IoT/ビッグデータを中心にした「Industry 4.0」の動きやFinTechによる金融IT革新の流れに代表されるとおり、各国の企業は今、先を争うようにデジタルテクノロジーによるビジネス変革を推し進めている。その中で強く求められているのが、ビジネス要求や顧客ニーズに即応できる「俊敏なIT」の実現だ。そのための最善手としてレッドハットが提唱しているのが、コンテナによるITインフラの抜本改革である。果たして、それはどのようなソリューションなのか──。ここでは、2016年10月5日に東京で開催された「RED HAT FORUM 2016 Tokyo」のために来日した米国レッドハット本社のラーズ・ヘルマン(Lars Herrmann)氏に話を聞く。同氏は、レッドハットのインテグレーテッドソリューションビジネスユニットにおいてゼネラルマネジャーを務める人物だ。
企業ITの最大のテーマは「俊敏性」の向上
ラーズ・ヘルマン(Lars Herrmann)氏
米国レッドハット
ゼネラルマネジャー
インテグレーテッドソリューションビジネスユニット
Red Hat, Inc.
General Manager
Integrated Solutions Business Unit
デジタルテクノロジーを、自社の競争力強化や収益増に直結させる──。これは企業のIT部門にとっての恒久的なテーマの一つだ。とりわけ今日では、デジタルテクノロジーをビジネスモデルの変革や新規ビジネスの立ち上げ、あるいは、顧客との関係強化、さらには、製品/サービスの付加価値創出などに活用しようとする動きが活発化している。その結果、IT部門にはビジネスへの直接的な貢献が以前にも増して強く求められていると、米国レッドハットのラーズ・ヘルマン(Lars Herrmann)氏は指摘する。
「ある調査によれば、米国企業のCIO(最高情報責任者)の最大の関心事はすでにビジネスイノベーションへとシフトし、また、欧州の大手自動車メーカーでは、IT部門がデジタル変革を推進する事業部門へと変化しています。つまり、今日のIT部門は、エンタープライズITの信頼性確保やコスト削減だけではなく、テクノロジーによって自社の成長・発展を加速させる使命を帯びているのです」
ヘルマン氏によれば、IT部門がこうした時代の要請にこたえていくうえは、自社ITの俊敏性を高めることが必須であるという。
「顧客のニーズも、デジタルテクノロジーも絶えず変化しています。そうした変化に即応できるプラットフォームを築き、顧客満足度を高め、かつシステムの信頼性を担保していくこと──。それが、企業ITを巡る最大のテーマと言えるのです」
仮想マシンの問題を解決するコンテナ
これまでも企業ITの俊敏性を高める取り組みはさまざまに行われてきた。代表的な1つは、クラウドプラットフォームの活用だ。実際、クラウドプラットフォーム(の仮想化環境)の採用によって、ビジネス要求に応じてサーバを立ち上げるスピードは増している。ただし、仮想化環境(仮想マシン:VM)は、企業ITの俊敏性を高めるうえで大きな問題を内在させているとヘルマン氏は指摘する。
「ITインフラの俊敏性を高めるためのカギは標準化にあります。この標準化によって開発・運用のプロセスが効率化され、自動化も進むからです。ところが、VMには、動作させるアプリケーションごとに、さまざまなリソースが入ってきます。そのため、ITプラットフォームの複雑化という問題を引き起こし、VM間でアプリケーションのポータビリティを確保するのも困難になります。しかも、クラウドプラットフォーム上では数多くのVMが立ち上がり、ITプラットフォームの複雑性がさらに増していき、それが標準化・自動化の大きな足かせになるのです」
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こうしたクラウドプラットフォームの問題を解決するテクノロジーが、コンテナにほかならないとヘルマン氏は力説する。
ご承知のとおり、コンテナとは以下の2つの要素から成る仕組みだ(図2参照)。
- OSのランタイムと一緒にアプリケーションをパッケージングし、コンテナをかたち作る機能
- 各コンテナに対してインフラリソースを提供するホストOS
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こうしたコンテナの価値について、ヘルマン氏は次のような説明を加える。
「コンテナを使う大きなメリットの1つは、開発と運用の技術・プロセスの標準化が進み、開発の自律性と自由度を担保しながら、運用の自動化やサービスレベルの向上が図れることです。つまり、コンテナの採用によって、IT部門は自社ITの俊敏性を、その信頼性やセキュリティを担保しながら大幅に高めることが可能になるのです」