デルとEMCの統合によって、SAPのインメモリデータベース「SAP HANA」やSAP HANAベースのERPアプリケーション「SAP S/4HANA」を選択されるお客様への両社のソリューションもまた融合され、一層の厚みを増すことになった。SAP HANAソリューションの領域で、両社のシナジーはいかに発揮され、それによって企業のシステムはどう変わるのか。デルとEMCのキーパーソンの話を交えながら、その方向性を探る。
Dell EMCブランドの下で
2016年9月、デルとEMCの統合後の新たな組織体制が公にされた。それによれば、持ち株会社のデルテクノロジーズ(Dell Technologies)が発足されその傘下で、デル、EMC、VMware、Pivotal、SecureWorks、RSA、Virtustreamのすべての技術とソリューション、そしてサポートサービスが総合的に提供されるという。
この体制の中で、法人に向けたデル・EMCのサーバ、ストレージ、ネットワーク、さらにはハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)は、大小さまざまな規模の、多様な課題・ニーズを持った企業向けにDell EMCブランドの下でワンストップで提供していくわけだ。そして、同グループの守備範囲には、これまでデルとEMCの両社が力を注ぎ、それぞれ実績を積み上げてきたSAPのインメモリデータベース(以下、インメモリDB)「SAP HANA」や、SAP HANAベースのビジネススイート「SAP S/4HANA」に向けたITインフラの提供も当然含まれている。

山崎 良浩氏
EMCジャパン株式会社
システムズ エンジニアリング本部 プロダクトソリューション統括部 ITソリューションエバンジェリスト部
SAPスペシャリスト
「EMCのストレージは大企業を中心としてSAP ERPシステムの基盤として広く普及しています。とりわけ、フォーチュン100社が導入しているSAPシステムのストレージはその多くが『Dell EMC VMAX(Symmetrixシリーズ)』を中心にしたEMC製品で占められています。SAP S/4HANAや『SAP Business Suite powered by SAP HANA』についても、日本国内、海外ともにDell EMC VMAXは多くの企業への導入実績があります。Dell EMC VMAXは大手金融業をはじめとして、1分1秒の停止も許されないようなミッションクリティカルな大規模システムの領域で広く採用されているストレージで、SAP環境でもこの堅牢性が高く評価されているというわけです」と、EMCジャパンの山崎 良浩氏(システムズ エンジニアリング本部 プロダクトソリューション統括部 ITソリューションエバンジェリスト部 SAPスペシャリスト)は話す。
一方のデルでも、SAPとの間で約20年来のパートナーシップを結び、「SAP ERPシステムやSAP HANAのIT基盤として多くの実績を有しています。デルのサーバは最新の業界標準技術を積極的に採用しているため、安定稼動するとご評価いただいております。」と、デル エンタープライズソリューション&アライアンス エンタープライズテクノロジスト SAPコンピテンスセンター担当の菅谷篤志氏は言う。とりわけ、SAP HANAに関してはその登場当初から積極的にコミットし、2011年6月にはSAP HANAアプライアンスを他社に先駆け製品化した。

菅谷 篤志氏
デル株式会社
エンタープライズソリューション&アライアンス
エンタープライズテクノロジスト
SAPコンピテンスセンター担当
そのため、デルのSAP HANAアプライアンスは国内外の多くの企業に導入され、SAP S/4HANAのIT基盤として用いられているほか、SAP HANAで構築されたビジネスアナリティクスや、SAP HANAとデータ・ウェアハウス・ソフトウェア「SAP NetWeaver Business Warehouse(SAP BW)」を統合化させた「BW on HANA」を支えるスケールアップ/スケールアウトのIT基盤として活用されている。
デルのSAP HANAアプライアンスは、CPUにインテル® Xeon® プロセッサー E7 v4を採用し、標準的なx86のアークテクチャに準じ、SAP HANAのベンチマークで世界最高性能をたたき出す常連である。また、VMwareでのSAP HANAの仮想化対応やスケールアップ/スケールアウト構成のSAP HANA Tailored Data Center Integration (TDI)もお客様の要件に合わせて柔軟で幅広い提案が可能だ。
こうしたデルとEMCの統合により、さまざまな層のSAPユーザーに対して、多彩なIT基盤を提供する土台が整ったことになる。
となれば気になるのが、Dell EMCが、SAP HANA、あるいはSAP S/4HANAのソリューションを具体的にどのように提供しようとしているかだ。ただ、それを明らかにする前に、そもそもなぜSAP HANA、そしてSAP S/4HANAが必要とされているかについて改めて整理しておきたい。
SAP HANAの絶対価値
言うまでもなく、インメモリDBであるSAP HANAは、基本的にDB処理のボトルネックとなるディスクI/Oを発生させず、CPUとメモリとの間で処理を完結させる。メモリのI/OはディスクI/Oよりも約10万倍高速だ。そのためSAP HANAの処理スピードは、ディスクベースで動作する従来型DBに比べ圧倒的に速い。
しかも、SAP HANAの場合、データ集計・分析に適したカラム型(列型)DBでありながら、ロー型(行型)DBと同様にOLTP(オンライントランザクション処理)にも対応、OLAP(オンラインアナリティクス処理)・OLTP両用の高速DBエンジンとして機能させることができる。また、カラム型DBであるゆえにデータの圧縮率が高く、高速化(チューニング)のためにDBにインデックスを張り巡らす必要もない。ゆえに、従来型DBからSAP HANAへの移行によって、DBのサイズが大幅に小さくなるというメリットもある。
加えて、SAP HANAには、インテルのマルチコアプロセッサ用に最適化された並列処理のアルゴリズムが実装されている。これにより、カラム単位で細分化されたSQLの問い合わせもきわめて高速に処理することができる。また、大規模テーブルを複数に分割し、テーブルに対するアクセスを並列で高速に処理することも可能としている。
「ビジネスの今」をリアルタイムに可視化する
こうしたSAP HANAの特性は、多くの企業による同DBの採用へとつながっている。その背後にあるのは、自社の経営状況や商品の動き、市場の動き、顧客の動きをリアルタイムに可視化し、分析したいという企業のニーズだ。
ご承知のとおり、今日では、企業を取り巻く経済情勢、市場・顧客ニーズが目まぐるしく変化している。そうした状況下では、経営サイドもビジネスの現場も、「今、何が起きているか」をリアルタイムにとらえ、迅速、かつ適切な意思決定やアクションへとつなげていくことが必要とされる。
ところが従来型DBでは、処理スピードの限界から、たとえば、「大量の売上げデータを、そのデータが発生した時点で、リアルタイムにまとめ上げ、経営やビジネス現場に利用させる」といった仕組みを構築するのは難しかった。ゆえにこれまでは、ERPアプリケーションで生成されたビジネスデータをデータ・ウェアハウス環境に(バッチ処理などによって)集約、目的別のデータマートなどを通じて、経営・各部門での活用・分析に利用させるといったプロセスを踏む必要があった。結果として、データの発生から、経営・ビジネス現場での活用までにかなりの時間がかかり、その分、ビジネス上の意思決定やアクションが後手に回るおそれがあったのである。
このようなシステムのDB環境をすべてSAP HANAに移行させれば、ERPアプリケーション側で発生したDB更新がリアルタイムにデータ・ウェアハウス側に反映される。しかも、データ・ウェアハウス(のDB)は極めて高速なため、チューニングを施す必要もなければ、目的別のデータマートを用意する必要もなくなり、その分の労力・経費を大幅に減らすことも可能になる(図2参照)。

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