富士通「SPARC M12」に見る 開発者のワザと矜持

性能と安定稼働を支える独創的な水冷ユニット

――これまで、SPARC64 XIIを中心に開発のポイントを伺ってきましたが、SPARC M12のシステム全体で言えば、ほかにも高速化に向けた創意工夫があったと思いますが。

山下ボードレベルで言えば、プロセッサとメモリ間の距離を大幅に縮め、データ転送の遅延を最小化したことが挙げられます。

――それはどのように実現したのですか。

山下さまざまな工夫がありますが、最も効いたのは新開発の冷却ユニットです。これにより、従来のように、サイズの大きなヒートシンクをプロセッサに装着する必要がなくなり、結果としてメモリをプロセッサのすぐそばに配置し、システムの性能を高めることが可能になりました。

──その冷却ユニットとはどのようなものなのですか。

田和それは、サーバ業界初の減圧気化技術を使った水冷ユニット「Vapor and Liquid Loop Cooling(VLLC)」です。このVLLCは、前世代のSPARC M10で使用していた装置内循環水冷技術「Liquid Loop Cooling(LLC)」に比べてプロセッサの冷却性能を約2倍に向上させています。

――水冷ベースということは、この技術はメインフレームから転用されたものなのですか。

田和おっしゃるとおり水冷そのものは富士通がメインフレームで長年にわたり使ってきた技術で、スーパーコンピュータでも使われています。ただ、SPARC M12のメインターゲットである一般的な企業の場合、データセンターに専用の水冷ユニットを設置しているケースは稀です。そこで、冷却性能が高い水冷方式の特長と、追加設備不要でメンテナンス性の優れた空冷方式の特長を併せ持ったVLLCを開発したわけです。

──VLLCの冷却の仕組みについて、もう少し具体的に教えてください。

田和文博氏
富士通株式会社
アドバンストシステム開発本部
実装技術開発統括部
田和文博氏

田和VLLCは、液体が気体に変化する時の気化熱を利用した冷却方式です。この気化熱を利用することで単純に水を循環させたときよりも10倍以上熱伝達率を改善しました。そして、気化現象で回収した熱をラジエータ部に移動させて、送風によって冷却します。発熱部から離れたところで排熱を行うため、CPU周辺に巨大なヒートシンクを実装する必要がなく、プロセッサとメモリ間の距離を最短にすることを可能にしました。

プロセッサとメモリ間の距離を短縮 プロセッサとメモリ間の距離を短縮
※クリックすると拡大画像が見られます

──とはいえ、水を蒸気に変化させるということは水温が沸点の摂氏100度になるということですか? これではプロセッサを冷やすことはできないと思うのですが。

田和いいえ、100度よりずっと低い温度で沸騰させています。VLLCは、配管を完全密閉して気圧を下げて、低い温度で沸騰するように調整しています。水は人に安全で、そのうえ比熱や伝熱性で見ると、最強の冷媒です。ですから、限られた空間でコンパクトに冷却性能を向上させるには、水の沸点を下げて使用するのが最適だったのです。

業界初!気化熱を利用した最新冷却システム特許出願済

動画:VLLCの仕組み

図3:VLLCの仕組み 図3:VLLCの仕組み
※クリックすると拡大画像が見られます

――失礼な質問かもしれませんが、水漏れの心配はないのでしょうか。

田和その点はどうかご安心ください。VLLCでは、基礎研究において富士通研究所と協調し、腐食に耐える素材を、長期信頼性評価を十分に実施したうえで選定しています。また、密封性や強度についても、徹底したチェックを全製品に対して実施しており、10年間にわたる耐久性(メンテンスフリー)を保証しています。従って、通常の使用で水漏れが発生することはありません。外的要因の事故で、万が一水が漏れたとしても、それを即座に検知して通報するシステムを製品の中に組み込んでいます。

――それならば、心配は不要ですね。

山下私たちが、SPARC M12の性能向上に全力を挙げることができたのは、まさにVLLCのおかげといって過言ではありません。仮に、この冷却技術がなかったとしたら、SPARC64 XIIプロセッサも結局は発熱量を抑えるために周波数を落とさなければならなかったでしょう。必要なコンポーネントのすべてを一貫して開発し、関連部門が一丸となって処理性能の最大化を追求し続けていること、そして長年にわたって蓄積されてきたノウハウのすべてがしっかりと継承されていることが、他のシステムベンダーにはない強みにつながっているのです。

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