シリア紛争から5年 -国内に渦巻くカオス、外に溢れだすトラウマ
2016年3月15日、パリ--- 2011年3月15日に始まったシリアで内戦での死者は25万人、負傷者は150万人に達しました。この騒乱によるシリア国内での避難民は700万人、また生き延びるため国外へ逃れた難民は500万人にも上ります。今日、人口の約60%にあたる1,350万人もの人々が救いを求めています。*1
医療機関の約7割は閉鎖されているか、満足な診療を行えていないという状況下で、一体どうやって生き延びた人々に医療を提供することができるのでしょうか?*2 激化する暴力、崩壊した医療システム、最低限度の医療資源すら全く供給されない中、医療へのアクセスは風前の灯です。
2015年は、医療機関への爆撃が繰り返し行われた1年でした。2012年8月から2015年12月にかけて、330の医療機関(うち177が病院)が爆撃により破壊されましたが、うち2015年だけで合計112回の砲撃があったことが確認されています。世界の医療団が支援している26の医療機関のうち7つの施設は、意図的な攻撃対象とされました。シリア紛争の勃発からこれまで、約700人の医療スタッフの命が犠牲となりました。*3
この混乱の最中、シリア人医療従事者の半分以上が国外へ逃れています。*4 難民となった大多数の人々は近隣諸国で生活を送るか、もしくは欧州を目指し移動するのです。しかし、その地では、例え同胞に対してでさえも、医療行為を行うことはできません。
2016年2月16日、再び病院への爆撃があった事実が示すように、医療機関が攻撃の対象となっていることは間違いありません。これは、人道法と国際ルールに対する完全な違反です。ロシアがこの戦争に正式に介入して以来、戦闘は激化し現在アレッポの行政区域では約300万人が攻撃下にあり、またこれまで100万を超える市民が避難民となりました。*5
混乱のシリアから脱出できたとしても、なお生命の危機は続きます。2015年には3,771人が地中海で命を落としました(うち800人は東地中海)。この危険を乗り越えたとしても、行く手を阻む壁やフェンス、有刺鉄線などで負う怪我やトラウマなど、新たな困難に直面します。トルコ、レバノン、ヨルダン、イラク、エジプトのたった5カ国だけで450万人のシリア難民を受け入れている中、欧州諸国は巨大な砦を築き続けるばかりです。この先、何人の人々が新たに命を落とすことになるのでしょうか?*7
世界の医療団フランスの理事長フランソワーズ・シヴィニョンは以下のように述べています。
「第二次世界大戦以来最悪といえるこの未曾有の人道危機に直面する今、国境を開放し、困難を生き抜いてきた難民を受入れ、そして欧州全体が一丸となってこの危機に取り組んでいくよう欧州連合に要請します。シリアにとっても、シリア国民にとってもまったく無意味な紛争ですが、欧州にとっては、今が歴史的瞬間なのです。今なら、欧州各国は連帯と保護という道を選び、欧州の基本理念にも呼応する尊厳のある受入れを実行することができるのです」
1 OCHA, 2 Syria Public Health Network, 3 UOSSM and Doctors of the World, 4 OCHA, 5 OCHA, 6 IOM, 7 Amnesty International
世界の医療団 ‐シリア、その近隣諸国での2015年度の活動
シリア
世界の医療団は2008年よりシリアにて活動を開始、シリア難民、イラク難民やイラク、トルコ、ヨルダンなどの近隣諸国への避難民を対象に支援を行ってきた。シリア北部での医療インフラの不足を補うために固定および移動クリニックの開設、イドリブ地区の住民を対象にプライマリー・ヘルスケアの提供、現地の パートナー組織の支援および人件費の負担などの活動を行っている。また、現在も診療を行っているアレッポ、ダマスカス、ダルアーなどの病院や医療施設に対し、紛争により著しく不足する医療機器、消耗品なども提供している。また、シリア北部とトルコ南部のレイハンルにある2つの術後ケアセンターへの支援も行っている。トレーニングを受けた医療スタッフが、深刻な傷やトラウマを抱え、壮絶な体験から立ち直るためにやってくる患者のケアにあたっている。
2015年、世界の医療団はシリア国内のクリニックにて166,252件の診療を行い、また世界の医療団が支援する26の医療施設では512,907人が診察を受けた。
レバノン
レバノンのUNHCR に登録された難民は1,069,111人に上り、最低限の生活インフラへアクセスするにも困難を極めている。世界の医療団は、多くの難民が集まるベイルート南部とベッカー高原にある5ヶ所のヘルス・センターと移動クリニックを支援している。私たちの活動により、シリア危機によって被害を受けた人々、そしてレバノンの最も弱い立場にある人々は、無料で医療サービスを受けることが可能になった。また財政面での支援により、現地の協働パートナー団体はより質の高い医療支援を受益者に提供できることになった。メンタルヘルスケアについては、医療センターにて心理療法士が診察と診療を提供している。また、コミュニティ・ワーカーのチームが予防と助言活動を地域で行い、サポートにあたっている。
2015年、世界の医療団が支援するヘルス・センターでは107,032件の診療が行われた。1,300人を超える人が心理療法士との面談を行い、4,754人がメンタルヘルスの予防や照会プログラムを活用した。のべ75,000人が世界の医療団の活動の受益者となった。
イラク
イラクでは、北部と西部にて2014年から紛争が続き、300万人の避難民が生まれた。急速に台頭するISIL(自称イスラム国)から逃れるために、ヤジディ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒すべての人々が脱出してきた。戦火に直にさらされている人々、移動を余儀なくされた人々、シリア難民、そして受入先の人々すべてが、この紛争の直接的、間接的な被害者である。世界の医療団はイラクのクルド人自治区とキルクークの避難民キャンプ、そしてトルコ南部のアナトリアのイラク人難民キャンプで活動を展開している。医療チームは、プライマリー・ヘルスケア、セクシャル・リプロダクティブ・ヘルスケア、小児医療、メンタル・ヘルスケア、栄養スクリーニング、健康教育などを提供している。またキルクークでは、大量の難民流入と受入れ側の住民のニーズに対応するため3ヶ所に移動クリニックを設置した。また国境の反対側にあるディヤルバクルとバトマンでの難民キャンプにおいても、イラクおよびシリア難民に対し支援活動を行っている。
2015年、1,090件のセクシャル・リプロダクティブ・ヘルス関連を含む110,296件の診療が行われた。
ヨルダン
ヨルダンでは、自国の人口の一割相当を超える635,000人のシリア難民が滞留しており、そのほとんどがヨルダン北部の都市部やザアタリとアズラックの難民キャンプで生活している。2014年末から、公共の医療機関での診療は有料となっている。世界の医療団は、ラムサに1ヶ所、ザアタリに2ヶ所のヘルス・センターを開設し、必要不可欠とされる医薬品を供給している。これにより一次的な診療に加え、慢性の病気を抱える難民が継続した治療を受けることが可能となった。
心理士とコミュニティチームは、ヘルス・センター、都市部、ザアタリ難民キャンプで活動している。また内科医が訓練を受け、精神面で問題を抱える患者のスクリーニングも行っている。
2015年、18,000人のシリア難民がメンタルケアを受け、ザアタリ難民キャンプでは79,000人、ラムサでは80,000人が医療サービスにアクセスすることができた。ザアタリとラムサの世界の医療団が運営するヘルス・センターでは、200,000件のプライマリー・ヘルスケアの診察が行われた。
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