本コンテストには、スタートアップや大学が17の国や地域から全43チーム参加し、その内、書類選考を通過した20チームが量子シミュレータを用いたアプリケーション開発の成果を競い、その結果フィンランドのQuanscient Oy(注2)(以下、Quanscient社)の「流体力学における量子アルゴリズム開発」の取り組みが1位を獲得しました。コンテスト期間中の量子シミュレータ使用時間は累計で5万6,000時間に及び、エラー訂正技術を含む基礎研究成果から社会問題解決に資するアルゴリズム開発に至るまで様々な成果が報告されました。賞金総額は10万米ドルです。
当社は2024年以降も、世界最大級(注3)の40量子ビットに増強した量子シミュレータを活用した「Quantum Simulator Challenge」の開催を検討しており、量子コンピューティング分野における先進的なスタートアップとの協業をグローバルに進め、量子コンピューティング技術の社会実装に向けた研究開発を主導していきます。
【背景】
現状の量子コンピュータは、ハードウェア計算におけるエラー率の高さやスケーラビリティに課題があるため、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)上で動作する量子シミュレータを用いてアプリケーション開発が進められており、多岐に渡る分野で活用の可能性を模索していく必要があります。当社はスーパーコンピュータ 「富岳」(注4)のCPU「A64FX」を搭載した「FUJITSU Supercomputer PRIMEHPC FX700」で構成されたクラスタシステムである量子シミュレータを活用し、様々なお客様と先駆的な量子アプリケーションの開発に取り組んでいます。
量子アプリケーション開発において、量子シミュレータ利用者からのフィードバックを得ることが大変重要なため、当社は、量子シミュレータのリソースを一部開放し、応募があった研究機関や大学、企業が様々な分野で量子アプリケーション開発を競い、そのフィードバックを得ることを目的に「Quantum Simulator Challenge」を開催しました。
【「Quantum Simulator Challenge」について】
本コンテストの開催を2023年2月に告知しグローバルに参加を公募しました。スタートアップや大学を中心に17の国と地域の43チームから応募があり、量子シミュレータ上で取り組む問題解決の革新性や社会課題への貢献性などについて書類審査を実施し、その結果20チームが審査を通過しました。2023年6月から9月にかけて、39量子ビットの量子シミュレータ上でそれぞれが設定した問題解決テーマに取り組み、コンテスト期間終了後に参加チームが研究成果のレポートを提出しました。本レポート内容をもとに、当社の量子研究員をはじめとした13人の厳正な審査を経て、以下の受賞4チームを決定しました。
受賞チーム:
1位 : Quanscient Oy Quantum Algorithms for Fluid Dynamics
- 流体力学の領域に量子技術を適用し、複雑な流体シミュレーションを実行。車両/船舶/航空機の製造や生物医学で活用可能な量子アルゴリズムの開発、および計算性能の測定/評価を実現
2位 : Riverlane Limited(注5) Quantum stability experiments on the Fujitsu Quantum Simulator
- 量子誤り訂正(QEC)のベンチマークの重要指標となる量子の安定性シミュレーションを実施。量子計算のエラー(誤り)の原因となるノイズのモデルごとに量子の安定性を検証し、これまで観測されたことが無い挙動を発見
3位 : Qkrishi Quantum Private Limited(注6) / Bloq Quantum Private Limited(注7) Optimized Quantum Kernels for Improved Credit Card Fraud Detection
- クレジットカード不正利用の検知に量子機械学習を適用するシミュレーション。量子シミュレータをバックエンドとしたアプリケーションを試作し、保険会社もその有用性を評価
3位 : University of Naples Federico II(注8) Interpretable and Efficient Control of Smart Cities with Quantum Computers
- 量子コンピューティングとファジー理論(注9)を組み合わせて人間が理解出来る言語ルールをベースとしたシステムを構築。無線ネットワークや交通信号制御などのスマートシティ事例に適用
【富士通株式会社 技術戦略本部長 岡田 英人のコメント】
「Quantum Simulator Challenge」の一環として量子シミュレータ上で開発された様々なアプリケーションとその高度な技術力は、様々な問題を迅速かつ正確に解決する量子コンピューティングの力を示しています。当社は、お客様やパートナーと協力し、量子シミュレータと量子アプリケーションの開発を進めることで、量子コンピューティングの最前線に立ち続けます。また、本コンテストのようなコミュニティにおける活動はイノベーションの創出に不可欠であり、当社は今後も量子コンピューティングコミュニティとの連携に取り組みます。
【商標について】
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
【注釈】
注1
De Oude Bibliotheek Academy:
所在地 オランダ・デルフト州、デルフト工科大の図書館を改装したコミュニティスペース
注2
Quanscient Oy:
本社 フィンランド タンペレ、Co-Founders: Juha Riippi (CEO), Valtteri Lahtinen (Chief Scientist), Alexandre Halbach (CTO), Asser Lahdemaki (Chief Software Architect)
注3
世界最大級:
汎用的な量子回路シミュレーション方式であるState Vector方式の常設専用機としては世界最大級(2024年1月現在、富士通調べ)
注4
スーパーコンピュータ「富岳(ふがく)」:
スーパーコンピュータ「京」の後継機。2020年代に、社会的・科学的課題の解決で日本の成長に貢献し、世界をリードする成果を生み出すことを目的とし、電力性能、計算性能、ユーザーの利便性・使い勝手の良さ、画期的な成果創出、ビッグデータやAIの加速機能の総合力において世界最高レベルのスーパーコンピュータとして2021年3月に共用を開始した。
現在「富岳」は日本が目指すSociety 5.0を実現するために不可欠なHPCインフラとして活用されている。
注5
Riverlane Limited:
本社 英国 ケンブリッジ、Founder and CEO: Steve Brierley
注6
Qkrishi Quantum Private Limited:
本社 インド グルガオン、Founders: Monika Aggarwal、Prabha Narayan
注7
Bloq Quantum Private Limited:
本社 インド コッラム、CEO: Sreekuttan L S
注8
University of Naples Federico II:
所在地 イタリア共和国 南部ナポリ、学長:Matteo Lorito
注9
ファジー理論:
人間の主観によるあいまい性を扱うための数学理論。「とても」「少し」などの概念を理論化。
【関連リンク】
・「Fujitsu Quantum Day」
( (リンク ») )
・スーパーコンピュータ「富岳」のテクノロジーを活用し、36量子ビットの世界最速量子シミュレータの開発に成功(2022年3月30日プレスリリース)
( (リンク ») )
・超伝導量子コンピュータを開発し、量子シミュレータと連携可能なプラットフォームを提供(2023年10月5日プレスリリース)
( (リンク ») )
【当社のSDGsへの貢献について】
[画像1: (リンク ») ]
2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)は、世界全体が2030年までに達成すべき共通の目標です。当社のパーパス(存在意義)である「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」は、SDGsへの貢献を約束するものです。
[画像2: (リンク ») ]
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