阿部:確かに、技術者だけが技術を知っていればいいという時代ではないですね。
ご存知でしょうが、オフショア開発やクラウドソーシングの影響により、国内におけるWeb制作費は今、下落の一途をたどり、Web制作会社の多くが苦しめられています。この厳しい状況の中で生き残るためには、顧客のビジネスの成功に寄与し、その見返りとして制作費を上げていくしかありません。そのために重要になるのが、技術に対する正しい理解であり、知識です。とりわけ、Web制作のプロデューサーやディレクターは、広範な技術についての知識を蓄え、「顧客のビジネスにとって、どの技術が最適か」を判断することができなければなりません。また同様に、「顧客のやりたいことを、どの技術を用いて、どう実現するか」についても明快に表現できなければならないでしょう。ですから、HTML5に関しても「何ができるのか」、あるいは、「それによって何がどう変わるのか」を、正しく理解しておくことが求められるのです。
成井:おっしゃるとおり、コーディングやプログラミングのオフショアリングは、日本でも当たり前の施策として行われています。
ですから、Web系のクリエーター/エンジニアは、クリエイティビティと技術力の双方を身に付け、磨き、自らの能力を一段高いところに引き上げいくことが不可欠と言えるのです。
また、単純なコーディングやプログラミングとは異なり、クリエイティブの部分を海外に出すというのは、日本の文化に依存する部分が多く、なかなか難しい世界です。その意味でも、クリエイティビティと技術力との一体化は重要な命題なのです。
認定資格がもたらすもの
阿部:そろそろ、この対談も終わりになりますが、ここで改めて確認させていただきたいのが、HTML5の認定試験(「HTML5プロフェッショナル認定試験」)を始動させた理由です。
成井:ご存知のとおり、LPI-Japanではこれまで、Linuxの認定制度を通じて、Linux技術者の育成を進めてきました。また、2011年からは、オープンソースデータベース(OSS-DB)技術者の認定制度も始動させ、インターネットのサーバサイド・テクノロジーに関しては、認定を通じた技術者育成のスキームを整えたことになります。そこで我々は次に、インターネットのクライアントサイドについても将来性の高い、重要なテクノロジーの認定制度を始動させる決断を下しました。そうして浮上したのがHTML5であったということです。
阿部:その認定制度自体にどんな効果を期待しているのでしょうか。
成井:この認定制度で我々が目指しているのは、日本における同技術の定着であり、普及であり、それによるWebプロフェッショナルの養成/能力アップです。
例えば、Linuxの認定試験については、これまでに国内23万人以上の方が受験され、うち8万人が認定資格を取得しています。その点で、この認定資格は、日本でのLinux技術者の底上げや、Linuxの普及、あるいはLinuxに対する理解の深化に大きく貢献したと言えるでしょう。
また、5年後の近未来を言えば、オープンソースDB技術者の認定制度であるOSS-DBの認定制度は、DBMSの中身についての理解を広げたという点で、高く評価されているはずです。
それと同じく、HTML5の認定制度も、5年後にはHTML5の内容や活用法を広め、HTML5プロフェッショナルの底上げ/養成に大きく貢献した制度として認知されているはずです。また日本では、LPI-Japanが独自に定めた学習環境基準をクリアした「アカデミック認定校」が数多くあります。ここでの教育も、HTML5に対する正しい理解を広げ、かつ深めるでしょう。
阿部:なるほど。それによって日本の技術力が底上げされて、オフショア開発に出されていた案件が日本に戻ってくるといいですね。
成井:それを目指しています。ちなみに、米国のECサイトでは、HTML5を利用した「Webパフォーマンス・オプティマイゼーション(WPO)」が非常に注目されています。しかし、日本の場合はそうではありません。WPOは、Webサイトのレスポンス品質を高め、低速なレスポンスによるビジネス機会の逸失を最小化するうえで非常に大切なものです。HTML5プロフェッショナル認定者がこのような分野でも活躍してもらえればと期待をしています。