電対策」の面からお話を聞いた。
被災時に力を発揮するクラウドベースのPC管理ソリューション
前編でも若干触れたが、今回の震災では首都圏を含めて主要な公共交通機関が混乱し、各地で従業員が「帰宅できない」「出社できない」という現象が起こった。社内のサーバやPCが大ダメージを受けているにもかかわらず、IT担当者が出社できないため、システムの復旧が大幅に遅れた企業も多い。
肥田雄一朗氏
ここ1、2年、クラウドコンピューティングという言葉はよく使われるようになったが、今回の震災で自社のIT基盤のクラウド移行を本格的に検討し始めた企業が大幅に増加しているという。たしかにリスク分散という面でも、一部のデータやシステムをクラウドに置くという方法は理にかなっている。
肥田氏はクラウド移行のメリットとして、IT管理者が出社できない状況下にあっても管理が可能になる点を挙げる。
「IT管理者がクラウド上から、PCを管理できれば、安全性は大きく高まります。長期休暇や、今回のように、震災で社員が出社できない期間が長いといった時を狙って、不正な侵入をされたり、ウイルスなどが蔓延する可能性が高まります。だが、クラウド経由で管理できれば、最低限のセキュリティは担保されます」(肥田氏)
今回の震災の影響で、管理者が出社できない、社員が出社できないという事態が起きた。クライアントサーバ型であれば、管理者が出社して、管理者PCから、緊急のセキュリティパッチを配布する設定を行い、各クライアントPCにパッチ適用という作業をしなければならない。しかも社員も出社できないとなると、社内LANに長期間、管理対象PCが繋がらないということになり、セキュリティ上の問題も発生しかねない。
そこで、クオリティソフトは災害などの緊急時でも、自動的にPCのセキュリティを維持できる、クラウドソリューションとして、「ISM CloudOne」を提供している。
「ISM CloudOne」なら、管理者は、インターネット経由で、自宅のPCから管理コンソールで、PCのセキュリティ状況がチェックできる。しかも、セキュリティパッチ適用などのセキュリティ維持は、管理対象PCがTCP/IP環境下にあれば、自動的に行なってくれる。
社内PCの管理を担当したことがある人ならIT資産管理ツール「QND Plus」の名前を聞いたことがあるだろう。クオリティソフトのIT資産管理パッケージソフトウェアで、累計販売ライセンス数が330万クライアントを超えているモンスターツールだ。単なるクライアントPCの現状把握にとどまらず、台帳作成や消費電力管理、リモートコントロールや情報漏洩対策なども行う、クライアントサーバ型のパッケージソフトである。
このQND Plusのコンセプトをクラウド対応させたサービスが「ISM CloudOne」で、2007年から提供されている。企業規模にあわせたエラスティックな展開が可能で、パブリッククラウドでもプライベートクラウドでも利用できるという選択の幅の広さが特徴だ。
パブリッククラウドでのISM CloudOne使用イメージ
プライベートクラウドでのISM CloudOne使用イメージ
つい最近まで、いや現在でも「クラウドでは、社外に重要データを置くのでセキュリティが心配だ」と思っていた企業ユーザは少なくない。だが、その考え方も3.11を境に変わりつつあると肥田氏は言う。
「お客様においても、免震構造のビルで、実際にサーバが倒れてしまったというケースもあったそうです。また、情報漏洩に関しては、社内の人間を介してというのが多数を占めており、社内に重要データがあれば安全という考えは、もはや過去のものになりつつあるかもしれません」 (肥田氏)
BCPという視点で見たとき、災害時にオンプレミスが被害を受けたとき、クラウドでいかに補完することができるかが、ソリューションを選ぶ上でひとつの指針になるだろう。
クライアントPCの節電は会社全体の省電力化に大きく寄与する
最後は一般のユーザの関心も高い「節電対策」である。もうすぐ梅雨、そして暑い夏がやってくる。今夏の電力供給量は間違いなく落ちるだろう。企業が消費電力を減らすのは、CSRの観点からも必須であり、事業継続という面から見ても、節電対策は欠かせない。
「政府は、今夏、企業も一般家庭も、一律15%の電力消費削減の目標を課すことを明言しており、節電対策は喫緊の課題となっています。しかし、エアコンの温度を高めに設定する、フロアの使っていない電気はマメに消すなどのことはもうどこでもやっていて、これ以上どこを減らせば良いか分からないという声も多く聞きかれます」(肥田氏)
そこでクオリティソフトでは、ツールを使ったクライアントPCの電源の一括管理を提唱している。ある調査によれば社内のクライアントPCが使う電力量はオフィスで全体のそれの約20%という意外に大きな数字を占めるという。
「クライアントPCを使っていない時間帯の待機電力の節電による省エネ」という点に着目し、細かく節電設定できるIT資産管理ツール「QAW/QND Plus」用のアドオンプログラム「グリーンITプラグイン(QPM)」を提供している。このツールを使えば、全クライアントPCの電源設定を集中管理できる上に、消費電力量のの可視化をすることができる。
同社はこのグリーンITプラグイン(QPM)を含むPC節電支援ツールを震災後の3月14日から無償提供している。当初は4月末まで提供していた。1ヶ月足らずで800以上のダウンロードがあり、反響が大きかったため、社会貢献と復興支援の観点から、9月末まで10000台まで利用できるライセンスの無償提供を新たに開始した。
「当社だけでなく、この支援の意義に賛同する販売パートナーにも協力してもらい、構築支援サービスの申し込みも受け付けています。各企業が節電への強い意欲を見せているなら、当社としても可能なかぎりその姿勢を応援していきたい」(肥田氏)
そうした積み重ねのひとつひつとが早期復興への足がかりになる。
どんなプロジェクトとも同様に、BCPもまた、予算と人員の制限を受けるのは致し方ないことだ。
まずはできることからひとつひとつ始める--。そういう意味では低コストではじめられ、導入期間も短くて済むクラウドソリューションはBCPビギナーにとって入りやすい施策だろう。
バックアップについても、ディスクスペースが限られているのであれば、まずは重要性の高いデータから計画的に取っていくことがBCP実現においては肝要になる。節電についても、古いPCを、省電力効果の高い最新のマシンにリプレイスすると、大きな節電効果が得られるが、コスト的に、全てのPCを入れ替えるのは難しいのなら、今あるPC環境で電源管理を行なうことで補完できるはずだと肥田氏は言う。
あの震災を経た今、震度7クラスの地震がふたたびやってくることはないと断言できる人はいないだろう。もしそうなったとき、ビジネスにおける被害をどこまで最小限に食い止められるか - BCPとは経営者のためだけの考え方ではなく、我々すべてのビジネスパーソンにとって、ごく身近な課題である。