コンピュータの分野で広く普及した有線/無線のネットワーク規格は、今やコンピュータどうしを結ぶだけでなく、特殊な機器どうしを接続する際にも使われている。その一つがプロ用音響システムだ。この、少し特別な環境のネットワークの現場で生じる課題に、ネットスカウトのネットワークテスタが活躍している。コンサートホールや劇場、多目的ホール、スタジアムなど大規模施設の音響システムを手掛けるヤマハサウンドシステムに、現場の実態を聞いた。
IPネットワークによる伝送が普及し、
品質を担保するツールが必要に
ヤマハのグループ会社で、音響システム設計・施工・保守などを手掛ける音響エンジニアリング会社、ヤマハサウンドシステム。各種施設の業務用音響システムに関しては半世紀以上にわたる経験を持ち、その納入実績は全国2,000件を超える。調査・提案から設計・システム構築、施工、音響測定・調整、保守・修理、そして関連機器の企画・開発まで、音響システムのライフサイクル全てを高品質に支える体制で、「音響」という文化貢献に努めている。
デジタル化は、同社が取り扱う業務用音響機器の分野でも進んできている。例えば音響システムの要となるミキサーは、古くは1980年代からデジタルミキサーが登場しており、発展を続けてきた。デジタル化の波は徐々に広がっており、機器内でのデジタル処理に続いて機器のコントロールにデジタル接続が取り入れられ、さらには機器どうしの接続にもデジタル伝送が取り入れられてきている。
「ユーザー側の意見もあって、アナログを残しつつデジタルも取り入れられてきましたが、今ではミキサーからパワーアンプまでIPネットワークによる伝送が広く使われるようになってきました。マイクなどの音声が、IP変換されてネットワーク機器を経由し、音響機器へ伝送されているのです。そのため、音響システムを構築するうえでネットワークは重要な通信インフラとなっています」と、開発企画部 開発課の髙久孝志氏は説明する。
ヤマハサウンドシステム株式会社
開発企画部
開発課 髙久孝志氏
伝送のデジタル化により、それまでのアナログオーディオに比べ多数のチャンネルを集約できるようになる。アナログ接続では一方の入力端子と他方の出力端子を1対1で接続するのが基本であるのに対し、デジタル接続なら双方向かつ1対多・多対多の通信が可能であり、より配線がシンプルになるため施工や保守の効率が高まり、ミスやトラブルも減らせるなどのメリットが得られる。また、ミキサーに代表される機器がデジタル処理を行うようになってきている以上、いちいち外部にアナログ変換して出力するよりデジタルのまま伝送した方が品質を維持しやすいといった点もポイントだ。
もちろん、新たな技術が現場に取り入れられるようになると、施工や保守における品質をいかに担保するかが課題となってくる。そこでヤマハサウンドシステムは以前からケーブルテスタなどの機器を購入し、物理的な伝送経路の施工品質の評価に活用してきた。
「イベントによっては実施者が音響機材を持ち込む場合も多いですが、施設の機材を一部でも利用するなら、そのインフラが止まってしまえばイベント自体が成り立たなくなってしまいます。安心して利用出来るネットワークを構築・維持することが欠かせません」(髙久氏)
このデジタル伝送のプロトコルは時代につれ変遷してきた。初期は独自プロトコルだったのが、髙久氏が先に語っているように、近年では一般的なIPプロトコルをベースとしたものになってきている。こうなると、IPアドレスの確認や、DHCPで割り当てるならDHCPサーバの動作検証など、現場で検査すべき項目も必然的に増えてくることになる。
「ネットワークの接続性や論理ネットワークの評価などには、PC上のツールを使う方法もありますが、我々の技術領域は一般的なIT系とは少し違う系統ですから、このようなツールを駆使してIPネットワークをシビアに評価できる人材は社内でも限られます。また、評価に使うOSやNICのドライバなどにより挙動が異なる、といった課題もあります。今後IPベースの案件が増えてくることは確実なのに対応が難しいとなると、スキルに依存せず均一な評価が行えるようなテスターが必要となってくるのです」(髙久氏)