新しいビジネスの創出や、社員の生産性向上などを目的として、エンタープライズITのモバイル対応が急速に進められている。一方でモバイル対応には、iOSとAndroidなど複数OSへの対応による開発負荷とコストの増大といった課題も多い。企業はモバイル対応にどのように取り組むべきか。数多くのモバイル案件を手がけてきたアシアル株式会社の代表取締役、田中正裕氏にお話を聞いた。
プラットフォームとしてのHTML5に早期から注目
今から12年前の2002年に創業したアシアル株式会社は、PHPによるシステム開発や、iモード対応の業務アプリの受託開発などを行っていたが、スマートフォンが登場した2008年ごろからは徐々にスマートフォンアプリの案件が多くなってきたという。当初、iOS版はObjective-C、Android版はJavaといった具合にネイティブアプリの開発がほとんどだったが、現在ではHTML5によるハイブリッドアプリの割合が増えているそうだ。HTML5への取り組みを始めた経緯を、アシアル株式会社 代表取締役の田中正裕氏は次のように振り返る。
アシアル株式会社 代表取締役
田中正裕氏
「HTML5は5年ほど前から注目して調査していました。従来のHTMLは、Webページの記述言語に過ぎませんでしたが、HTML5にはWebベースの標準技術でありながらパッケージングされたアプリケーションを構築できる、プラットフォームとしての将来性を強く感じたからです」
実際に現場で採用したのは、4年前のあるモバイルアプリの案件から。「コンテンツの比重が高いアプリだったのですが、ネイティブアプリとして作ると、コンテンツの構成が変わるたびに同じような作業を対応OSごとにそれぞれ違う言語で繰り返さなければならない。コンテンツの表示ならHTML5で十分ですし、コンテンツの更新にも都合がよかった」(田中氏)
その後、従来ならネイティブで開発するようなアプリもHTML5ベースで開発できることがわかり、HTML5を採用する件数が増えたという。一般にハイブリッドアプリは、GPSなどのOS機能の利用やUIの表現力に難があるとされているが、そうした弱点を補うために、アシアルではアプリ開発プラットフォームの「Monaca」や、UIフレームワークの「Onsen UI」といったツールを独自開発。これらのツールを使って、ハイブリドアプリの開発効率を上げている。
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「ネイティブアプリでも、画面周りはHTML5で開発するケースがあります。そうした案件を含めると、当社では画面開発の約9割はHTML5で行うようになっています。ホーム画面上で動作するAndroidのウィジェットなどOSへの依存度が高い部分はHTML5では作成できませんが、そうした部分を除けば、画面開発はHTML5で問題ありません」(田中氏)
クロスプラットフォーム性が高く、ライフスパンが長いHTML5
アシアルでは、案件に応じてネイティブアプリとハイブリッドアプリを使い分けているが、田中氏はHTML5によるハイブリッドアプリが本命だと見ている。アシアルがHTML5を強力に推す理由は、HTML5のクロスプラットフォーム性の高さにあると、田中氏は言う。
「ネイティブアプリの世界はOSに紐付いていて閉じられていますが、HTML5はOSの垣根を越えて裾野がどんどん広がっています。現在のところ、モバイルOSの主流はiOSとAndroidですが、Windows PhoneやFirefox OSなど、新しいOSが続々と登場しており、すべてにネイティブ対応するのは非現実的です。HTML5のハイブリッドアプリなら、そうした新しいOSにも容易に対応できます。さらに、スマートウォッチのような新しいデバイスのアプリも作成できます。ネイティブの開発部隊をいくつも抱えるのは相当な負担になりますが、さまざまなOS、さまざまなデバイスに1つの技術で対応できるHTML5には、開発体制を整えるうえでも大きなメリットがあり、工数の削減にも非常に効果的です」
また、ライフスパンの長さもHTML5の魅力だという。「ネイティブアプリは、OSのバージョンアップに応じてコードを修正しないと新バージョンで動かないといったことが間々あり、保守に手間とコストがかさみがちです。HTML5によるハイブリッドアプリは、OSのバージョン間の違いをHTML5が吸収してくれるので、ネイティブアプリに比べて手間とコストを削減できる。Web標準なので、ある日突然仕様が変わるという心配がない」(田中氏)