企業向けにITインフラのクラウドサービス(IaaS)「absonne(アブソンヌ)」(以下、absonne)を提供する新日鉄住金ソリューションズ(以下、NSSOL)へのインタビュー。同社でIaaS開発の担当部長を務める早瀬久雄氏に、基盤システムのクラウド移行に不可欠な、パブリッククラウドサービス選択のポイントについて聞いた。
基幹システムのクラウド化で、解決すべき課題や疑問点
企業の「クラウドコンピューティング」の活用は、すでに当たり前のものとなりつつある。社外のクラウドサービスを利用するにしろ、自社のITリソースをクラウド化するにしろ、多くの企業が何らかのかたちで、クラウドを使っているはずだ。
ところが、クラウド化の波がなかなか及ばない領域がある。それは企業の基幹システムだ。大規模な基幹システムのクラウド化は、小規模システムのクラウド化以上に、コスト面でも運用面でもメリットが多いと言われている。しかし、安定稼働が求められる基幹システムの移行には慎重な検討が必要となり、メリットが理解されないまま二の足を踏んでいるというのが現状だろう。
一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)がまとめた「企業IT動向調査報告書2012」でも、ユーザー企業がクラウドコンピューティングに対して「不安」や「懸念」を感じる項目として、「本当にコストダウンするか」「セキュリティ対策は十分か」「自社システムとの連携が可能か」「サービス提供が中止されないか」といったポイントが上位に挙げられていた。基幹システムのクラウド化が浸透するためには、こうした課題や疑問を解決する必要があるのも事実なのだ。
基幹クラウド実現の要件は「スペックからは分からない」
新日鉄住金ソリューションズ
早瀬久雄氏
(ITインフラソリューション事業本部ITエンジニアリング事業部部長absonne2.0グループリーダー)
「特に基幹系のクラウド移行を検討しているユーザーが強く感じるこれらの不安要素については、カタログに載せられたスペックからだけでは評価が難しいと思います」と、NSSOLの早瀬氏は話す。
一般に、これまで社内で運用していたシステムを、できる限りシームレスにクラウドに移行したいという場合には、ハードウェアやネットワーク、OSといったインフラ部分を構築できるIaaSを選択し、その上に自社のシステムを展開するといった方法をとることがベストだろう。
しかし、そこで注意しなければならないのが、IaaS事業者の情報開示姿勢とそのサービス品質だ。仮想サーバのCPU数やメモリ容量、対応OS、ネットワークの帯域、ストレージ容量、それぞれの単位時間あたりでの価格といったカタログに記載されているような表面的なスペックばかりをうたう事業者が多いのも事実。
サーバの稼働だけでなく、その運用にかかるリアルなコストや、他ユーザーとのシステム共用の方式、他のシステムとの連携方法などの情報はあまり提供されない。ましてやクラウド事業者自体の事業継続性といった、不安を解消するための「本当に知りたい」情報を得るには、また違った観点での評価が必要になってくるというわけだ。
そうした業界慣習に疑問を持っていたNSSOLでは、基幹システムのクラウド移行のための指標として、「ミッションクリティカルクラウド」という概念を打ち出し、基幹システムのような重要なITインフラを運用するために必要なクラウド基盤の技術的要素や、通常なら公開しないデータセンターの見学会なども実施して積極的な情報公開を行っている。
では、ミッションクリティカルクラウドと一般的なパブリッククラウドサービスとの違いは何か。