DNAの修復機構を制御する新たな因子を解明 低線量のがん放射線治療への応用などに期待 --- 東京工科大学大学院バイオニクス専攻

東京工科大学

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2020-06-18 02:05




東京工科大学(東京都八王子市、学長:大山恭弘)大学院バイオニクス専攻の西良太郎准教授らの研究グループは、ゲノムDNAの損傷を修復する機構を制御する新たな因子として、USP42というタンパク質を同定しました。同タンパク質は、電離放射線などによって生じるDNA二重鎖切断(注1)(以下、DSB)の修復機構のうち、忠実性の高い相同組換え修復を促進することが示されました。同因子をがん細胞において阻害することで、より低線量でのがん放射線治療への応用などが期待されます。
本研究は、立命館大学生命科学部、金沢医科大学医学部、京都大学大学院生命科学研究科附属放射線生物研究センター、国立がん研究センターとの共同によるもので、英科学誌「Oncogenesis」(IF:5.995)オンライン版に2020年6月15日に掲載されました。




【背景】
 生物のゲノムDNAは、様々な要因により常に傷を受けています。DNA修復機構によってこの損傷が適切に修復されることが、正常な生命活動には必須です。ゲノムDNAは、細胞核の中でタンパク質やRNAから構成される様々な核内構造体と共存していますが、それらがDNA修復に果たす役割はあまり分かっていませんでした。電離放射線や抗がん剤等によって生じるDSBは、複数の機構によって修復されることが分かっていますが、本研究では忠実性の高い「相同組換え修復」に着目し、核内構造体の一つである核スペックル(nuclear speckle)(注2)が、この修復機構に及ぼす影響を明らかにすることを試みました。

【成果】
 核スペックルを構成する因子のうち129種類の因子をsiRNA(注3)によりノックダウン(注4)し、相同組換え修復活性に及ぼす影響をレポーターアッセイ(注5)により探索しました。その結果、複数の新規因子がこれに関与することが示唆されました。これらの新規因子のうち、USP42タンパク質がDSB発生後のヒト細胞の生存に必要であり、複数のDSB修復経路の中から相同組換え修復が選択されるように機能していることを明らかにしました。またドメイン解析から、上記の機能を果たすにはUSP42が核スペックルに局在する必要があることが示されました。さらに、相互作用する因子の解析から、DSB発生後に生じるDNA-RNAハイブリッド構造の解消がUSP42による相同組換え修復促進の分子メカニズムとして重要であることが示唆されました(図1)。

【社会的・学術的なポイント】
 本研究により、核内構造体によって制御されるDSB修復機構の一端が明らかにされました。特に、ゲノムDNAのなかでも転写され、タンパク質となる領域に生じたDSBは、相同組換え修復によって修復される傾向が報告されていましたが、本研究結果はその分子実体を示唆しています。また、放射線によって生じるDSB修復の理解が進むことにより、例えば、本研究で同定した因子をがん細胞において阻害することで、より低線量での放射線治療につながることが期待されます。



図1:本研究から考えられるモデル

USP42及びDHX9を介したDNA-RNAハイブリッド構造解消は、nuclear speckle近傍に発生したDSBの相同組換え修復による修復を促進する。

【研究サポート】
 本研究は、文部科学省科学研究費補助金、第一三共生命科学研究振興財団、持田記念医学薬学振興財団、武田科学振興財団、上原記念生命科学財団のサポートを受けています。

【用語解説】
(注1)DNA二重鎖切断(DNA double-strand breaks: DSBs):DNAの二重らせんの両方の鎖が切断される型のDNA損傷であり、電離放射線やある種の抗がん剤によっても生じることが知られている。
(注2)核スペックル(Nuclear speckle):哺乳類細胞において核に約20から50個存在する不定形の構造体であり、主に転写因子、スプライシング因子、mRNA等から構成され、それらの貯蔵庫として機能する可能性が示唆されている。Nuclear speckleの周辺部位には転写が活発に行われている遺伝子領域が集合している。
(注3)siRNA(short interfering RNA:):一般に約20から25塩基からなる短鎖2本鎖RNA分子である。RNA干渉において相補性のあるmRNAと結合し、特異的な分解を誘導する。
(注4)ノックダウン:遺伝子の機能を大きく減衰させるが、完全には欠失させない状態にすること。
(注5)レポーターアッセイ:遺伝子発現を検出する手法の一つ。本研究では緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein: GFP)遺伝子の発現を検出している。

■東京工科大学大学院 分子生物学(西良太郎)研究室
[研究内容]
我々を構成するもとになる遺伝情報が保存されているゲノムDNAは安定に維持される必要があります。ところが、ゲノムDNAは様々な要因、例えば紫外線などの外的な要因やDNA複製のエラーなどの内的な要因、により常に傷(DNA損傷)を受けています。生物は多様なDNA修復機構により、タイプの異なるDNA損傷を修復し、DNA損傷に起因する有害な事象を防いでいます。発生したDNA損傷が修復されなかった場合や、不適切な修復が行われた場合には、細胞死、細胞のがん化が誘発されることが知られており、DNA修復機構が生物にとって重要な役割を果たしていることは明らかです。 本研究室では、DNA損傷のうち電離放射線や抗がん剤等により生じるDNA二重鎖切断(DNA double-strand breaks: DSBs)の修復機構を主にヒト細胞を用いて解明する研究を行なっています。
[主な研究テーマ]
1.ユビキチン化によるDSB修復制御機構の解明
2.核内構造体とDSB修復機構のクロストークの解明
(リンク »)

【本件のお問い合わせ先】
東京工科大学大学院バイオニクス専攻
准教授 西良太郎(ニシ リョウタロウ)
Tel 042-637-2403(研究室直通)
E-mail nishirtr(at)stf.teu.ac.jp
※(at)は@に置き換えてください

【リリース発信元】 大学プレスセンター (リンク »)
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