「ビッグデータとクラウド・ストレージ」 連載 第五回
イベント・企業編3:
オープンソースの逆襲 ~クラウド&ビッグデータ会議 ゆるめの報告
エノテック・コンサルティング代表
海部美知
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◆ オープンソース勢力の集会
今回は、シリコンバレー(サンタクララ)で11月5~8日に開催されたCloud & Big Data Expoに行ってみた。全部を見ることはできなかったが、少々雰囲気はわかった。
連載第二回では、ラスベガスでの会議に集まっていた、米国全土に面的にひろがる地域密着型ホスティング業者の保守的で実直な様子が「シリコンバレーと全く対照的」とお伝えした。その比較対象である「シリコンバレー」のそのまた極端な反対側の端っこの典型、といった雰囲気が、まさにこの会議だった。というのも、ここは、クラウドにおける「オープンソース」勢力の集まりなのだ。
ラスベガスでの会議のような、短髪をきちんと分けた背広にネクタイの男性は少数で、長髪・ヒゲ・ポニーテールなどは当たり前、それどころかまるで「ラストエンペラー」かと思うような辮髪の人までいた。
シリコンバレーのオープンソース・コミュニティは、大手企業の支配を嫌い、誰でも参加できる真の民主主義を標榜する「イデオロギー」の香りが強い。会議の参加者は、ざっと見渡したところ、他の技術系イベントと比べてiPhoneが少なく、オープンソースであるAndroid保有者の比率が高いような印象を受けたのも面白かった。
また、アジア系の人が多かったのも特徴で、地元のアジア/インド系開発者だけでなく、韓国企業や日系企業の人も多数来場していた。
◆ オープンスタックのアマゾン対抗同盟
クラウドのオープンソース・ソフトウェアの主力は「オープンスタック(OpenStack)」だ。これは、ラックスペース社とNASA(アメリカ航空宇宙局)が2010年にプロジェクトをスタートし、Apacheライセンスで公開されている、クラウド・コンピューティングを構築するためのオープンソース・ソフトウェアである。この会議も、オープンスタック・ファウンデーションとラックスペースがメイン・スポンサーとなっている。
ラックスペースは、1998年創業のホスティング大手で、IaaS(Infrastructure as a Service)分野でアマゾンに次ぐ二番手である。アマゾンが独自方式で圧倒的シェアをもつ現状に対し、多くの味方を集めてオープンソースで対抗しようとしている。いわば、スマートフォンOSにおいて、iOSに対抗するグーグルが、Open Handset Allianceを母体としてオープンソースのAndroidを運営しているのと全く同じ構図だ。
オープンスタックには、ラックスペースとNASAの他、AT&T、IBM、レッドハット、シスコ、インテル、VMware、NECなど、数多くの主要企業がメンバーとして参加している。
Cloud & Big Data会議で、初日にオープンスタック、ラックスペース、レッドハットなどの講演を聞いたが、いずれも「オープン」が思想の共通のトーンであった。「特定のホスティング・サービスにロックインされず、自由にデータの移動ができたり、自社のニーズに合わせてカスタマイズできる」といったポータビリティ+アジリティの利点を強調し、皆あえて言わないけれど「アマゾンと違って」という枕詞が無言でついている、ように聞こえた。
◆ ビッグデータのためのオープンスタック
とはいえ、アップルとグーグルのようにいがみあっているわけではない。オープンスタックではラックスペースのサービス機能が主に提供されているようだが、S3からユーザーが移行したり、後々S3へと移行したりすることが容易にできるよう一部、基礎的な機能に互換性をもたせている。
S3と同様、オープンスタックも、スケールアウトしやすいことを主眼とした、ビッグデータ時代のクラウドストレージである。
オープンスタックは、3つの要素で構成されている。
① Compute:プロビジョン・マネージメント
② Storage:オブジェクト・ストレージとブロック・ストレージ
③ Network:ネットワーク管理
現在のところオープンスタック陣営は「卸売」的立場の企業が多い。例えばオープンスタックのウェブサイトで紹介されている「ユーザー」としては、シスコ傘下のウェブ会議サービス「WebEx」がフィーチャーされおり、他は大学・研究機関などが目立つ。
成熟するまでにもう少し時間が必要とも言われていることから、消費者にもブランドが浸透している「ネットフリックス」のような、有名どころの一般企業ユーザーはオープンスタック陣営にはまだおらず、参加メンバーは、企業ユーザーのプライベート・クラウドや、ホスティング事業者のクラウド・サービスを構築するサービスの提供を考えているようだ。
会議の展示フロアでは、VMware、インテル、マイクロソフト、アカマイなどの要素技術ベンダーや、ベライゾンのホスティング部門(テレマーク)、AT&Tなどが大きなブースを出していた。
◆ 日本企業の登場
展示フロアには、こうした地元米国の主力企業だけでなく、ベンチャーや中堅企業も多く、これに混じってJETROの日本ブースやオランダ・パビリオンもあった。
日本ブースでは、モバイル・M2M向けクラウド・ソリューションのインヴェントイット、高頻度トランザクション向けデータベース・クラスタリング・ソフトウェアのMurakumo、忘れにくく破られにくいパスワード認証システムのセキュアメトリックス、システム開発のためのルールベース技術のなうデータ研究所の日本企業4社が出展。すでに米国企業の提携先がある企業も、これから米国でのデビューを目指すものもある。
また、クラウディアンも提携先であるシトリックスのブースでプレゼンテーションを行った。クラウド構築のためのオープンソース・プロジェクトとしては、オープンスタックの他にもう一つ、クラウドスタック(CloudStack)がある。シトリックスはこれをベースとした「クラウドプラットフォーム(CloudPlatform)」というプロダクトを、ホスティング事業者のクラウド・サービスや企業ユーザーのプライベート・クラウド向けに提供している。クラウディアンのクラウド・ストレージ・プラットフォームは、このプロダクトと統合・連携して利用することもできる。
クラウド・ビッグデータ分野では、ストレージの日立などといったハードウェア企業以外はあまり展示会で日本企業を見かけなかったが、ソフトウェア分野でも米国での活動が少しずつ見られるようになったのは嬉しいかぎりである。
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- 海部 美知(かいふ・みち)
- 海部 美知エノテック・コンサルティングCEO(最高経営責任者)。ホンダを経て1989年NTT入社。米国の現地法人で事業開発を担当。96年米ベンチャー企業のネクストウエーブで携帯電話事業に携わる。98年に独立し、コンサルティング業務を開始。米国と日本の通信・IT(情報技術)・新 技術に関する調査・戦略提案・提携斡旋などを手がける。シリコンバレー在住。子育て中の主婦でもある。
ブログ:Tech Mom from Silicon Valley。
Twitter ID:@MichiKaifu。
著書に『パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本』(アスキー
新書)がある。