SDN座談会(4):ネットワークからアプリケーションを理解することの重要性 - (page 2)

吉澤亨史 田中好伸 (編集部) 山田竜司 (編集部)

2016-01-29 07:00

 最近は「Industrie 4.0」やIoT(Internet of Things、モノのインターネット)などと言われていますが、社内に存在している生産計画というようなプロセスを外部の利用者にAPIで解放するという動向が生まれてきます。いったん外部に解放すると処理ボリュームが読めないことがあるという前提で自動化をしなければいけない。また、外部に公開するアプリケーションは高速な改善が求められ、トライ&エラーから学習し作り直して改善する、ということが求められます。

 逆に社内だけで利用する固定的な基幹業務を動かしている運用を自動化しても、自動スケーリングもしないし仮想サーバの移動もないというようなことであれば、行き過ぎた自動化ということになりかねません。そういった意味で適用対象を誤ってしまうことでSDNに対して失望しないようにしなければなりません。IT部門は、その2つを上手にバランスして、正しいテクノロジを当てていく目利きというところが大事だと思います。

日本IBM グローバル・テクノロジー・サービス事業本部 サービス・デリバリー 技術理事 ディスティングイッシュド・エンジニア 山下克司氏
日本IBM グローバル・テクノロジー・サービス事業本部 サービス・デリバリー 技術理事 ディスティングイッシュド・エンジニア 山下克司氏

 SDNの将来に関しては、オープンであるということが重要です。特定の製品やサービスにロックインされてしまうというところは近年問題になりつつあります。こうしたロックイン問題にはオープンソースである(Linuxカーネルの仮想化基盤)「KVM」、コンテナの「Docker」、(IaaS環境構築基盤ソフトウェア)といった対抗軸がちゃんとできているので、過去Windowsに対してLinuxができてきたように、オープンソースはクラウドやSDNの市場を活性化すると思います。

 今はハイパーバイザはVMWare一色ですが、KVMもOpenStackとセットで成熟度が上がっていますし、コンテナ実装のニーズも生まれてきて「もうハイパーバイザのオーバーヘッドはごめんだ、コンテナでサービスを0.2秒で起動したい」というニーズも出てきているので、サーバの稼動環境もVMだけではなくなるのではないでしょうか。

 ベンダーとしてはオープンソースと、それぞれの製品をバランスして動いていくだろうと思います。IBMは現在オープンソースに注力をしてオープンクラウドという戦略の上で動いていますが、クラウドやSDN市場全体の健全な成長を見守っていきたいという考えです。

SDNが当たり前の時代がやってくる

生田氏 山下さんが話した「正しいテクノロジを当てていく」という意見はまったくその通りだと思いました。IT部門が特に注力すべきことというのは、情報システムが「誰のためにありますか?」というところをきちっと捉えないと先を見誤るのではないかと思っています。

 データセンターでのSDNと企業のLANやWANでのSDNの決定的な違いは、中心がエンドユーザーなのか、集まってくるデータなのかということです。企業向けのLANは人が中心で、システムと人のフローが合わさってやっとバリューになると思います。SDNというと、いろいろなテクノロジのキーワードが先行してしまっているように感じます。

シスコシステムズ システムエンジニアリング SDN応用技術室 テクニカルソリューションズアーキテクト 生田和正氏
シスコシステムズ システムエンジニアリング SDN応用技術室 テクニカルソリューションズアーキテクト 生田和正氏

 それを本当にIT部門としてやりたいこと、エンドユーザーにとってメリットがあることは何なのか、それを実現するテクノロジというのは、本当に新しい技術でないとダメなのか、というところがリスクとのトレードオフになるかとも思います。そこを見誤ると、せっかくSDNを使って導入したのに全然利点が見出せないということになり、導入責任も問われてしまいます。枯れた技術と新しい技術をうまく使い分けながら、正しいテクノロジを選択、提供することが重要だと思います。

 先ほどIndustrie 4.0やERPが出ましたが、ネットワークエンジニアはそういったレイヤが高い話題には疎い人が多いと思います。「もう、ネットワーク技術者は物理ネットワークだけやっといて。自分たちアプリケーション屋はクラウドを勝手に使うから」では、あまりにももったいないし、それは業界として問題です。

 今、立ち止まって、改めてSDNがわれわれネットワーク技術者に与える影響について考える必要があると思います。そこはメーカーやSIer(システムインテグレーター)も一緒に盛り上げないといけない。実験的なイベントやハッカソン、勉強会などももっとやった方がいいと思っています。業界を挙げて状態を活性化させて、ネットワークエンジニアが既存の枠を破って、これからの時代に求められる技術者として成長していけば、さらに幅広く活躍できる土台ができるし、そうやっていかないといけないという気がしています。

 「SDNという言葉はもういいよ」みたいなお客さまも実際に増えてきているというのが現状だと思っています。自分たちのやりたいことを明確にされたお客さまからの問い合わせも増えてきています。SDN出だしの頃から5年ぐらい経って冷静に現状が見えてきて、新しい製品や技術に飛びつくだけでなく、冷静にあるべき姿を考えられるようになってきているという、すごく良い傾向だと思います。

 将来、SDNという言葉はもしかしたら聞かなくなるかもしれませんが、メーカーにしてもサービスにしても、ありとあらゆるところでSDNは当たり前のものになると思います。それにあわせて古いものと新しいもののバランスを上手く取りながらユーザー企業に役立つものを提供していくことで、感謝されるIT部門になって、さらにそこで効率化できたリソースをどんどん新しいバリューを生み出すエリアに投資していかないとIT部門もネットワーク技術者も先細りしていくだけだと思います。

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