ビジネスルール管理との差異
Decision Server Insightsで上述したようなアクション・ループを作り出すには、ビジネス担当者とIT担当者との協業によるルールの定義が必要となる。
その点で、「IBM ODM Rules」などの、従来のビジネスルール管理製品を扱うのと似ている。ただし、通常のビジネスルール管理製品とDecision Server Insightsとでは、さまざまな点で異なっている(下図参照)。
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このうち、最も大きな違いと言えるのが、ルール実行の状態(ステータス)を保持するかどうかだ。
まず、従来型のビジネスルール管理システムは、ビジネス主導で決めたルールに沿って、アプリケーションの処理を自動でコントロールすることに主眼が置かれており、ルールの実行は一度の処理で完結し、ステータスは保持されない。一方のDecision Server Insightsは、イベント起点で取るべきアクションをリアルタイムに決定するエンジンである。ゆえに、ルール実行後のステータスが、実行対象のエンティティ(事例での"彼"ような顧客)ごとに保持され、「顧客の"状態(ステータス)"の変化から、リアルタイムに適切な判断を下す」という仕組みが実現されているのである。
もちろん、大量のバッチ処理やトランザクションにおけるビジネスルールの変更や管理には、従来のビジネスルール管理システムのほうが適している。だが、顧客中心・顧客行動起点のリアルタイムのサービスを展開するうえでは、Decision Server Insightsのようなシステムがどうしても求められるのである。
広範な適用範囲
ところで、エンティティごとのステータスを保持し、イベントの発生に応じてリアルタイムなアクションに結び付けるためには、大量のデータを蓄え、高速に処理するための仕組みが必要とされる。その仕組みを支えているのが、IBMのインメモリ・データグリッド技術だ。Decision Server Insightsでは、データグリッドの広大なメモリ空間に「個客」に紐づく大量の情報を蓄積することで、顧客の年齢や現在の位置情報、過去のイベント、さらにはリアルタイム分析・予測に基づいた意思決定を可能としているのである。
「例えば、過去にさかのぼって、顧客の口座や行動などを調べるだけでも、一連の情報を大量に扱う必要があります。Decision Server Insightsでは、それをIBM WebSphere eXtreme Scale で培われた実績のあるインメモリ・データグリッドのテクノロジーで実現しているのです」と、日本IBMの小幡 礼氏(システムズ・ミドルウェア事業部 インテグレーション&スマータープロセス・テクニカルセールス 主任ITスペシャリスト)は説く。
小幡氏によれば、Decision Server Insightsには、インメモリ・データグリッドのほかにも、リアルタイム・イベント処理技術など、これまでIBMが成熟させてきたテクノロジーがさまざまに応用されているという。そのため、ルールの記述も自然言語に近いかたちで行うことができ、ビジネス部門の手でルールを設定・変更するのも容易であるという(下図参照)。
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さらに、Decision Server Insights の適用範囲もこれまで述べてきたような「マーケティング」領域だけにとどまらない。いわゆる「IoT(Internet of Things)」による製造プロセスの革新など、多岐にわたる分野への応用が可能だ。
「実際、海外のある半導体メーカーではすでに、工場での品質保証プロセスの効率化にDecision Server Insightsを役立てているのです」と、小幡氏は話す。同氏によれば、このメーカーでは、工場のあらゆる製造機器に備えられたセンサーからのデータをDecision Server Insightsへと集約し、製造過程で不具合が発生する兆候を事前に把握。不良品が出荷されるのを未然に防いでいるという。
リアルタイムに発生したイベントと、過去の情報からビジネス・エキスパートが下す意思決定を自動化し、有効なアクションへと結び付けるDecision Server Insights。それが、企業のビジネス戦略に与えるインパクトは決して小さくないだろう。今後の行方に注目が集まる。