ハノイの食欲の秋「中秋節」
9月にはもう1つのイベントがあります。旧暦の8月15日は、祝日でこそありませんが中秋節としてお祝いをすることが一般的です。中秋節というと「おや、ベトナムでもお月見ですか?」と思われるかもしれませんが、お祝いの中身は日本とはだいぶ異なります。日本では月をめでる日となりますが、ベトナムでは子孫繁栄の意味も含んだ子供のための日。この点で、日本の5月5日(こどもの日)に似ているかもしれません。
家族内ではこのような子供のお祝いをしますが、同時に、親しい人やお世話になった方への季節のごあいさつとして、月餅を贈り合います。中元節という言葉からも推測できるように、さながら日本での「お中元」に相当するのかもしれません。また、この季節は、日本から来た出張者へのベトナム土産やベトナム企業との懇親会に出席した際の手土産として、ベトナムで働く日本人も何かと月餅をいただく時期でもあります。
当然、菓子メーカーにとっては一大商戦になるため、お店では早ければ7月の終わり頃から取り扱いが始まり、さらに街頭ではテントを張った臨時販売所も設けられ市中のあちこちで月餅を売っているさまを目にすることができます。また最近では、月餅だけではなくお茶を添えて趣向を凝らしたり、ホテル特製の月餅を売り出したりといったことも増えてきているようです。
5つ星ホテルで売り出されるホテル特製の月餅。高価格帯の商品も増えてきているが、一般的な価格帯の商品であっても込められている気持ちが感じられるときは、われわれ受け手が外国人だからこそ素直にうれしいもの。
ベトナムの月餅も、日本の中華街などでなじみのある大きさと形をしています。また、中の餡(あん)は、ハスやクルミといったスタンダートなものを含めいろいろとあり、それぞれに卵の黄身を使っているかどうかによっても味に違いがでてきます。そのため、毎年の恒例行事とはいえ、ベトナム人にもそれぞれ好みがあるらしく、どのメーカーが良いか、どんな餡が良いのかといった話をすると意外と盛り上がることもあります。、この時期ならではの格好の話のネタと言えるかもしれません。
ただし、食べ過ぎには要注意です。小豆の餡や油脂など高カロリーの原料がふんだんに使われているため、ちょっとした食事と変わらないくらいのカロリーを摂取してしまうという話もあります。北部のハノイでは9月には暑さのピークも越えて涼しくなり始めるころ――中秋節は、南部ホーチミンでは見られない、ハノイの「食欲の秋」なのかもしれません。