2016年度(平成28年度)から施行される障害者差別解消法では、障害者に「合理的配慮」を行うことが義務づけられています。大学等に在籍する障害学生数は年々増加しており、講義や学会等の講演会において情報保障を提供することが要請されています。聴覚障害者に対しては、要約筆記・字幕付与を行うことがこれに該当しますが、専門性の高い講演・講義の内容をリアルタイムに文字化できる人員(パソコン要約筆記者)は限られており、各大学等ではその養成が課題となっています。
京都大学の河原達也教授(大学院情報学研究科/学術情報メディアセンター)及び秋田祐哉講師(大学院経済学研究科/学術情報メディアセンター)らは、自然な話し言葉を対象とした音声認識の研究を行っており、講演・講義に字幕付与を行うシステムを開発しました。河原教授らの音声認識技術は、2011年度(平成23年度)から衆議院の会議録システムにも導入されていますが、聴覚障害者の字幕付与技術に関しても、本学の障害学生支援ルームと連携しながら、公開のシンポジウムを毎年開催し、障害者や速記者・要約筆記者などと意見交換、及びシステムの実演を行ってきました。
情報処理学会では、障害者の高等教育や生活環境の向上をめざし、情報処理技術(IT)を活用したシステムの研究を促進するためにアクセシビリティ研究グループ(SIG-AAC)を今年度発足させました。本研究会では、障害者の参加を想定しており、情報保障の実施が当然求められていますが、パソコン要約筆記者の手配は人員的にも予算的にも容易ではありません。そこで、本研究グループの発足にも関わった河原教授らのシステムを試験運用することとしました。講演者には、事前に予稿を提出してもらい、音声認識システムをその話題や語彙に特化させることで精度を高めます。音声認識は完全でなく、誤りを修正する人員が必要となりますが、精度が高い場合には学生アルバイト1名でもできます。特に、東京近郊以外の地方において平日にパソコン要約筆記者を確保するのは至難ですが、経費もおおむね1/10以下で済むと期待されます。
講演者には、事前に予稿を提出してもらう、丁寧にゆっくり発声してもらう、質疑では質問を復唱してもらうなどの協力をしてもらう必要がありますが、本システムを継続的に運用することで、精度を高め、運用のノウハウも蓄積していく予定です。本システムが、他の学会等におけるモデルケースとなることを目指します。なお、講演はニコニコ動画に開設している情報処理学会チャンネルよりインターネット中継され、字幕もあわせて配信される予定です。これらは、ITの活用によりアクセシビリティの改善を図るという本研究会のめざす方向性と合致するものです。
8月22日(土)に東京の国立情報学研究所で開催されるSIG-AACの第1回研究会において、最後のセッションの4講演に対して本システムを用いて字幕付与を行う予定です。
図1 システムの概念図
図2 システムの実演の様子
(参考)
情報処理学会 アクセシビリティ研究グループ(SIG-AAC) (リンク »)
ニコニコ生放送 情報処理学会チャンネル (リンク »)
『聴覚障害者のための字幕付与技術』シンポジウム (リンク »)
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