企業独自の価値を活かすための「インテグレーション」「ライフサイクル管理」
基幹システムのクラウド化実現には、更に踏み込んだ条件が必要だと早瀬氏は語る。企業とともに成長してきた基幹システムの機能・特徴をクラウド上で再現できなければ、移行する意味がないからだ。高度なカスタマイズを可能にする「インテグレーション」と、継続的なシステムの成長を促す「ライフサイクル管理」がクラウド上で可能な事こそ、ミッションクリティカルクラウドの最後の要件である。
企業の競争力の差異は、それぞれの企業が有するビジネスプロセスの差異といっても過言ではない。競争力の源泉となるビジネスプロセスをシステムとして具現化したものが「基幹系」である以上、それをクラウド上に移行していくにあたっては、カスタマイズやシステム連係のためのさまざまな開発が必要となるケースが多くなる。
「多くのユーザーが“懸念点”として挙げているように、基幹系のクラウド移行にあたっては、クラウド上のシステムと既存システムとの連携をいかに実現するかが大切な要素のひとつになってきます。一般に、10や20のシステムとの連携が必要になるケースも多く、開発やテストのコストも無視することはできません」(早瀬氏)
「NSSOLの強み」が生かされるのは、基幹系システムに実績の多いシステムインテグレーターとして、このインテグレーションのためのエンジニアリングのノウハウを発揮できる部分にあるという。
「たとえば、absonneではお客様が現在使われているIPアドレスの体系を、クラウドへの移行後もそのまま流用することができます。これだけでも、現在のシステムのシームレスな移行と、移行にかかわる労力の削減という点でかなりのメリットが期待できます。合わせて、新規のインターフェースの開発体制、運用体制に関しても、高品質なサービスを提供できます」(早瀬氏)
また、absonneでは「SDCクラウド」と呼ばれる開発環境向けのクラウドサービスも提供している。SDCクラウドでは、本番環境と開発環境をabsonne上で統一することにより、テストや、最新ビルドの本番環境への適用、切り戻しなどを、より効率的に実施できる環境を実現する。単なるシステムの移行だけではなく、関連する開発ライフサイクル全体の利便性や、効率を高めるための仕組みにもなっている。
このような取り組みが評価され、absonneは新日鉄住金グループのみならず、既に運輸業や建設業の大手において、基幹システム(ERPなど)の構築・運用基盤として採用されているという。
「精緻な温度管理が求められる製鉄システムからはじまり、多くの基幹システムの構築、統合を手がけてきた技術力、複雑なシステムを自社データセンターで24時間365日安全に運用してきた経験と実績が、NSSOLの最大の強みです。多くの企業から評価をいただいたこの鋼鉄の信頼性を、クラウドの分野においても同様に示すことができる。そう自負しています」(早瀬氏)
今後、基幹システムを含めた形での大規模なクラウド化は、避けられない大きな流れになっていくと考えられる。事業活動の要となる基幹システムのクラウド化にあたっては、こうした「カタログスペックには表れにくい」基盤の信頼性と、クラウド事業者のエンジニアリング能力の有無を、ユーザー自身で冷静な目で見極めることが、成功への近道になるだろう。