大命題は「生産を停止させない」こと
クラウドの特性を理解して基盤を構築
そのグローバル供給体制を確立すべく構築した生産管理システムが、「G-CPS」である。
G-CPS機能概要図
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「G-CPS」は、「製品仕様」「年間生産計画」「生産計画」など、生産管理の根幹をなす11の機能(オペレーション)をクラウドで運用する基盤である。年間計画から倉庫/在庫管理まで、サプライチェーン全体を一気通貫で連携させ、必要な情報を各サプライヤーとも共有する機能を提供する。
吉田氏は「クラウドはグローバルで同じ仕組みを共有します。ですから(G-CPSの)インフラの稼働状況もポータル上で一元的に可視化し、管理できるのです」とそのメリットを語る。
「G-CPS」を構築することで、これまで拠点ごとにばらばらに管理されていた品番や原単位、製造実績、購買単価などを統一化。その結果、年間計画案の精度向上や最適生産・安定供給ができるようになる。さらに、クラウド化によって他拠点からもリモートで生産管理ができるようになり、グローバルでの生産管理と人員の最適化を実現できるとのことだ。
とはいえ、生産管理システムをクラウド上で運用することに不安もあったという。「導入決定前の懸念項目は、セキュリティ、回線トラブル、安定性でした」と川口氏は説明する。
データ資産を狙ったサイバー犯罪は増加している。回線が止まったらデータにアクセスできない。さらにクラウド側での予期せぬ再起動やアップデートなどは、利用者では対応不可能だ。
それでもクラウド導入を決めた理由は何か――。川口氏は「こうした課題はオンプレミス環境でも抱えること。だから、『止まらないシステムはない』と腹をくくり、クラウドの特性とメリットを最大限活用できるシステムを設計しました」と語る。
情報資産をパブリック環境に置くことで情報漏えいのリスクが高まるという声は一部にある。しかし、オンプレミスで運用している場合には、自社でセキュリティパッチを検証/適用しなければならない。その手間を考えれば、常に最新のセキュリティ対策を講じているクラウドのほうが安全、かつ効率もよいのだ。
「また安定性は『万が一アクシデントが発生しても生産を停止させない』ことを第一にシステムを設計する」(川口氏)ことで、その懸念を払拭したという。
「AzureのSLA(Service Level Agreement)は、月間稼働率99.95%です。グローバルで稼働する基盤ですから、正直を言えば10分でも停止することは避けたい。しかし、オンプレミスなら停止しないと考えるのは間違いです。(クラウド環境でも)システム停止や回線切断があった場合でもビジネスを止めないように(システムの)要件定義に入れてバックアッププランを用意しました。重要なのは『停止することを前提にルールを策定する』こと。万が一の場合には、最小限のオンプレミス環境に切り替えて対応できる環境を構築すればよいのです。そうすれば、ミニマムコストで最先端のシステムが享受できる。そう考えると、クラウドを選択しない理由はなかったですね」(川口氏)
基幹システムのAzure活用効果
ジャンル | 項目 | Azureを使わない場合 | Azureを使う場合 |
---|---|---|---|
コスト | アプリ開発 | 拠点毎開発 | 世界共通アプリ 開発費:70%減 |
運用人数 | 拠点毎運用 | リージョン毎運用 人件費:65%減 | |
ITインフラ費用 | 拠点毎導入 | 世界共通インフラ 運用費:60%減 | |
調達スピード | ITインフラ手配 | 拠点毎手配 | IaaS/PaaS 調達リードタイム:90%短縮 |
最新技術の導入 | 柔軟に新しい技術を導入できるITインフラでは無いため、導入までに多くの時間・コストがかかる =枯れたシステムに・・・ |
Azureに新しい技術が日々組み込まれていくため、Azure上のシステムはそれらを何時でも利用可能=何十年も使えるシステムに! |
さらに吉田氏は、「様々なコストの低減」「先進的IT導入のし易さ」、そして「ITインフラ手配の手軽さ」もクラウドのメリットだと力説する。
「例えば、新しくシステムを立ち上げるには、設計、調達、導入など数カ月のリードタイムが発生します。一方、クラウドであれば、予算の枠内で構成を考え、柔軟にスケールアップしていけばよい。これまで数カ月単位でかかっていたITインフラの手配が数日間で完了します。よく言われていることですが、実際に利用してそのすばらしさを実感しました」(吉田氏)