明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科の菊池浩明研究室では、あるヘルスケア企業から提供を受けた20万人分の健康診断データと28万人分のレセプトデータ(診療報酬)からなる匿名加工情報を用いて、高血圧や肥満などの危険因子が脳卒中やがんなどの成人病に罹患するリスクをどれだけ上げるかを明らかにしました。
従来はこれらの分析をするために、特定の地域に在住する被験者の同意を取ってコホートと呼ばれる被験者集団を作り長期間に渡って追跡する必要がありました。これに対して、平成28年度の個人情報保護法の改正によって導入された匿名加工情報の制度により、特定の個人が識別できないデータに加工することで、最新のAI技術を適用した結果を低コストで迅速に得られることがはじめて可能になりました。
9月に発表した論文[1]の主要な結論として、高血圧を危険因子としたときの脳卒中などの循環器系疾患のリスクは1.75倍に上がること、十分な睡眠を取る人が3年以内に脳卒中となるリスクは睡眠不足の人に比べて0.787倍に下がること、性別と年齢について代表的な匿名化技術であるk-匿名性で加工しても、274種類の疾病の最大誤差は0.007であり、十分な精度であることを明らかにしました。
明治大学は、本研究を更に進めて、より幅広いヘルスケアデータや診断データの解析を可能にすることを目標として、国立研究開発法人情報通信研究機構サイバーセキュリティ研究所、国立研究開発法人理化学研究所革新知能統合研究センター、京都大学医学部附属病院と共同で、「安全性と有用性の保証のあるヘルスケア匿名コホート基盤」の研究を開始いたします。本研究は、2021年度国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業[2]に採択され、10月から5.5年間に渡って研究開発、実証実験を行う予定です。
[1] 伊藤 聡志, 池上 和輝, 菊池 浩明, 健康診断データとレセプトデータの匿名加工情報を用いた疾病リスク分析, 情報処理学会論文誌, 62(9), pp. 1560-1574, 2021. [doi.org/10.20729/00212761]
[2] 2021年度 JST 戦略的創造研究推進事業(CREST)新規採択課題「安全性と有用性の保証のあるヘルスケア匿名コホート基盤」, (研究領域,「基礎理論とシステム基盤技術の融合による Society 5.0 のための基盤ソフトウェアの創出」,岡部 寿男 研究総括)[ (リンク ») ]
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