ITソリューションの総合プロバイダーへの転身を急ピッチで成し遂げつつあるデル。企業のビジネス革新に必要とされるハードウェア、ソフトウェア、そしてサービスを網羅的に提供し、これまでとは異なるプラスアルファの光を放ち始めている。ここでは、2015年11月12日に開催された「SAP Forum Tokyo」のデルのセッションと展示内容を基に、同社が推進するIoT/ビッグデータソリューションの一端を紹介する。フォーカスするのは、SAPのインメモリ・コンピューティング・プラットフォーム「SAP HANA」によって、デルがいかなるIT革新を引き起こし、ユーザー企業のビジネス効果につなげようとしているかだ。
IoT/ビッグデータの早期着手に向けて
周知のとおり、IoT(Internet of Things)とビッグデータ(アナリティクス)は、いわゆる「デジタル・イノベーション」の原動力として期待を一身に集めるテクノロジーであり、ソリューションだ。ドイツ政府が主導する「Industry 4.0」においても、「工場のインテリジェント化/自動化」を支えるテクノロジーとして、IoT/ビッグデータが位置づけられており、すでに日本を含めた各国の製造業が、製造ラインでの故障検出・故障予知の自動化にIoT/ビッグデータを応用し始めている。また、自社のプロダクトにセンサーを組み込み、顧客に対する付加価値サービスの創出に役立てたり、センサー情報のリアルタイム解析によって、顧客サービスの高度化を実現したりといった取り組みも、さまざまな企業で始まっている。
そうした中で、デルが推し進めているのが、「顧客がすぐにIoT/ビッグデータに取り組めるようなソリューション」を提供することだ。
デルは、「Dell Blueprint」戦略というワークロードごとに最適化されたソリューション領域のシステム設計図を提供する戦略を進めている。その中身は「リファレンスアーキテクチャ(Reference Architecture)」と、「エンジニアドソリューション(Engineered Solution)」から成り、リファレンスアーキテクチャは、文字通り、システム実装時に参照とすべき推奨構成であり、また、エンジニアドソリューションは、事前検証済みのアプライアンス製品である。そして、IoT/ビッグデータのソリューションについては、7つあるBlueprintのうち「データアナリティクス(Data Analytics)」と「ビジネスプロセシング(Business Processing)」の2つに位置づけられており、それぞれのソリューションを支えるキー・テクノロジーとして、「SAP HANA」が組み入れられている。

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言うまでもなく、SAP HANAは、インメモリ・データベースのテクノロジーを基盤にした製品であり、OLTP(オンライン・トランザクション・プロセシング)/OLAP(オンライン・アナリティクス・プロセシング)の双方に対応したインメモリ・コンピューティングのプラットフォームだ。構造化/非構造化データの処理をメモリ上で完結させるため、従来構造のデータベース・プラットフォームに比べ、大量データの分析処理を圧倒的にスピーディに処理できるという特徴を有している。つまり、SAP HANAならば、IoTのネットワークを通じて流入してきた大量データのリアルタイム分析も難なくこなすことができるということだ。デルは、SAPとアライアンスを組み、このSAP HANAとデルのハードウェアを一体化させたエンジニアドソリューションを提供している(同ソリューションについては、後述)。
ならば、ユーザー企業はデルのSAP HANAソリューションによって、具体的にいかなるビジネス・メリットを得ることができるのか──。その疑問への答えを明らかにする前に、まずは「SAP Forum Tokyo 2015」で展開されたデルとSAPジャパンのパネルディスカッションの内容に焦点を当て、「IoT/ビッグデータが、どれほどのビジネス効果をもたらしうるのか」、あるいは、「ビジネス効果を得るために何が必要なのか」について触れておきたい。
想定以上の効果を生む
デルとSAPジャパンによるパネルディスカッションは、『IoT/ビッグデータの新技術を活用したビジネス改革』と題されたものだ。パネリストとして、デルの馬場健太郎氏(エンタープライズソリューション統括本部エンタープライズソリューションズ&アライアンス部長)と、SAPジャパンの大本修嗣氏(プラットフォーム事業本部シニアディレクター)が檀上に上り、ビッグデータ分析サービスを展開するブレインパッド代表取締役会長でデータサイエンティスト協会 代表理事の草野隆史氏がモデレーターを務めた。

ブレインパッド
代表取締役会長
草野隆史氏
このディスカッションで中心のテーマとして掲げられたのは、「ビッグデータ活用で、企業が真のビジネス効果を得るには、何をどうすべきか」である。
このテーマの下、草野氏はまず、デルとSAPの両社がそれぞれIoT/ビッグデータの領域でどのようなビジネス効果を顧客企業にもたらし、そこからどのような知見を得ているかという質問を投じた。
その問いかけに対して、デルの馬場氏は、デルとインテルが共同で進めた半導体製造工場でのビジネスプロセス革新の例を挙げる。

デル
エンタープライズソリューション統括本部
エンタープライズソリューションズ&
アライアンス部長
馬場健太郎氏
「この取り組みは、インテルの半導体製造工場内にセンサーを設置し、そこから収集したデータの分析によって、製造装置故障に対するプロアクティブな対処や製造プロセスの改善につなげたケースです。プロジェクトはマレーシア工場で試験的にスタートを切ったのですが、25%の歩留まり向上や20%のスペアパーツ予備コスト削減など、想定以上の効果が得られたことから、現在は、インテルのすべての工場への展開を図っています」と、馬場氏は話す。
同氏によると、この事例では、大きく3つの課題の解決が目標として設定されたという。その1つは、不良品の誤検出とTIU(テストインタフェースユニット)の障害による効率低下だ。また2つ目は、基板にハンダボールを取り付ける際のミス回避であり、さらに、3つ目は、不良品検査時間の短縮である。インテルでは、こうした課題を、相関分析や機械学習、画像解析といったIoT/ビッグデータ・アナリティクスの技術を駆使することで解決し、想定以上のビジネス効果を創出したのである。
多岐にわたる適用領域
一方、SAPの大本氏は、SAPがグローバルで支援してきたさまざまなユーザー事例(SAP HANAの事例)を紹介した。そもそも、SAPはERPアプリケーションのリーディング・カンパニーであり、基幹業務システムの領域で豊富な実績とノウハウを有しているが、SAP HANAをベースにしたビッグデータ・アナリティクスのソリューションに関しても、すでに財務・会計・経営支援での収益予測・需要予測にはじまり、サプライチェーンでの品質管理や物流(ロジスティクス)、販売在庫の最適化、さらには、マーケティングの自動化・最適化など、数多くの実績を積み上げているという(図2)。

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また、大本氏は、IoTで実効果を創出したケースとして、以下のような例を付け加える。

SAPジャパン
プラットフォーム事業本部
シニアディレクター(第一営業部部長)
大本修嗣氏
「IoT利活用のユニークなケースとして、スポーツ・ビジネスへの適用例が挙げられます。具体的には、センサーによって、選手の試合中の動きやトレーニング中の生体データを収集し、それと試合データとの相関分析によって、体調管理やトレーニング方法の最適化を図るといった例です。このIoT/アナリティクスのソリューションでも、SAP HANAの有用性が実証されましたが、我々は単に技術を提供するだけでなく、"SAP HANAのような技術を、どのような分野で、どう使うのが最も効果的か"を含めて、お客様によるIoT/ビッグデータの活用を支援しています。また、(ERPシステムの場合と同様に)グローバルの取り組みで得られた知見・ベストプラクティスを日本国内に横展開する取り組みも、積極的に進めています」(大本氏)。