システムのクラウド化をどう進めていくのか
今回の調査結果では、移行先のシステムは「クラウド」よりも「オンプレミス」の回答が多かった。これは、移行済み、移行計画ありの双方でも同様の傾向がうかがえた。その比率はほぼ2:1でオンプレミスが主流だ。オンプレミスへの移行をきめた理由については、「サポートが終了するため」のほか、「セキュリティリスクを回避する」「運用環境が変わらない」「ガバナンス強化」「最新OSのセキュリティ強化機能に期待」などの回答があがった。
しかし、これはクラウド化に対する否定的な傾向とは言えないだろう。さまざまな調査からは、多くのユーザーは、「いずれはシステムのクラウド化は避けては通れない」と考えているのが明らかだ。今回の調査結果からみられるのは、クラウドへの指向は強いものの、現実にはオンプレミスシステムの延命策をとりながら、クラウド化をゆっくりと進めたいという意識の表われではないか。そのことは、座談会参加者の話からもうかがえる。
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A氏
オンプレミス100%だったのが今は60%がクラウドです。その理由はデリバリーにおけるスピード感です。オンプレミスでは、今すぐ作りたいのに作れないので事業部門側と開発者側との乖離が起きてしまいます。だからすぐに使えるところに流れるわけです。今はクラウドの選択肢も広がっているので、グローバルで通信する際のセキュリティポリシーなど、自分たちに最適なものを選ぶことができます。
私たちにはお客様に提供しているサービスがたくさんあり、生まれては消えるので、そこにイニシャルのコストはかけられない。オンプレミスでは意味がないわけです。サービスの規模が大きくなってくると情報の扱い方の規模も変わってくるので、そのタイミングでオンプレミスに戻るのか、パブリッククラウドでいくのか、コストで判断します。売れなかったらすぐ閉じられるのがクラウドの魅力ですから。
F氏
SIerの立場では、EOSを契機にオンプレミスを検討されるお客様はほとんどいない印象です。昔であればハードウェアのEOSの話はSIerなどが在庫を抱えて対応するような話があったのですが、クラウドが出てきてからは、お客様はまずプライベートクラウドを作りたい、という話になります。ハードウェアではなく上位で動いているアプリケーションが大事なので、VMwareのライブマイグレーションを使ってプライベートクラウドのところに移行できないかというわけですね。
まだプライベートクラウドに移行したいというお客様が多いので、パブリックはこれからと思いますが、AWSしかり、Azureしかり、VMなどのライブマイグレーションなどが最近対応しているので、セキュリティとの兼ね合いなどで選択肢が増えていくのでしょう。プライベートにするかパブリックにするかで悩むお客様は多いですが、オンプレミスを選択肢に上げるお客様はあまり見かけないですね。
F氏
クラウドの活用の仕方は、3パターンあるのではないかと思います。資金もリソースも潤沢な会社であれば、プライベートクラウドを内製して活用していく。一般的な大手のエンタープライズの企業で、資金はあるけどリソースがないという場合は、プライベートクラウドの運用から構築のところを外部委託する。もうひとつは、資金はなくても自分たちで創意工夫してクラウドを運用していく。
C氏
FISCという指標にクラウド業界が対応してきたので、いよいよ金融業界でもクラウドを使おうかという機運が高まっています。私のところも、次期システムはクラウドでやろうかと前向きではあるのですが、問題は会計です。何か物を買うときに、承認をとって社長の決裁をもらってお金を払うのですが、クラウドは課金制です。明日インスタンスが欲しいというときに、明日社長に印鑑もらうのか。ITインフラのスピードに見合った制度をまず作らないといけない。
結局クラウドにしたところでオンプレミスくらいの稟議書決済の説明が必要になるというのでは意味がない。インスタンスは1分、2分で立ち上がるのに、稟議決裁に1カ月かかるというのでは全くメリットがないですから。また、開発の考え方がクラウドやアジャイルに全然マッチしていないと、仮想化に移行してもメリットが出てこない可能性がある。今でもCOBOLとか残っていますからね。それを仮想環境になったときどうするのかも考えなくてはいけない。
F氏
例えば、オンプレミスでConcurと同じような会計システムを作ったら、作った時が性能的なピークだと思うのです。財務系では税率など法令対応で変えないといけない部分がありますが、クラウドサービスは勝手に法令対応してくれます。オンプレミスでは自分たちでその都度、改修する必要があるので、業務システムの場合は常に最新の機能を使えることがクラウドのメリットだと思います。
C氏
逆にうちは、一度作ったものになるべく手を加えないことを信条にしています。セキュリティパッチなどもそうですが、本当に影響があることを確証できない限りはパッチを当てないという強い意識を持っています。クラウドでは勝手にパッチを当てられてしまう。その不安がデメリットとしてあると思います。
A氏
私たちの会社の部長陣は割とSaaSファーストで、基幹システムのところは変わっています。また、オンプレミスも含めてメンテナンスができる30代の中盤から下のエンジニアがクラウドネイティブになってきています。Solarisを知らない、Oracleを触ったことないという人たちですね。
F氏
それは共感します。新人のエンジニアを育てる場合に、オンプレミスのサーバのメンテナンスの知識を教えることに意味があるのかと思います。
座談会参加者によれば、ユーザーのクラウド指向は明確のようだ。ただし、パブリッククラウドよりもプライベートクラウドをまず構築したい、というユーザーが多いことが発言からうかがえる。
プライベートクラウドについては、参加者から「ただ仮想化しただけでプライベートクラウドだと考えている人が多い」「ハードウェアなどの増強やメンテナンスが必要なので、管理コストがかかることは理解しておかなくてはいけない」「プライベートの方がパブリックの方より安全、という根拠はどこにもない」という指摘があった。
プライベートクラウドが仮想環境であることは間違いないが、ただそれだけで「クラウド」だと言い切れないのは当然だ。リソースをオンプレミスシステムよりもはるかに効率的に利用できるのは仮想化のメリットだが、オンプレミスの時と同じように各部門へのリソースのデリバリーに手間やコストがかかっていてはメリットを最大限享受しているとは言い難い。自動化、セルフサービス化を進めて、IT部門の管理コストを低減させる目標を持つ必要がある。
また、指摘にもあったように、ハードウェアを自社で抱えていることには変わらないので、セキュリティやメンテナンスコストを増大させない施策も必要になるし、システム拡張の計画もあらかじめ立てておく必要があり、その際の予算獲得の手間も必要になる。
さまざまなシステム利用があるにせよ、コスト面を考えれば、プライベートクラウドのみの利用というよりも、パブリッククラウドも含めた複層的なITインフラを構築し、適材適所で利用していくというのが今後メインストリームとなってくるはずだ。
プライベートクラウドでは、インターネット上にダイレクトにアクセスできないようすることも可能だが、だからといって、プライベートクラウドの方が安全だとは言い切れない。Windows Server 2008/R2のEOSを無視して延命していたりすれば脆弱性リスクは高まるはずだし、ハードウェアのEOSがきても延命していれば同じことだ。
また、パブリッククラウドでも運営者がいくらセキュリティコストをかけているからといって、100%安全とはいえない。クラウド上の自社のデータを守るのはあくまでもユーザーの責務となっている。そのためのコストを削ることは、リスクの増大につながる。