当ランキングは世界各国の年金制度を比較したもので、日本の年金制度は昨年2012年の指数、ランキング共に変化がなく、制度の安定性はみられるも、高齢化人口をめぐる課題に対する取り組みなど引き続き改善の余地があることが明らかになった。
日本の総合指数は2012年、2013年ともに44.4であった。しかしながら日本の”十分性(Adequecy)“の項目は改善がみられ、指数は2012年の46.1から47.9に上がった。一方、”健全性(Integrity)“の項目指数は2012年の63.3から60.5に若干下がった。
デンマーク、オランダ、オーストラリアはトップ3の順位を維持。デンマークは昨年2012年に最高ランク“A”の評価を得た最初の国だが、2013年も総合指数を82.9から80.2に若干落とすも首位を堅持した。同国の十分に積み立てられた年金制度、優れた資産構成と掛金の水準、十分な給付レベルおよび法令の整った個人年金制度が高く評価された。
シンガポールの順位は13位から7位と飛躍的に上がり、上位10位に入った。シンガポールの総合指数は2012年の54.8から2013年の66.5と伸び、ランク評価も“C”から“B”へと上がった。これはOECDが中央積立基金(CPF)への取り組みと個人年金のデータを改正したことに起因する。
マーサージャパンの年金コンサルティング部門代表を務める北野信太郎は以下の通りコメントしている。
「ランキング上位の国々においても老後の生活保障の問題は山積しており、例えば総合評価で“B+”評価を得ているオーストラリアにおいても、貯蓄を促進させる法整備を行うなど、更なる対応が求められています。世界的にも類を見ない「長寿社会の最先進国」である日本においては、制度の永続的な安定のために適切な措置を講じることは勿論、それらを迅速に実行に移していくことが待ったなしに求められます。NISA(小額投資非課税制度)の導入や、消費税率の引き上げと社会保障と税の一体改革などの法整備により、来年は日本の総合評価の改善が期待されますが、とても十分とは言えません」
「一方で、海外の事情に目を向けると、確定給付(DB)型の企業年金制度から、確定拠出(DC)型の制度への移行というのは、最近20年ほどの間、世界でも大きなトレンドとなってきました。しかしここにきて、果たしてDC制度で老後を支えるに足る十分な所得補償を実現出来るのか、と問い直す声が上がってきています。日本でも企業年金をDCへと移行させる動きは加速してきましたが、それでも世界全体で見ればまだまだDB型の制度が広く用いられています。老後の生活保障の術としてのDC制度の有効性が問われる中、DB型の企業年金が数多く存在する日本だからこそ、DB制度を維持する意義を再検討してみるのは、価値のある議論ではないでしょうか」
「マーサー・メルボルン・グローバル年金指数」は今年で5年目になり、2013年の対象国はメキシコとインドネシアが追加され、2009年実施当初の11ヶ国から20ヶ国に増加した。世界の人口の55%超を対象とするまでに拡大している。各国の公的ならびに私的年金制度の積み立てや、個人貯蓄などの年金以外の資産についても客観的な評価をしている。この指数はマーサーならびに豪州ビクトリア州政府の機関であるオーストラリア金融研究センター(ACFS)によって開発され、指数自体は50以上の質問項目から構成されており、「十分性 (Adequacy)」、「持続可能性 (Sustainability)」、「健全性 (Integrity)」に大別される(※調査方法の詳細は別表”FACT SHEET”を参照のこと)。
日本の制度の年金指数を改善する上で、以下のような方策が考えられる:
低所得の年金受給者に対する最低年金額の引き上げ
年金給付額の引き上げに伴う、所得代替率の改善
(企業年金などの)老齢給付の一部を年金所得として取得するよう定める規制の導入
平均寿命の増加に伴い、公的年金制度の支給開始年齢の更なる引き上げ
オーストラリア金融研究センター(ACFS)でエグゼクティブ・ディレクターを務めるデボラ・ラーストン教授は本指数について、政府関係者、実業界あるいは学術関係者等にとっても高年齢化社会の課題対策のために非常に価値のあるグローバル・データであると説明する。
2013年度のレポートには、確定拠出(DC)型の制度について1章が追加されている。
マーサーのシニア・パートナーであり当レポートの責任者でもあるデービッド・ノックス博士は次の通り述べている。「世界的な長寿化の波、貯まり続ける公的債務、不安定な経済環境、そしてDC制度への移行の流れの中、老後の生活保障における新たなソリューションの開発や学ぶべき教訓が未だ沢山残されています。」
「DC制度はいくつかの国では確立されて既に長い年月が過ぎ、さらにそのトレンドは他の国々に波及しています。オーストラリアはその中でも最先鋒と言えるでしょう。ただし、そのオーストラリアにおいても、他の国々同様、DC移行により人々の老後を支える十分な所得補償を実現できるか、という問いについてはほとんど未解決のままです。それは世界中の政治家や年金業界の関係者等にとっても解決すべき最重要の課題であるにも関わらず、です。」
「DC制度というのはこれまで資産形成という観点で語られることがほとんどでしたが、そうではなく、老後の所得の形成という視点へと、見方を根本的に変える必要があります。それには老後の生活保障にかかわる様々な不確実性に対応する、効率的かつ公正な所得配布の枠組みを検討しなければなりません。」
「社会的、政治的、歴史的あるいは経済的影響にかかわらず、高齢化時代における課題というのは実は良く似ています。結果的に、各国で採用されている対策も非常に似通ったものになりますし、当指数もそのように有効性が実証されている、優れた施策に焦点を当て、広くグローバル規模で共有することを目的としています」(ACFS:デボラ・ラーストン教授)
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FACT SHEET– 調査方法
・ 「メルボルン・マーサーグローバル年金指数」は、2009年に11カ国を対象として調査を開始。5年目の本年対象国は20ヶ国に拡大し、対象国の様々な年金制度への取り組みが指数として表される。
・ 調査では、対象国の年金制度に0から100までの評価が付けられ、「十分性 (Adequacy)」、「持続性 (Sustainability)」、「健全性 (Integrity)」の平均評価値が指数として表される。
・ 各国の老後の所得保障制度における50以上の質問項目から構成され評価付けされている。
・各項目の評価指数における構成は次の通り。
・十分性 (Adequacy) 40%
・持続性 (Sustainability) 35%
・健全性 (Integrity) 25%
【定義】
・十分性 (Adequacy) の項目において高い評価を得ている国は、平均以上の最低年金額によって貧困の緩和がみられ、中所得者の所得代替率がよく、老後の所得として定期的に給付を受け取れるシステムがあり、その他の制度が制定されている。
例えば、公的年金が老後の生活に十分なだけ支払われているか、老後のための貯蓄は十分になされているか、等が評価対象になる。
・持続性 (Sustainability) の項目において高い評価を得ている国では、年金制度に優良なカバレッジ (通常、年金制度の義務化および自動登録などによる)、対GDP年金基金運営資金高比率が達成され、制度の義務化、政府債務が低いことが挙げられる。
例えば、年金が支払われるのに十分な環境が整っているか、平均寿命と支給開始年齢の関係はよいか、国家の破綻のリスクがなく持続可能なものか等が問われる。
・健全性 (Integrity) の項目では、包括的な規制を設け、年金制度のガバナンスおよび政府と国民間のコミュニケーションにおいて数ヶ国が高評価を得ている。例えば、年金制度をうまく運用するための見直し機能や透明性が担保されているか、また私的年金のスキーム等が評価される。
なお、昨年より世界銀行が発表している世界ガバナンス指数を評価に加えている。
* 世界銀行-プレスリリース
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