住友ゴム工業(株)
天然ゴムの破壊メカニズムに関する研究成果を発表
~世界で初めて、き裂先端の結晶化挙動を解明~
住友ゴム工業(株)(社長:池田育嗣)は、ライプニッツ高分子研究所(ドイツ・ドレスデン)※1との共同研究により、世界で初めて、天然ゴムのき裂先端の結晶化※2挙動を明らかにしました。この内容は3月5日~7日にドイツ・ハノーバーで開催された「Tire Technology Expo 2019」にて発表されました。この研究成果を活かし、従来と比べて優れた耐摩耗性能を持つゴムの開発を進め、さらには「より性能が持続する」高性能タイヤの開発につなげてまいります。
※1 1948年に紡績工場の繊維研究所として設立。ドイツ最大のポリマー研究施設のひとつであり、世界の主要な研究グループと共同研究を行っています。
※2 天然ゴムを伸ばした時に、伸長方向に分子の並びが揃うこと。
当社は既に合成ゴム内部の「ボイド」と呼ばれる空隙(ゴム破壊の元)の発生からき裂発生までのメカニズムを解明していますが、今後の環境問題や性能持続の観点から、タイヤの主原料の一つである天然ゴムの破壊現象を解明することも重要なポイントと位置付けています。
■実験概要
天然ゴムは、伸ばすと結晶化することが知られており、この結晶化部分は剛性が高くなります。そのため、SBR(タイヤで一般的に使われている合成ゴム)では発生しないこの結晶化は、天然ゴムのき裂成長や破断に強く影響すると考えられています。タイヤは接地して回転している状態では、ひずみの拘束※3を受けた状態で周期的な変形を繰り返すため、ひずみの拘束下での天然ゴムのき裂先端の変形を観察することが求められます。
※3 ゴムが自由変形できない状態のこと。例えば、金属プレートに接着された薄い円板状のゴム試験体を厚み方向へ伸長するとゴムの性質により幅方向(半径方向)に収縮しようとしますが、金属プレートに接着されているため、金属と接している部分のゴムが剥がれない限り、幅方向に縮むことができず見かけの体積が膨張します。
■実験方法
き裂先端の力とひずみの関係を再現し、かつX線での結晶構造の解析を可能にするために伸長方向に対して幅方向が十分に広い天然ゴムの平面試験片を用いて、伸縮を繰り返した場合のき裂先端※4について、X線広角散乱を用いてゴム内部の結晶化挙動を観察しました。
※4 伸長方向に対して幅方向が十分に広い天然ゴム平面試験片を用いることにより、伸長した際の幅方向への収縮を抑制することができ、ひずみの拘束を受けたき裂先端の挙動を再現しています。
■結果
短冊試験片を伸長した場合は天然ゴム分子のほとんどが伸長方向に揃い結晶化が発生しますが、十分に広い天然ゴム平面試験片のき裂先端では、ひずみの拘束のために、分子の並びが短冊試験片ほど揃わず、結晶がランダムにいろいろな方向を向いていることが分かりました。
<試験片を軸方向(方位角)に回転させたときのX線回折像の変化>
【画像: (リンク ») 】
結晶が伸長方向に揃っていれば回転角に関係なく0°と同じ回折像が得られるが、結晶が
いろいろな方向を向いているため、角度をずらすにつれて結晶の並び方を反映している
黄色のスポットが消えていく。
さらに充填剤としてカーボンブラックを加えたゴム試験片では、カーボンブラックを混ぜていないゴムよりも結晶のサイズが小さくなることがわかりました。
一方、伸縮を繰り返す際の結晶化の状態を観察した結果、伸長時に生じた結晶化は試験片が元に戻る際に融解しますが、伸長時よりも元に戻る時の方が結晶化度が高い結果となりました。
自動車産業を取り巻く環境が大きく変化するなか、当社は「さらに高い安全性能」「さらに高い環境性能」を実現するためのタイヤ技術開発コンセプト「Smart Tyre Concept」を掲げています。今回の天然ゴムのき裂先端における結晶化に関する研究成果から、結晶の並び方をコントロールすることで、今までより破壊されにくいゴム、高い耐摩耗性能を持ったゴムの開発が期待されます。当社はこれからも材料開発のスピードを高め、「Smart Tyre Concept」の方向性の一つである性能持続技術の進化に努めてまいります。
<ご参考>
2019年1月9日発行ニュースリリース
「耐摩耗性能向上につながる、ゴムの破壊に関する研究成果を発表」
(リンク »)
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