インターネット端末の多様化が進み、HTML5の適用範囲が一層の広がりを見せるなか、注目すべき認定制度がスタートを切る。特定非営利活動法人Linux Professional Institute Japan(LPI-Japan)の「HTML5プロフェッショナル認定試験」がそれだ。その「Level-1」試験は新年(2014年)1月にリリースされるという。そこで本稿では、LPI-Japanの成井 弦 理事長にご登場を願い、KDDIウェブコミュニケーションズのエバンジェリスト、阿部正幸氏との対談に臨んでいただく。対談のテーマはもちろん、HTML5とその認定試験が、日本のWeb制作の現場に、いかなる変化、変容、あるいはイノベーションをもたらすかだ。
変化するビジネス、求められるHTML5
成井氏(以下、敬称略):まず始めに、ご意見を伺いたいのが、HTML5の必要性がなぜ高まっているかについてです。その背景事情をどうとらえておられますか。
阿部氏(以下、敬称略):私は以前、Web制作の現場にいました。その当時、インターネット端末の主流と言えばPCで、Webサイトのターゲットも、ほぼPCだけに絞られていました。そのため、「PCの利用者に、いかにして自分たちのコンテンツを見てもらうか」がWeb制作上の大テーマであり、PCの環境に合わせてWebページのデザインとコーディングが行われていたわけです。
阿部正幸氏
KDDIウェブコミュニケーションズ
エバンジェリスト
クラウドホスティング事業本部
フィールドマーケティング部
しかし、そのようなWeb制作のスタイルはもはや通用しません。PCのみならず、スマートフォンやタブレットでの閲覧/利用を考慮した(あるいは前提にした)Webサイト設計/サービス設計が必要とされているのです。言い換えれば、「生活者の手元にどのようなIT端末があるのか」、「そのIT端末を生活者がどう使っているか」を意識したWebサイト作り、サービス作りが重要になってきたということです。
成井:しかも、「生活者の手元にあるIT端末」がPCやスマートデバイスだけとは限らない。スマートテレビ/家電やデジタルサイネージ端末、ゲーム端末など、多岐にわたる機器がコンテンツ配信のターゲットなりえますよね。
阿部:まさにそうです。ですから今後は、コンテンツをPCユーザに「いかにして見せるか」ではなく、異なる端末を有する「いかに多く人に発信するか」にWeb制作の軸足が置かれることになるでしょう。また、結果として、Web制作サイドには、多種多様な機器に対応したコンテンツ/サービスをすばやく作る能力が求められます。HTML5は、この課題を解決するキー・テクノロジーとして、これからも重要性を増してくるはずです。
HTML5が切り開く“リッチ”な未来
成井:HTML5で、Web制作の生産性は具体的にどう変わると見ていますか。
阿部:例えば、Webコンテンツにビデオ配信の機能やリッチなユーザー・インタフェースを求めるならば、HTML5の活用は必須となるでしょう。というのも、HTML5の機能を使えば、リッチ・コンテンツの開発工数を大きく削減することが可能になるからです。
成井 弦氏
Linux Professional Institute Japan
理事長
成井:HTML5が持つそうした特性は、私が、この技術に大きく期待する理由の1つです。
これまでも、グラフィックス系/マルチメディア系の技術は、さまざまな業界/領域におけるIT活用のあり方を変容/進化させてきました。ですから、HTML5によるWebコンテンツのリッチ化が、ゲームやエンターテインメントの領域のみならず、多岐にわたる産業/領域に変化/変革のうねりを巻き起こす可能性は高いと言えるのです。実際、すでに米国の医療業界は、医療画像を閲覧するためのブラウザの標準技術としてHTML5を採用しています。また、スマートテレビの進化の方向性を見ても、今後は「HTML5」対応が標準になるはずです。
もう1つ、私がHTML5に期待する効果が、クリエーターと技術者の一体化――言い換えれば、クリエイティブな世界とITとの融合です。
ご存知のように、ハリウッド映画にしても、日本映画にしても、CGを巧みに活用した作品が大ヒットを記録しています。これはまさしく、ITの進化によって、クリエーターと技術との距離が縮まったことによる効果でしょう。そして、HTML5には、これと同様の効果をWebの世界にもたらす可能性が大いにあるのです。